Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
82 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十八話 迫る暴威(1)

しおりを挟む
   ◆◆◆

  迫る暴威

   ◆◆◆

 アランが関所を出発して二週間後――

 長い谷間の道をようやく抜けたアランは、眼前に広がる平原の景色に心を洗っていた。
 ずっと崖に挟まれていたせいか、広い景色が目に心地よい。
 そして、遠くにクリスの城が見える。
 自然とアランの心が引き締まる。その時は、別れを告げる時は近い。
 
   ◆◆◆

 一方、穏やかなアランに対し、偉大なる者の地は緊張に包まれつつあった。

「クレア様!」

 従者の一人がノックも無しに、主人であるクレアの私室に踏み込む。

「騒々しいですね。何があったのです?」

 ソファーに腰掛けたまま至って冷静に尋ねるクレアに対し、従者は慌てた様子のまま口を開いた。

「軍が! ヨハンが軍を連れてこっちに向かってきています!」

 この言葉に、クレアは思わず立ち上がった。

   ◆◆◆

 クレアは十名ほどの側近だけを連れて外に出た。

「……」

 目の前にある光景に、クレアは何も言えなかった。
 軍隊が屋敷を包囲している。
 クレアは周囲を見回して状況を確認した後、正面にいるある人物を睨み付けた。
 その人物、ヨハンはクレアの目線に対し白々しい礼と笑みを返した後、ゆっくりと前に歩み出た。
 その背後に、カイルを含む側近達が列を成す。
 そして、クレアも同じように側近達を連れて前に歩き出した。
 互いの距離が縮まる。
 二人の表情は変わらない。クレアの目つきは鋭く、ヨハンは不気味な笑みを張り付かせたままだ。
 そして、声がはっきりと届く距離になった所で二人は足を止めた。
 互いの表情がはっきりとわかる距離。ヨハンが浮かべている笑みに、クレアは苛立ちを強めながら口を開いた。

「一体どういうつもりなのです、ヨハン」

 ヨハンは表情を変えずに答えた。

「クレア様、今日は話し合いに参りました」

 話し合い? 馬鹿にしているのか。
 クレアは怒りを面に出さないように意識しながら、その話し合いとやらの内容を尋ねた。

「何を話すのです?」

 ヨハンは笑みをそのままに、顎鬚をいじりながら答えた。

「……クレア様、お孫さんの魔法能力は開花しましたか?」

 白々しい。分かっていて言っているはずだ。
 まだるっこしい。少しずつ追い詰められている、そんな気がする。
 苛立たしい。だから、

「……いいえ」

 クレアはそう答えるだけで精一杯だった。
 これにヨハンはわざとらしく小さなため息を吐いた後、口を開いた。

「……それでは困るのですよ、クレア様」

 そして、ヨハンはその顔から笑みを消し、言葉を続けた。

「示しがつかないのですよ。周りの者達に対して」

 それがどうしたと言うのだ。まさか――
 ヨハンはそのまさかを口に出した。

「ですのでクレア様、あなたのお孫さんの身柄を我々、教会に預けて頂きたい」

 ふざけるな。クレアはそう声を上げそうになったが、ぐっと堪えた。
 教会に、ヨハンに孫エリスの身柄を預ける。それがどういう意味を持つのか馬鹿でも分かる。人質を取られるということだ。
 クレアは怒りを抑えながら口を開いた。

「そのようなこと、この私が許すとでも?」

 が、その言葉には僅かに怒気が滲んでいた。
 そして、この答えが予想通りであったヨハンは、即座に次のように言い放った。

「従って頂けないのならば、我々はクレア様の気が変わるまで粘り強く待たせていただきます」

 待つ――それがどういう行為なのかはすぐに明らかになる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

処理中です...