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23.母親泣かせの想い人
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「ねぇ、お母さん。他人の友達を貶す男子ってどう思う? そういう陰口叩いて好かれるとでも思ってるのかなぁ?」
夜になっても、やっぱりモヤモヤしてしまったので、夕食のときにお母さんに持ち掛けたのは、ほんの出来心だ。
ほら、客観的に見ると新たな視界が開けてくるって言うじゃん。もちろん、告白のことは言わないけど。
「多分だけど、その男子、それを陰口だと思ってないのよ」
「そうなの?」
そういうものなの? でも、他人の過去をほじくり返すなんて、陰口以外の何物でもないと思うんだけど。
「そういう人はね、自分はこういうことも知ってるんだ。だから自分と付き合った方がお得だぞっていう売り込みをかけてる気分だと思う。陰口じゃなくて、助言だと思ってるのね」
「でもさー、中学のときなんて、誰だって恥ずかしい失敗とか残念なエピソードとかあるじゃん? それを年単位で時間が過ぎてるのに掘り返すのって、陰険じゃん」
「……」
あ、なんかお母さんがニコニコしてる。ちょっと気持ち悪い。
「なに?」
「うぅん。我ながらいい子に育てたなーって思って」
「普通、そこはいい子に『育った』って言うところだと思うの」
「育てたのは私だもん」
えっへん、て胸を張らなくてもいいよ、お母さん。最近、お腹気になってるんでしょ? お腹まで目立つよ? その体勢。
「もしかして、柚香がよく話してくれる、梓ちゃんのことで何か言われたの?」
「そうなの。ちょっとショック。どうして誤解するかなぁ」
「まぁ、ちょっと複雑な家庭環境みたいだから、そういう色眼鏡で見られがちなんでしょ。人って事実はどうあれ、面白いものに食いつくから」
お母さん、何か達観してるね。毎週某女性誌を買ってるとは思えない口振りだよ。
お母さんの言うことも分からなくはないんだ。梓ちゃんのうちは、お母さんが早くに亡くなって、実のお父さんと、お母さんの弟さんとの3人で暮らしてる。お母さんの弟さん――叔父さんも、自分のことを「お父さん」て呼ぶように言ってるせいで、なんかホモップル疑惑が出てしまったらしい。
「なんだかさぁ、残念だよねぇ」
「何が? その男子が?」
「そう。クラスでは人気者なんだと思う。でも、梓ちゃんのことを悪く言ったりさ、その時その時で場を沸かせるために、誰かをいじってるのもよく見るし」
そうなんだ。七ツ役くんの近くにいるから、つい目に入るんだ。告白されてからちょっと気をつけて丹田くんを見ていた、っていうのもあるんだけど。
「テレビ番組でも芸人さんでよくあることじゃない。あれは仕事だし、いじってる側が先輩さんだったりするから成り立ってると思うのよね。でも、子供って何でも真似したがるから……知ってる? お母さんの若い頃、ああいう人たちが出るテレビ番組を有害だったPTAが騒いだことがあってね」
「モンペ?」
「今ならそう言うのかしら? 子供が真似するから放送するな、とか、いじめを助長する、とかいう理由だったと思うんだけど、当時は『そうならないように、親がしつけすればいい話じゃん』って思ったのよね」
お母さんの言いたいことも分かる。極端な話、戦争をモチーフにした映画と、子供が戦争の真似するから流すなって主張するのと同じだよね。え、違う?
「なぁんか、面倒くさいよね……」
色々考えて、ついこぼれ出た私の言葉に、お母さんは空になったお皿を私の前に積み重ねながら「悩め悩め」と煽る。
「ま、その男子にはできるだけ近寄らない方がいいんじゃない? 会話するたびに不快になってストレス溜まるのも困るでしょ。社会人だとそういかないこともあるけど、学生のうちなら友達でもない同級生と距離とったって問題ないじゃない」
「それもそうだね」
うん、やっぱり今後も丹田くんは無視でいこう。
そう心に決めて、私は二人分のお皿を持って台所に向かった。
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
「別役さん、ちょっと聞いてもいいかな」
なんっでも聞いてつかぁさいっ!
