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Ep.2 基地から回収された記録(1)

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  基地から回収された記録

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 それは宇宙で愛を叫び続けていた。与え続け、求め続けていた。
 されどそれに、いや、彼女に愛が返ってくることは無かった。
 彼女の子供達はそのように出来ていた。求めるが、返さない。
 ゆえに彼女の愛は常に一方通行のむなしいものだった。
 彼女はそれを豊かな知性で理解していた。
 だが、それでも彼女はあきらめなかった。あきらめられないのだ。
 だから彼女は叫び続けていた。

 そして、彼女はついにヒトと出会った。

   ◆◆◆

「~♪」

 一人の清掃員らしき男が、鼻歌を鳴らしながらホールを掃除していた。

「I LOVE YOU ~♪」

 ヘッドホンから流れ込んでくるその曲がよほどお気に入りなのか、男はその歌詞を自然と口から漏らしていた。

「PLEASE LOVE ME ~♪」

 人目など気にしない。そもそも、気にするほどの人間はもうこのホールにはいない。
 ここは空港の受付と同じ、宇宙基地の玄関口。
 混雑する時間は既に過ぎている。荷物や人の出入りはもう終わっている。
 だからその広間は不気味なほどに静かであった。
 されど、人がまったくいないわけでは無かった。

「ごくろうさん」

 地球で言うところの、夜勤を担当している職員の挨拶が受け付けから響いた。
 幸いにも、ヘッドホン越しからでもその挨拶は聞こえた。
 だから清掃員の男は挨拶を返した。

「そっちこそおつかれさん。最近はやけに忙しいみたいだが、なにかあったのか?」

 これに受付の男は答えた。

「ああ、なんか妙なものがあちこちで見つかったらしくてな。その調査のために物資や人が激しく移動しているらしい。それでも俺は暇を持て余してるがね」

 その答えに興味を惹かれた男は重ねて尋ねた。

「妙なものって?」
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