Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(10)

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 女が地を蹴り、雲水が溜めた力を居合いで放つ。
 三日月が割れ、生まれる嵐。
 しかし当たらない。かすりもしない。
 雲水がわざと外したように見えるほどに。
 雲水は先と同じく、回避先を予測して三日月を放った。
 しかしその予測は以前のシャロンに対して使っていたもの。今回はそれが完全に裏目になった。

「っ!」

 やはり駄目か、雲水はそんな思いを込めた歯軋りをしながら、構えを水鏡流本来のものに戻した。
 しかしまさか記憶から何まで全て変わるとは思わなかった。
 これではいくら写しても無駄なのでは? こいつの意識は一体どうなっている?
 そんな思いが脳裏をよぎるよりも速く、女が目の前まで接近。
 女が右手にある針を発光させる。
 対する雲水も刃を輝かせる。
 そして二人は同時に叫んだ。

「「破ッ!」」

 二本の閃光が交差し、光の粒子が散る。
 その粒子が消えるよりも早く、女がさらに踏み込む。
 しかし二人の間合いは縮まらない。
 同じ速度で雲水が退がっているからだ。

「「疾ッ!」」

 同じ間合いのまま、二本の鋼が再び交錯。
 すぐさま女が再び踏み込む。
 地を這うような低姿勢の突進で刀の下に潜り込もうとする女。
 それを見た雲水が、上に向けていた刃を下向きに返しつつ、振り下ろす。
 同時に、女は針を突き上げるように放った。

「蛇ッ!」「断ッ!」

 蛇のように地から跳ね上がる閃光と、斧のような斬撃がぶつかり合う。
 耳に痛いほどの金属音と、先には無かった火花が散る。
 しかし違うのはそれだけでは無かった。

「!?」

 今度は女が後ずさった。押し負けた。
 そして直後に踏み込んだ者も逆。

「斬ッ!」

 後ろによろめいた隙を突いて雲水が水平斬りを放つ。
 これを女は針で受け止めたが、

「くっ!」

 雲水の刃はその細い盾を吹き飛ばし、女の腹を薄く撫でた。
 たまらず、後方に大きく跳び下がる女。

「……」

 雲水は追わず、その場で構えを戻すだけに留めた。
 妙だ、と思ったからだ。
 女が弱くなったように感じる。これでは交代した意味が無い。
 先の一合の間に虫から送られて来た報せによると、この女の意識、神経は針の方にはあまり向けられていないようだ。
 針の扱いはシャロンほど得意では無い、ということだろうか?
 雲水がそんな疑問を抱いた直後、それを察知した女が自ら答えた。

「その通りだ」

 女は視線を針のほうに向けながら言葉を続けた。

「やはりこれは私には合わないらしい」

 私の得手は先ほど見せたように体術だ。この右手にある長物とは間合いが噛み合わない。
 しかし捨てるとシャロンに文句を言われてしまう。この特殊な形状の武器は簡単に手に入る代物では無いからだ。
 だから困っている。

「どうしたものか……」

 そんなことを言いながらも、女は楽しそうであった。
 戦いを楽しむところは同じか、そんなことを雲水が思った直後、女は口を開いた。

「そうだ、こうすればいい」

 言いながら、女は左手の人差し指を刺突剣の握りの部分に当てた。
 幸いなことに、この刺突剣は刀身と鍔、そして握りの部分をそれぞれ分解可能な、組み立て式のものだ。
 女の人差し指は刀身と握りを接続している金属部品、刀でいうところの目釘に当てられていた。
 それを外すための道具は当然持っていない。しかし女には光魔法がある。
 女は人差し指に意識を集中させ、その先端を輝かせた。
 軽い金属音と共に部品が外れる。
 そして女は針を右手で持ちながら左手で握りと鍔を取り捨てた。
 これにシャロンは少しだけ文句を垂れたが、女はこれを無視した。
 新しい鍔と握りの入手は難しく無いからだ。大抵の鍛治屋で出来る。新調するのが難しいのは針の方だ。
 そして女は本当にただの太い針になったそれを右手に持ち直した。
 しかしその持ち方は普通では無かった。
 普通は親指と人差し指で輪を作るようにして握る。
 が、女は中指と薬指の間に針を通し、そのまま握り締めた。
 まるで握り拳から針が生えたかのような見た目。
 これに女は不満足そうな顔を浮かべた。
 見た目が悪いからではない。このままだと扱いにくいからだ。

(これだと重心が前に出すぎている。出来るだけ短く持ったほうがいいな。針を肘のところまで下げて……だめだ。これだと針がふらつく。何か固定するものを……)

 そう思った女は胸元に手を伸ばし、襟元から布を細く引き裂いた。
 雲水の攻撃ではだけていた胸元がさらにあらわになる。
 しかしこれにはシャロンは文句を言わなかった。
 そして女は破り取った布を腕に巻きつけ、針を固定した。

「これならよさそうだ」

 その確かな感触から、女は顔に満足感を浮かべながら、

「お待たせした」

 再開を宣言した。
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