人間、平和に長生きが一番です!~物騒なプロポーズ相手との攻防録~

長野 雪

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71.至れり尽くせりなデート(前)

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「無駄に優秀……」

 ぽつりと呟いてしまった私を責めないで欲しい。
 私と城下にお出かけする。そう決めたヨナは、あっという間に手筈を整えた。私が呑気にいつも通りの朝食を作っている間に、王城の外へ出る届出、城下までの馬車の手配などをさっさと終えて、身支度もしっかり整えていやがったのだ。ついでに私の『身支度』も整えられた。

「何か言ったか?」
「いいえー? なんでもー?」

 隣を歩くのは無駄に美形な大魔法使いサマ。見慣れたローブ姿ではなく、白いワイシャツにカジュアルめなボウタイ、黒のスラックスに羽織ったジャケットは裾と襟元に細かい刺繍の施された一級品……城下を歩くのにこんな目立つ&金を持っているアピールな感じの恰好で良いのかと確認したら、むしろ変装はNGなんだそうだ。
 もしかして、ヨナをどこにも流出させたくないからか、と邪推してみたものの、どうやら王城で働く魔法使いは全て、外出時には証(以前に見せられた叡智えいちの錫杖と国章が表裏に彫られたメダルだ)を携帯することが義務付けられ、魔法による変装が禁じられているらしい。以前、国を転覆する良からぬ輩と通じていた魔法使いがいたらしく、その二の轍を踏まないよう、ある程度、動きを制限する意味合いがあるらしい。
 そうなると、ヨナと外出すれば自然と視線が同行している私に向くわけで。ハイエナ令嬢に私を傷つけられることを危惧したヨナの取った行動は、私を魔法で変装させることだった。これが私の『身支度』をヨナが整えた理由だ。今の私は自前の地味な髪色・瞳色ともに変えられてしまっている。輝くような金髪と透き通った冬の空のような青い瞳の私は、顔立ちこそ変わらないけれど、別人であろう。つまり、ヨナを見かけた人が「あの大魔法使いサマが女連れ!」となっても、同行した私の容姿は「金髪・青目のお嬢様」となって、私とは一致しないはず、と。

「それで? どんなものが見たいんだ?」
「……」

 わくわくと……ちょっとだけ飼い主と散歩に出た犬のようにキラキラと輝く目を向けられて、逆に死んだような目線を返してしまった。ほんっと、短時間にこれだけ段取りを整えるんだから、優秀だよね。さすが大魔法使いサマだよね。

「リリィ?」
「はぁ……。とりあえず、一般市民向けの雑貨屋あたりからお願いしたいわ」
「わかった」

 リリィというのは一応偽名、という扱いらしい。偽名になってないけど。もはや愛称だけど! 本人がそれで満足しているならそれでいい。
 意外なことに、城下の地理はしっかり頭に入っているヨナに連れられ、迷うことなく目的の店までくることができた。

「この辺り、来たことでもあるの?」
「ん? あぁ、城下に出て仕事をすることもあるから、主要な道は頭に入っている。あとは探索魔法の応用だ」
「え、いま使ってるの?」
「あぁ、簡単なものなら無詠唱で問題ない。探索程度なら呼吸するのと同じぐらい自然に展開できる」

 ムカつくことに、これは自慢でも何でもないのだ。ちくしょう。私だって、チートで俺Tueeとかしてみたかった。

「本当に魔法は優秀よね」

 対人スキルは残念だけど。

「そういえば、リリィも魔法は使えるんだろう? どんなものが使えるんだ?」
「私の魔法なんてささやかなものよ? 土を僅かに隆起させるぐらいだもの」
「土か……」
「一応、そこから畑を耕せる程度には改良できたけど、それだって広範囲には無理だし、時間もかかるし」
「改良?」
「えぇ、こう、土の方向を縦回転させるようにして――――」
「あとでいいから見たい。塔の庭で使えるか?」
「ちょっとぐらいなら問題ないけど、でも、期待しないでよ? 本当に見た目は地味だから」
「……リリィ、後で説明するが、普通の貴族は魔法の改良なんてしない」
「え」
「ある程度、魔法に通じた者でないと改良という発想にならない」
「……」

 やらかしてましたぁぁぁっ! いやいや、微々たる改良だからね? 本当に!
 そっかー、ノエルに畑を耕す魔法を教えたときに、すごい変な顔してたのこれかー。言えよ。指摘してよ。頼むから。

「着いたぞ。この辺りだ」
「ありがとう」

 店の中にも品物を陳列しているようだけど、外に屋台みたいに商品を並べている店が並んでいて、正直、雰囲気を掴みやすくて助かる。
 え? 魔法の改良の話? 忘れた忘れた、そんな過去のこと。

「あ、これ可愛い。普段使いに丁度いいかも」

 何本も見やすく飾られた髪紐がまず目に留まった。値段はちょっと実家に比べたら高いけど、それでも遠慮なく使い倒せる範囲内だ。髪を束ねるのに幅広のリボンを使うのが主流になっているけれど、個人的には髪紐の方が使いやすくてね……。というか、幅広のリボンは絶対に誰かに髪を結わせるのが前提のデザインばかりだから、正直、使いにくいのよ。

「赤系でグラデーションになってるんだ、綺麗……」
「それを買うのか?」
「うん、買いたいんだけど、いいかな?」
「構わない。今日の俺は財布だからな」
「誤解を招くような言葉は使わないでよ。というか、そんな言葉、どこで覚えてきたの?」
「さて……どこだったかな」

 しれっととぼけたヨナは、店主とおぼしきおじさんに声をかけて会計を済ませる。こういうところは普通なんだよなぁ。プライベートだと対人スキルが死滅するだけで。

「もう一本、買ったの? 自分用?」
「いいや? これもお前のものだ。俺の隣に立つからには、黒も使ってもらわないとな?」

 いつの間にか足された髪紐は黒に銀糸の編み込まれた紐だ。それがヨナの髪色と気付くまでに、ちょっとだけかかった。
 いや、だって、そんなキザなことするとか思えなかったし! 別に私が察しの悪い残念な子ではないと思うのよ!
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