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41.素敵な解禁(前)
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「このっ! ときをっ! 待っていたぁっ!」
天に向かって拳を振り上げた私は悪くない。それぐらい嬉しいことがあったんだ。誰もいない部屋で一人、歓喜に打ち震えたっていいじゃないか。
「お酒……解っ禁!」
あれから復調に努め、食べ物に気を遣い、適切な運動と適切な魔力循環をせっせと繰り返したおかげで、ようやく医者からお酒の許可が出ました!
監禁生活の最大の楽しみと言ってもいい晩酌が解禁なのであります! 今日のお酒は何にしよう、って浮かれたって仕方がないと思う。
――――だというのに。
「よし、行くぞ」
どうして私は晩酌、もとい、夕食の時間を前に、大魔法使いサマに拉致されているんでしょうねー……。
(絶対、あのお酒で解禁しようと思ってたのに……)
私は目の毒だからと棚の奥にしまい込んでいた瓶を思い出す。グース卿に買ってきてもらった中で、ちょっと高級で水みたいに飲めるやつ……! お酒臭さが少なくて物足りないけど、口当たりが良いやつから始めようと思っていたのに!
「一応確認なんだけど、どこに?」
「飲酒が許可されたんだろう? そういうときは快気祝いと称して飲みに行くものだと聞いた」
「え」
意外。意外過ぎる。誰だこの人にそんな知恵をつけたの。交友関係を知らないから、王太子殿下とグース卿しか思いつかないのだけど。
(誰だか知らないけど、ありがとうございまーす!)
ひっそり不特定の誰かに感謝を叫ぶ。心の中で。
あれ、でも待って? 飲みに行くってどこに? もしかして城の食堂とか……じゃないよね?
「掴まれ」
「え、ひゃわわわっっ!」
まさか塔の窓からダイブするとは思わず、襲い来る浮遊感に、私は慌てて手近なものを掴む。たとえそれが私を拉致した相手の袖だろうが、怖いものは怖い。
ぎゅっと目を閉じ、何度目かの衝撃の後、私を抱き上げたままの大魔法使いサマの口から「着いたぞ」の声に、おそるおそる目を開けた。
「え、どこ、ここ」
「たまに着地地点に使っている屋上だ。少し歩く。それともこのまま運んだ方がいいか?」
「あ、歩く」
どうやら城下町のどこかの建物の屋上らしい。目算で3階建てぐらいの高さだろうか。
手を引かれながら外階段を降りると、何カ月ぶりかの雑踏に目が眩みそうだった。え、今、監禁生活何カ月目だっけ?
「こっちだ」
「あ、っとと」
ぐいぐい引っ張る大魔法使いサマの歩くペースが速くて転びそうになる。すると、気が付いてくれたのか、ちゃんと立ち止まってくれた。
「やっぱり運ぶか?」
「……歩きたいので」
私の答えに少し不満げな様子を見せた大魔法使いサマだったけれど、大きなため息をついた後、口の中で何か呟いた。
「行くぞ」
「え、……ひゃっ」
問答無用で引っ張られ、今度こそ転ぶ、と覚悟した私だけど、そうはならなかった。私は足を動かして歩いている、のだけれど、周囲の景色が流れる速度がおかしい。大魔法使いサマに引っ張られるがままに、速度が増して――――
「何これ……」
「体力が本調子でないくせに歩きたいお前と、とっとと店に行きたい俺の妥協点を探った結果だ」
どうやらお得意の魔法で何とかしたらしい。私の足を少し浮かして、地面との距離すれすれで両者を反発させる空気の渦を作って云々と説明してくれたけれど、さっぱりちんぷんかんぷんだった。絶対、人に教えることに向いてない。これだから天才ってやつは。
魔法をかけられた私の感覚からすると、ルームランナーの上でいる状態――ただし、そのルームランナーは浮いていてなおかつ隣の大魔法使いサマの隣を常にキープしているものとする――ってな感じで、非常に気持ち悪い。結局、移動するペースは大魔法使いサマに合わせることになるから、せっかくの王都の路地をゆっくり眺めることもできやしない。まぁ、人がそれなりに多いからゆっくりはできないんだろうけど。
そんな心境をどう苦情としてまとめたものか、と考えているうちに、どうやら目的地に着いてしまったらしい。
天に向かって拳を振り上げた私は悪くない。それぐらい嬉しいことがあったんだ。誰もいない部屋で一人、歓喜に打ち震えたっていいじゃないか。
「お酒……解っ禁!」
あれから復調に努め、食べ物に気を遣い、適切な運動と適切な魔力循環をせっせと繰り返したおかげで、ようやく医者からお酒の許可が出ました!
