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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ
第四十八話 人馬一体(1)
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◆◆◆
人馬一体
◆◆◆
アランの号令が戦場に響いたと同時に全部隊が前進を開始した。
足の速い部隊が、アンナの騎馬隊が自然と最前に出る。
ディーノの部隊はアンナの部隊に守られるように後方に。
これはアランの指示であった。
この戦いでは絶対にディーノを死なせるわけにはいかないからだ。
理想を言えばほぼ無傷の圧倒的勝利をアランはこの戦いに欲していた。
そしてそのディーノを倒せる唯一の可能性を持つ部隊が、重さと速さを兼ね備えた敵の騎馬隊がアンナを迎え撃つように動き始めた。
「……」
その動きをレオン将軍は高所から静観していた。
先ほど響いた言葉がレオン将軍の心の中でこだましていた。
「あなたは彼女を見るべきだ」と。
「彼女は間違い無く、あなたを驚かせてくれますよ」と。
ならば魅せてもらおう、レオンはそんな心構えで戦場を見つめていた。
レオンの瞳の中で双方の距離が縮む。
瞬間、レオンは気付いた。
(まだ撃たない?)
既に射程内であるにもかかわらず、アンナが光弾を発射しないことを。
まさか開幕から突撃するつもりなのか、レオンがそんなことを思ったのと同時に、敵の騎馬隊がアンナ達に向かって光弾を発射した。
直後、
「!」
目の前で繰り広げられたかつてない光景に、レオンの目は見開いた。
アンナ達の馬同士の間隔が開いたのだ。
それが回避行動であることにレオンが気付いたのは、開いたその騎馬同士の隙間を、敵の光弾がすりぬけていってからであった。
そして直後、アンナ達は反撃の光弾を発射しながら旋回を開始。
突撃では無い、ならばなぜそこまで接近した?
レオンの中に浮かんだその疑問の答えはすぐに明らかになった。
アンナ達が放った光弾が敵の防御魔法を貫き、騎手を落馬させていく。
わざわざ接近した理由はこれ。防御魔法を確実に貫くためだ。馬を傷つけずに敵を無力化するためだ。
落馬した者が後続の騎馬に踏み潰されないように、狙いは両端の騎手に絞られている。
これはアランからの指示であった。
敵の戦力を出来るだけ削らずに勝利を掴め、それが指示の内容であった。
所詮こいつらは勝ち馬乗りの烏合の衆。勝敗が決すれば、残る戦力はそのまま飲み込める可能性が高いからだ。
「……?!」
だが、それを知らないレオンはなぜそんなことをするのか理解出来ず、ただ困惑するしか無かった。
二つの騎馬隊が一回転し、再びぶつかり合う。
そして繰り広げられた二度目の攻防に、レオンは、
「何?!」
とうとう、思わず声を上げてしまった。
アンナの部隊が細かく分裂したのだ。
一が四に、四から八に、八から十六に。十六から三十二に。
挟撃を狙うためや、相手の背後を突くために部隊を分けることはある。
しかしこれは明らかに違う。数え切れないほどの部隊数。
かく乱が狙いだろうか、レオンはそう思った。
驚くべきは、それぞれの部隊が独立して動いていること。
好き勝手に動いているように見える。
だがそれでも一つの基準、規則があった。
時にアンナを先頭に、時にアンナを中央に、他の部隊がまとわりついているのだ。
上から見下ろしているレオンからは、その動きはまるでアンナという砂糖に群がる蟻の群れのようであった。
しかし、衝突という事故が起きない。
いやそれどころか、部隊は時に「交差」している。
横をすれちがう、などという誰でも思いつくものでは無い。時に、二つの部隊が正面衝突していることがある。
だがするりとすり抜ける。まるで幽霊のように。
目を凝らせば隙間を縫っていることが分かる。最初に光弾を避けた時のように。
(なんだこれは?!)
どんな訓練を積めばこんな芸当が出来るようになる?
レオンの中に浮かんだその新たな疑問に対する答えは見つかる事無く、眼下で戦況は変化していった。
アンナ達が敵の攻撃を奇妙に避け、そして適切に反撃する。
敵の戦力がみるみるうちに削れていく。
部隊が細かく分かれ、旋回半径が小さくなったがゆえに、相手の旋回時に背後を突きやすくなったことが結果に表れている。
倍近くあった騎兵の数の差は、既に同数ほどにまで縮まっている。
だが、直後に敵は機転を見せた。
集団転倒を狙ったものでは無い、司令塔であるアンナへの一点集中射撃。
これは避ける隙間が無い。
どうする? という疑問をレオンが投げかけたのとほぼ同時に、アンナはその答えを見せた。
アンナの左右に張り付くように親衛隊の二騎が寄り添う。
同部隊の他の者達もそれに習う。
そして三騎一組になった者達は、同時に右手を突き出し、その手を輝かせた。
三枚の盾が一つに重なり、巨大な輝く壁を成す。
受ける必要の無い、射線に入っていない者達は光弾を発射。
双方の光弾がぶつかり合う。
そして数を減らした弾をアンナ達の壁が悠々と弾き飛ばす。
「……」
その見事な防御をレオンは無表情で眺めていた。
もはや驚きは無かった。
今のアンナならば先のような攻撃は脅威のうちに入らないだろう、レオンはもはやそう思うようになっていた。
だから、ただ感動だけがあった。
人馬一体
◆◆◆
アランの号令が戦場に響いたと同時に全部隊が前進を開始した。
足の速い部隊が、アンナの騎馬隊が自然と最前に出る。
ディーノの部隊はアンナの部隊に守られるように後方に。
これはアランの指示であった。
この戦いでは絶対にディーノを死なせるわけにはいかないからだ。
理想を言えばほぼ無傷の圧倒的勝利をアランはこの戦いに欲していた。
そしてそのディーノを倒せる唯一の可能性を持つ部隊が、重さと速さを兼ね備えた敵の騎馬隊がアンナを迎え撃つように動き始めた。
「……」
その動きをレオン将軍は高所から静観していた。
先ほど響いた言葉がレオン将軍の心の中でこだましていた。
「あなたは彼女を見るべきだ」と。
「彼女は間違い無く、あなたを驚かせてくれますよ」と。
ならば魅せてもらおう、レオンはそんな心構えで戦場を見つめていた。
レオンの瞳の中で双方の距離が縮む。
瞬間、レオンは気付いた。
(まだ撃たない?)
