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76.お粗末な披露(後)
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「やはり、リリアンは飽きないな」
「そんなキラキラした目を向けたって、何も出ないわよ」
「そうか? リリアンはいつも俺の予想もつかないことを言い出すからな。きっとまだ何か隠し持ってるに違いない」
「ないない」
私は手をぱたぱたと振って否定する。なんとはなしにしゃがみ込んで、ヨナの耕した土に触れた。うむ、ふかふかである。
(やっぱり、実家の方とは畑の土の感じは違うのね)
土質についてはそんなに詳しくないけれど、思い出すのは前世の地理知識だ。地域によってテラロッサだのテラローシャだのと……あれ、何が違うんだったっけか。
「……あ」
真っ二つになったミミズを発見してしまった。まだウネウネ動いてるけど、確かこんな感じになっても死なないんだよね。尻尾側は動かなくなるけど、頭がついた方はそのまま再生して生きるとかなんとか。強い。でも畑のために頑張ってくれ。
「あれ? でも……」
何年も孤児院の畑を耕してきたけど、こう真っ二つになったミミズは見たことなかったな。単に気にしてなかっただけかもしれないけど、もしかしたらヨナの魔力のキレが良すぎて真っ二つになった、とか? まぁ、私の魔力なんてへなちょこだしねぇ。
「リリアン、どうした?」
「いやー、ちょっと、本職の魔法のキレについて考えてただけ」
私が指さした先――ミミズを目にしたヨナは、不思議そうに首を傾げただけだ。どうやら言わんとすることが伝わらなかったらしい。
「私がさっきの魔法で畑を耕すときって、こういうミミズとかをちぎっちゃった覚えがなくって。これもきっとヨナの魔力にキレがあるからなのかな、って」
「……」
え、どうしてそこで考え込むの。
「そのワームの出来損ないを倒すかどうかが重要なのか?」
「あぁ、違うの。単に同じ魔法を使っても威力が違うって実感しただけ。……まぁ、ミミズはちぎらない方がいいと思うけど」
「ワームを?」
「ミミズがいた方が良い土になるって、うちの領地では言っていたわ。多すぎるのもよくないとは聞いたけど、農家じゃないから、適正な範囲がどのぐらいかは知らない」
「……ワームを餌にする鳥が寄ってくるから、排除対象だと思っていたんだが」
「あくまでうちの領地でそう言われてたってだけよ。それが正しいかどうかは知らないけど、うーん、農業を生業にする人の経験則、なのかな」
こちらも首を傾げながら説明したけど、こればかりは専門家じゃないから何とも言えないのよね。前世知識だって、動物の死骸とかを分解する働きがあるってレベルでしかないし、鳥が寄ってくるのも、鳥の糞に含まれる成分が栄養になっていいんじゃないか、ぐらいにふわっとした感覚しかないし。作物に対する鳥害の知識なんてほとんど持ち合わせてないし。
「あ、とりあえず土魔法も見せたし、塔に戻っていい?」
「そうだな。寄り道せずに戻るんだぞ」
目に見えるところに塔の入口があるのに、寄り道なんてやりようがないのだけど。
私は指先についた土を払って立ち上がると、「それじゃね」とヨナを残して塔に戻ることにした。
危ない危ない。あのまましゃがみ込んで話し続けてたら、うっかり前世知識ポロリしそうだった。
🌸🌸🌸
「はぁ……、この一杯のために生きてるって感じよねぇ」
白ワインを片手に、貝とキノコのアヒージョをつつく。幸せ過ぎるコンボにうっとりしてしまいそうになる。
「お前……、酒に対する関心が明らかに俺より上だろう」
向かいで呆れた声を出している人のことなんて気にしない。美味しいは正義だ。
「そう? 『食』はある種の快楽でしょ? だったら存分に楽しまなきゃ」
最近は体力向上と運動不足解消を兼ねて、与えられた3階の部屋と屋上を往復しているんだ。そのご褒美に美味しいお酒と美味しいおつまみを食べたっていいじゃないか。きっと差し引きゼロカロリーだ。
「そういえば、昼間の件だが」
「ん? 土魔法の話?」
「いや、畑の話だ。ワームに平然とする女を初めて見たかもしれないと思ってな」
「それは遠回しに田舎者って言ってるの? その通りだから、特に反論もないけど」
「いや、普通はああいったものを苦手とするだろう」
「ミミズぐらいなら別に……。あと、私だって苦手な虫はいるわよ。変な勘違いしないで」
思い出すだけで食欲が減退するGとか、今世でも大発生の年に一度遭遇した巨大蛾とかに出て来られると悲鳴を上げられる自信がある。しかも「ぎゃぁ!」っていう色気のない悲鳴を。
「そうか。どちらにしても、この塔には害虫・害獣の類を侵入させないよう結界が張ってあるから見ることはないが」
「……え」
言われてみれば、Gやネズミどころか、蚊やハエにも遭遇していない気がする。
なにその結界。控えめに言っても神過ぎない?