監禁生活の最大の楽しみと言ってもいい晩酌が解禁なのであります! 今日のお酒は何にしよう、って浮かれたって仕方がないと思う。
――――だというのに。
「よし、行くぞ」
どうして私は晩酌、もとい、夕食の時間を前に、大魔法使いサマに拉致されているんでしょうねー……。
(絶対、あのお酒で解禁しようと思ってたのに……)
私は目の毒だからと棚の奥にしまい込んでいた瓶を思い出す。グース卿に買ってきてもらった中で、ちょっと高級で水みたいに飲めるやつ……! お酒臭さが少なくて物足りないけど、口当たりが良いやつから始めようと思っていたのに!
「一応確認なんだけど、どこに?」
「飲酒が許可されたんだろう? そういうときは快気祝いと称して飲みに行くものだと聞いた」
「え」
意外。意外過ぎる。誰だこの人にそんな知恵をつけたの。交友関係を知らないから、王太子殿下とグース卿しか思いつかないのだけど。
(誰だか知らないけど、ありがとうございまーす!)
ひっそり不特定の誰かに感謝を叫ぶ。心の中で。
あれ、でも待って? 飲みに行くってどこに? もしかして城の食堂とか……じゃないよね?
「掴まれ」
「え、ひゃわわわっっ!」
まさか塔の窓からダイブするとは思わず、襲い来る浮遊感に、私は慌てて手近なものを掴む。たとえそれが私を拉致した相手の袖だろうが、怖いものは怖い。
ぎゅっと目を閉じ、何度目かの衝撃の後、私を抱き上げたままの大魔法使いサマの口から「着いたぞ」の声に、おそるおそる目を開けた。
「え、どこ、ここ」
「たまに着地地点に使っている屋上だ。少し歩く。それともこのまま運んだ方がいいか?」
「あ、歩く」
どうやら城下町のどこかの建物の屋上らしい。目算で3階建てぐらいの高さだろうか。
手を引かれながら外階段を降りると、何カ月ぶりかの雑踏に目が眩みそうだった。え、今、監禁生活何カ月目だっけ?
「こっちだ」
「あ、っとと」
ぐいぐい引っ張る大魔法使いサマの歩くペースが速くて転びそうになる。すると、気が付いてくれたのか、ちゃんと立ち止まってくれた。
「やっぱり運ぶか?」
「……歩きたいので」
私の答えに少し不満げな様子を見せた大魔法使いサマだったけれど、大きなため息をついた後、口の中で何か呟いた。
「行くぞ」
「え、……ひゃっ」
問答無用で引っ張られ、今度こそ転ぶ、と覚悟した私だけど、そうはならなかった。私は足を動かして歩いている、のだけれど、周囲の景色が流れる速度がおかしい。大魔法使いサマに引っ張られるがままに、速度が増して――――
「何これ……」
「体力が本調子でないくせに歩きたいお前と、とっとと店に行きたい俺の妥協点を探った結果だ」
どうやらお得意の魔法で何とかしたらしい。私の足を少し浮かして、地面との距離すれすれで両者を反発させる空気の渦を作って云々と説明してくれたけれど、さっぱりちんぷんかんぷんだった。絶対、人に教えることに向いてない。これだから天才ってやつは。
魔法をかけられた私の感覚からすると、ルームランナーの上でいる状態――ただし、そのルームランナーは浮いていてなおかつ隣の大魔法使いサマの隣を常にキープしているものとする――ってな感じで、非常に気持ち悪い。結局、移動するペースは大魔法使いサマに合わせることになるから、せっかくの王都の路地をゆっくり眺めることもできやしない。まぁ、人がそれなりに多いからゆっくりはできないんだろうけど。
そんな心境をどう苦情としてまとめたものか、と考えているうちに、どうやら目的地に着いてしまったらしい。
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