思わず敬礼してウェルカム状態になりそうになったけど、そこはぐっと堪えた。
まだ風邪が治りきってないのか、マスクをしたままの七ツ役くんと、放課後、例の本屋にて遭遇したところで、急に話し掛けられた。え、七ツ役くんの方から話し掛けてくるって、結構レアだよね。10回中1回ぐらいしかないぐらいレア。
「なに?」
餌を待つわんこのようにテンションが上がるのを何とか内側に押し込めて、できるだけ感情が洩れないように返事も2文字に留める。我ながらよくやった。
「丹田と、なんかあった?」
あ、ぐさっと来たよ。うん。それはNGワードだよ。まぁ、完璧に無視ぶっこいてるし、宇那木さんあたりは何があったか勘付いてそうな気もするけど。
「あー、まぁ、詳しいことは話せないけど、考え方に大きな違いがあったんだよ」
「でも、丹田は……」
言い澱む七ツ役くん。あー……、憂い顔も美味しいんだけど、それが丹田くんのせいだと思うと腹立たしいよね。でも、我慢我慢。冷静になるのだ、私。
「もしかして、丹田くんからなんか相談されてた?」
「ごめん。結構相談されてた。前にこの本屋に丹田が来たのもそのせい」
「そうだよね、仲いいもんね」
私と梓ちゃんみたいなパターンか。本当に勘弁して欲しいよ。どうして私の好きな人に告白のアシストされないといけないわけ? ますます丹田くんに対する苛立ちが募る。
「端的に言うと、お断りしたんだ。それでも……って言ってきたんだけど、どうしても合わない部分があったのと、許せない失言?があったから」
「丹田は悪いやつじゃないよ」
「そうかもしれない。でも、私は別に好きな人がいるし、何より、私の大事なものを貶されたから、もう、なんていうか、無理なんだよね」
私がちょっと強めに言うと、七ツ役くんは困ったように頭を掻いた。
うん、そうだよね。丹田くんは七ツ役くんにとっては友達だもんね。困ったなぁ、って感じはすごく伝わる。でも、それはそれ。これはこれだ。
夜になっても、やっぱりモヤモヤしてしまったので、夕食のときにお母さんに持ち掛けたのは、ほんの出来心だ。
ほら、客観的に見ると新たな視界が開けてくるって言うじゃん。もちろん、告白のことは言わないけど。
「多分だけど、その男子、それを陰口だと思ってないのよ」
「そうなの?」
そういうものなの? でも、他人の過去をほじくり返すなんて、陰口以外の何物でもないと思うんだけど。
「そういう人はね、自分はこういうことも知ってるんだ。だから自分と付き合った方がお得だぞっていう売り込みをかけてる気分だと思う。陰口じゃなくて、助言だと思ってるのね」
「でもさー、中学のときなんて、誰だって恥ずかしい失敗とか残念なエピソードとかあるじゃん? それを年単位で時間が過ぎてるのに掘り返すのって、陰険じゃん」
「……」
あ、なんかお母さんがニコニコしてる。ちょっと気持ち悪い。
「なに?」
「うぅん。我ながらいい子に育てたなーって思って」
「普通、そこはいい子に『育った』って言うところだと思うの」
「育てたのは私だもん」
えっへん、て胸を張らなくてもいいよ、お母さん。最近、お腹気になってるんでしょ? お腹まで目立つよ? その体勢。
「もしかして、柚香がよく話してくれる、梓ちゃんのことで何か言われたの?」
「そうなの。ちょっとショック。どうして誤解するかなぁ」
「まぁ、ちょっと複雑な家庭環境みたいだから、そういう色眼鏡で見られがちなんでしょ。人って事実はどうあれ、面白いものに食いつくから」
お母さん、何か達観してるね。毎週某女性誌を買ってるとは思えない口振りだよ。
お母さんの言うことも分からなくはないんだ。梓ちゃんのうちは、お母さんが早くに亡くなって、実のお父さんと、お母さんの弟さんとの3人で暮らしてる。お母さんの弟さん――叔父さんも、自分のことを「お父さん」て呼ぶように言ってるせいで、なんかホモップル疑惑が出てしまったらしい。
「なんだかさぁ、残念だよねぇ」
「何が? その男子が?」