既に射程内であるにもかかわらず、アンナが光弾を発射しないことを。
まさか開幕から突撃するつもりなのか、レオンがそんなことを思ったのと同時に、敵の騎馬隊がアンナ達に向かって光弾を発射した。
直後、
「!」
目の前で繰り広げられたかつてない光景に、レオンの目は見開いた。
アンナ達の馬同士の間隔が開いたのだ。
それが回避行動であることにレオンが気付いたのは、開いたその騎馬同士の隙間を、敵の光弾がすりぬけていってからであった。
そして直後、アンナ達は反撃の光弾を発射しながら旋回を開始。
突撃では無い、ならばなぜそこまで接近した?
レオンの中に浮かんだその疑問の答えはすぐに明らかになった。
アンナ達が放った光弾が敵の防御魔法を貫き、騎手を落馬させていく。
わざわざ接近した理由はこれ。防御魔法を確実に貫くためだ。馬を傷つけずに敵を無力化するためだ。
落馬した者が後続の騎馬に踏み潰されないように、狙いは両端の騎手に絞られている。
これはアランからの指示であった。
敵の戦力を出来るだけ削らずに勝利を掴め、それが指示の内容であった。
所詮こいつらは勝ち馬乗りの烏合の衆。勝敗が決すれば、残る戦力はそのまま飲み込める可能性が高いからだ。
「……?!」
だが、それを知らないレオンはなぜそんなことをするのか理解出来ず、ただ困惑するしか無かった。
二つの騎馬隊が一回転し、再びぶつかり合う。
そして繰り広げられた二度目の攻防に、レオンは、
「何?!」
とうとう、思わず声を上げてしまった。
アンナの部隊が細かく分裂したのだ。
一が四に、四から八に、八から十六に。十六から三十二に。
挟撃を狙うためや、相手の背後を突くために部隊を分けることはある。
しかしこれは明らかに違う。数え切れないほどの部隊数。
かく乱が狙いだろうか、レオンはそう思った。
驚くべきは、それぞれの部隊が独立して動いていること。
好き勝手に動いているように見える。
だがそれでも一つの基準、規則があった。
時にアンナを先頭に、時にアンナを中央に、他の部隊がまとわりついているのだ。
上から見下ろしているレオンからは、その動きはまるでアンナという砂糖に群がる蟻の群れのようであった。
しかし、衝突という事故が起きない。
いやそれどころか、部隊は時に「交差」している。
横をすれちがう、などという誰でも思いつくものでは無い。時に、二つの部隊が正面衝突していることがある。
だがするりとすり抜ける。まるで幽霊のように。
目を凝らせば隙間を縫っていることが分かる。最初に光弾を避けた時のように。
(なんだこれは?!)
どんな訓練を積めばこんな芸当が出来るようになる?
レオンの中に浮かんだその新たな疑問に対する答えは見つかる事無く、眼下で戦況は変化していった。
アンナ達が敵の攻撃を奇妙に避け、そして適切に反撃する。
敵の戦力がみるみるうちに削れていく。
部隊が細かく分かれ、旋回半径が小さくなったがゆえに、相手の旋回時に背後を突きやすくなったことが結果に表れている。
倍近くあった騎兵の数の差は、既に同数ほどにまで縮まっている。
だが、直後に敵は機転を見せた。
集団転倒を狙ったものでは無い、司令塔であるアンナへの一点集中射撃。
これは避ける隙間が無い。
どうする? という疑問をレオンが投げかけたのとほぼ同時に、アンナはその答えを見せた。
アンナの左右に張り付くように親衛隊の二騎が寄り添う。
同部隊の他の者達もそれに習う。
そして三騎一組になった者達は、同時に右手を突き出し、その手を輝かせた。
三枚の盾が一つに重なり、巨大な輝く壁を成す。
受ける必要の無い、射線に入っていない者達は光弾を発射。
双方の光弾がぶつかり合う。
そして数を減らした弾をアンナ達の壁が悠々と弾き飛ばす。
「……」
その見事な防御をレオンは無表情で眺めていた。
もはや驚きは無かった。
今のアンナならば先のような攻撃は脅威のうちに入らないだろう、レオンはもはやそう思うようになっていた。
だから、ただ感動だけがあった。
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