「命あるモノに対して、許可したもの以外全てを弾く設定にしたら、結果としてそうなっただけだが」
「とんでもセキュリティ……」
ちょっと遠い目になってしまったのは仕方のないことだと思うの。
「そんなキラキラした目を向けたって、何も出ないわよ」
「そうか? リリアンはいつも俺の予想もつかないことを言い出すからな。きっとまだ何か隠し持ってるに違いない」
「ないない」
私は手をぱたぱたと振って否定する。なんとはなしにしゃがみ込んで、ヨナの耕した土に触れた。うむ、ふかふかである。
(やっぱり、実家の方とは畑の土の感じは違うのね)
土質についてはそんなに詳しくないけれど、思い出すのは前世の地理知識だ。地域によってテラロッサだのテラローシャだのと……あれ、何が違うんだったっけか。
「……あ」
真っ二つになったミミズを発見してしまった。まだウネウネ動いてるけど、確かこんな感じになっても死なないんだよね。尻尾側は動かなくなるけど、頭がついた方はそのまま再生して生きるとかなんとか。強い。でも畑のために頑張ってくれ。
「あれ? でも……」
何年も孤児院の畑を耕してきたけど、こう真っ二つになったミミズは見たことなかったな。単に気にしてなかっただけかもしれないけど、もしかしたらヨナの魔力のキレが良すぎて真っ二つになった、とか? まぁ、私の魔力なんてへなちょこだしねぇ。
「リリアン、どうした?」
「いやー、ちょっと、本職の魔法のキレについて考えてただけ」
私が指さした先――ミミズを目にしたヨナは、不思議そうに首を傾げただけだ。どうやら言わんとすることが伝わらなかったらしい。
「私がさっきの魔法で畑を耕すときって、こういうミミズとかをちぎっちゃった覚えがなくって。これもきっとヨナの魔力にキレがあるからなのかな、って」
「……」
え、どうしてそこで考え込むの。
「そのワームの出来損ないを倒すかどうかが重要なのか?」
「あぁ、違うの。単に同じ魔法を使っても威力が違うって実感しただけ。……まぁ、ミミズはちぎらない方がいいと思うけど」
「ワームを?」
「ミミズがいた方が良い土になるって、うちの領地では言っていたわ。多すぎるのもよくないとは聞いたけど、農家じゃないから、適正な範囲がどのぐらいかは知らない」
「……ワームを餌にする鳥が寄ってくるから、排除対象だと思っていたんだが」
「あくまでうちの領地でそう言われてたってだけよ。それが正しいかどうかは知らないけど、うーん、農業を生業にする人の経験則、なのかな」
こちらも首を傾げながら説明したけど、こればかりは専門家じゃないから何とも言えないのよね。前世知識だって、動物の死骸とかを分解する働きがあるってレベルでしかないし、鳥が寄ってくるのも、鳥の糞に含まれる成分が栄養になっていいんじゃないか、ぐらいにふわっとした感覚しかないし。作物に対する鳥害の知識なんてほとんど持ち合わせてないし。
「あ、とりあえず土魔法も見せたし、塔に戻っていい?」
「そうだな。寄り道せずに戻るんだぞ」
目に見えるところに塔の入口があるのに、寄り道なんてやりようがないのだけど。
私は指先についた土を払って立ち上がると、「それじゃね」とヨナを残して塔に戻ることにした。
危ない危ない。あのまましゃがみ込んで話し続けてたら、うっかり前世知識ポロリしそうだった。
🌸🌸🌸
「はぁ……、この一杯のために生きてるって感じよねぇ」
白ワインを片手に、貝とキノコのアヒージョをつつく。幸せ過ぎるコンボにうっとりしてしまいそうになる。
「お前……、酒に対する関心が明らかに俺より上だろう」
向かいで呆れた声を出している人のことなんて気にしない。美味しいは正義だ。
「そう? 『食』はある種の快楽でしょ? だったら存分に楽しまなきゃ」
最近は体力向上と運動不足解消を兼ねて、与えられた3階の部屋と屋上を往復しているんだ。そのご褒美に美味しいお酒と美味しいおつまみを食べたっていいじゃないか。きっと差し引きゼロカロリーだ。
「そういえば、昼間の件だが」
「ん? 土魔法の話?」
「いや、畑の話だ。ワームに平然とする女を初めて見たかもしれないと思ってな」
「それは遠回しに田舎者って言ってるの? その通りだから、特に反論もないけど」
「いや、普通はああいったものを苦手とするだろう」
「ミミズぐらいなら別に……。あと、私だって苦手な虫はいるわよ。変な勘違いしないで」
思い出すだけで食欲が減退するGとか、今世でも大発生の年に一度遭遇した巨大蛾とかに出て来られると悲鳴を上げられる自信がある。しかも「ぎゃぁ!」っていう色気のない悲鳴を。
「そうか。どちらにしても、この塔には害虫・害獣の類を侵入させないよう結界が張ってあるから見ることはないが」
「……え」
言われてみれば、Gやネズミどころか、蚊やハエにも遭遇していない気がする。
なにその結界。控えめに言っても神過ぎない?
「命あるモノに対して、許可したもの以外全てを弾く設定にしたら、結果としてそうなっただけだが」
「とんでもセキュリティ……」
ちょっと遠い目になってしまったのは仕方のないことだと思うの。
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