「そう。クラスでは人気者なんだと思う。でも、梓ちゃんのことを悪く言ったりさ、その時その時で場を沸かせるために、誰かをいじってるのもよく見るし」
そうなんだ。七ツ役くんの近くにいるから、つい目に入るんだ。告白されてからちょっと気をつけて丹田くんを見ていた、っていうのもあるんだけど。
「テレビ番組でも芸人さんでよくあることじゃない。あれは仕事だし、いじってる側が先輩さんだったりするから成り立ってると思うのよね。でも、子供って何でも真似したがるから……知ってる? お母さんの若い頃、ああいう人たちが出るテレビ番組を有害だったPTAが騒いだことがあってね」
「モンペ?」
「今ならそう言うのかしら? 子供が真似するから放送するな、とか、いじめを助長する、とかいう理由だったと思うんだけど、当時は『そうならないように、親がしつけすればいい話じゃん』って思ったのよね」
お母さんの言いたいことも分かる。極端な話、戦争をモチーフにした映画と、子供が戦争の真似するから流すなって主張するのと同じだよね。え、違う?
「なぁんか、面倒くさいよね……」
色々考えて、ついこぼれ出た私の言葉に、お母さんは空になったお皿を私の前に積み重ねながら「悩め悩め」と煽る。
「ま、その男子にはできるだけ近寄らない方がいいんじゃない? 会話するたびに不快になってストレス溜まるのも困るでしょ。社会人だとそういかないこともあるけど、学生のうちなら友達でもない同級生と距離とったって問題ないじゃない」
「それもそうだね」
うん、やっぱり今後も丹田くんは無視でいこう。
そう心に決めて、私は二人分のお皿を持って台所に向かった。
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
「別役さん、ちょっと聞いてもいいかな」
なんっでも聞いてつかぁさいっ!
思わず敬礼してウェルカム状態になりそうになったけど、そこはぐっと堪えた。
まだ風邪が治りきってないのか、マスクをしたままの七ツ役くんと、放課後、例の本屋にて遭遇したところで、急に話し掛けられた。え、七ツ役くんの方から話し掛けてくるって、結構レアだよね。10回中1回ぐらいしかないぐらいレア。
「なに?」
餌を待つわんこのようにテンションが上がるのを何とか内側に押し込めて、できるだけ感情が洩れないように返事も2文字に留める。我ながらよくやった。
「丹田と、なんかあった?」
あ、ぐさっと来たよ。うん。それはNGワードだよ。まぁ、完璧に無視ぶっこいてるし、宇那木さんあたりは何があったか勘付いてそうな気もするけど。
「あー、まぁ、詳しいことは話せないけど、考え方に大きな違いがあったんだよ」
「でも、丹田は……」
言い澱む七ツ役くん。あー……、憂い顔も美味しいんだけど、それが丹田くんのせいだと思うと腹立たしいよね。でも、我慢我慢。冷静になるのだ、私。
「もしかして、丹田くんからなんか相談されてた?」
「ごめん。結構相談されてた。前にこの本屋に丹田が来たのもそのせい」
「そうだよね、仲いいもんね」
私と梓ちゃんみたいなパターンか。本当に勘弁して欲しいよ。どうして私の好きな人に告白のアシストされないといけないわけ? ますます丹田くんに対する苛立ちが募る。
「端的に言うと、お断りしたんだ。それでも……って言ってきたんだけど、どうしても合わない部分があったのと、許せない失言?があったから」
「丹田は悪いやつじゃないよ」
「そうかもしれない。でも、私は別に好きな人がいるし、何より、私の大事なものを貶されたから、もう、なんていうか、無理なんだよね」
私がちょっと強めに言うと、七ツ役くんは困ったように頭を掻いた。
うん、そうだよね。丹田くんは七ツ役くんにとっては友達だもんね。困ったなぁ、って感じはすごく伝わる。でも、それはそれ。これはこれだ。
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