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75.お粗末な披露(前)
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「……早速なのね?」
「これでも二日待っただろう」
私の目の前に広がる薬草畑。いや、塔を出てすぐの場所だから、あまり軟禁解除された感はないんだけどね?
王都歩きのときに漏らした「魔法の改良」というキーワードを忘れてくれたと思っていたんだけど、やっぱり忘れてなかった。さすが大魔法使いサマ。魔法のことについては記憶力も倍増だね☆彡
「あのね、一応言っておきたいんだけど、本当にショボいからね?」
「何度も言うが、そもそも普通の人間は魔法を改良などしない」
このやり取りも何度目か分からない。王都歩きの日の夜から、たぶん数えて十数回目。それだけ言っているのに諦めないのは、やっぱり魔法のことだから、なんだろうなぁ。
王都歩きをした日はイレギュラーな休日だったので、本来の休日、つまり今日を待って実演する、という話に押し切られたんだけど、非常に気が進まない。あれよ、研究発表の場でその分野の第一人者が最前列に座っているような、そんな感じ。
「えぇと、それじゃ比較のために、最初は教わった通りの魔法を使ってみるわね」
はー、やりたくない。やりたくない。何が楽しくて大魔法使いサマの目の前で、私の児戯に等しい魔法を披露しなきゃいけないんだか。
「……そぉいっ!」
気合いを入れた私の目の前で、ぼこん、と土が隆起する。だいたい拳大ぐらいだろうか。
「は?」
「いや、だから教わったまんまの土魔法よ?」
はいはい、随分と可愛らしいな? とか言わないでくださいー。これで精いっぱいなんですー。
「それで、改良した魔法は?」
「あー、すぐ隣でやればいい?」
久しぶりだから、ちょっと集中する。イメージするのは前世のトラクターだ。
「どっこいしょーっ」
ぎゅるん、と土が撹拌されてふかふかになる。あ、上手くいった方かな。手のひら二つ分くらいの幅の正方形の範囲がうまいこと耕された。
「……興味深いな」
「そういうもの? 魔法のことはよく分からないけど、孤児院の畑で使ってたの。王太子妃殿下には説明したけど、森から落ち葉を持ってきて、今の魔法で一緒に耕すと土に栄養がいくのか収穫量も落ちなくて」
「あぁ、そういえばそんな話もしていたな」
さらりと発言されたけど、これ、盗聴されてたってこと? あの護身用バングル経由じゃなかった? えぇ? 王太子妃殿下とのお茶会よ? 不敬にも程が……って、やりかねないわよねぇ。
これが本物のチート野郎か、と考えている私の目の前で、しゃがみこんだヨナは土の状態を確かめている。
「これはどういう動きをしているんだ?」
「動き……と言われると困るんだけど、土を柔らかくしてかき混ぜたかったから、細い棒をこう回転させるみたいな感じかしら。それが……うーん、5、6本?」
指をくるくる回しながら説明すると、何故かもう一度見せろと言われてしまった。えー……、だから魔法のプロの前で見せるのは恥ずかしいんだけど。
「どっせいっ!」
再び魔法を使うと、土が耕される様子を凝視していたヨナは、口を覆い真剣な表情で何かを考えているようだった。
(個人的には、『こんなのを魔法の改良と呼んでいたのか、愚か者!』ぐらいの扱いにしてくれると嬉しいんだけど。実際、真上方向だった魔法に指向性を追加しただけだし)
「なるほど?」
ヨナが人差し指で地面を指し、そのままその指をスライドした。すると、もこもこもこっと指さす先の地面が耕されていく。さっすがー。
「面白いな。魔力はほとんど使わないくせに目に見える成果が劇的だ」
「言っておくけど、畑には使えても開墾には使えないからね」
「そうだろうな。これでは雑草の根は引きちぎれても、木の根は無理だろう」
だからこそ面白い、とヨナは続ける。
「ここまで特定の作業に特化した魔法を見るのは久しぶりだ。農作業という点では初めてだな」
「えーと、褒めてるのかどうなのか分かりにくいんだけど」
「十分褒めている。リリアンのような可愛らしい魔力でも、これだけの成果が出るのはすごいことだ。他にこの魔法を使える人間はいるのか?」
「ノエル――弟には教えたわ。私に何かあったときの代役は必要だったし。弟は、孤児院で土魔法の素質持ちが居れば教えておく、と言っていたけど……」
「そうだな。平民でも使える者はいるかもしれないな。王太子妃が進めている地力向上の研究も合わせれば、国全体の収穫量も飛躍的に……いや、それはどうでもいいか」
いや、ロイヤルな方々にとっては、どうでもいいことじゃないからね? 国を富ませるためにはすごく大事だから。
「これでも二日待っただろう」
私の目の前に広がる薬草畑。いや、塔を出てすぐの場所だから、あまり軟禁解除された感はないんだけどね?
王都歩きのときに漏らした「魔法の改良」というキーワードを忘れてくれたと思っていたんだけど、やっぱり忘れてなかった。さすが大魔法使いサマ。魔法のことについては記憶力も倍増だね☆彡
「あのね、一応言っておきたいんだけど、本当にショボいからね?」
「何度も言うが、そもそも普通の人間は魔法を改良などしない」
このやり取りも何度目か分からない。王都歩きの日の夜から、たぶん数えて十数回目。それだけ言っているのに諦めないのは、やっぱり魔法のことだから、なんだろうなぁ。
王都歩きをした日はイレギュラーな休日だったので、本来の休日、つまり今日を待って実演する、という話に押し切られたんだけど、非常に気が進まない。あれよ、研究発表の場でその分野の第一人者が最前列に座っているような、そんな感じ。
「えぇと、それじゃ比較のために、最初は教わった通りの魔法を使ってみるわね」
はー、やりたくない。やりたくない。何が楽しくて大魔法使いサマの目の前で、私の児戯に等しい魔法を披露しなきゃいけないんだか。
「……そぉいっ!」
気合いを入れた私の目の前で、ぼこん、と土が隆起する。だいたい拳大ぐらいだろうか。
「は?」
「いや、だから教わったまんまの土魔法よ?」
はいはい、随分と可愛らしいな? とか言わないでくださいー。これで精いっぱいなんですー。
「それで、改良した魔法は?」
「あー、すぐ隣でやればいい?」
久しぶりだから、ちょっと集中する。イメージするのは前世のトラクターだ。
「どっこいしょーっ」
ぎゅるん、と土が撹拌されてふかふかになる。あ、上手くいった方かな。手のひら二つ分くらいの幅の正方形の範囲がうまいこと耕された。
「……興味深いな」
「そういうもの? 魔法のことはよく分からないけど、孤児院の畑で使ってたの。王太子妃殿下には説明したけど、森から落ち葉を持ってきて、今の魔法で一緒に耕すと土に栄養がいくのか収穫量も落ちなくて」
「あぁ、そういえばそんな話もしていたな」
さらりと発言されたけど、これ、盗聴されてたってこと? あの護身用バングル経由じゃなかった? えぇ? 王太子妃殿下とのお茶会よ? 不敬にも程が……って、やりかねないわよねぇ。
これが本物のチート野郎か、と考えている私の目の前で、しゃがみこんだヨナは土の状態を確かめている。
「これはどういう動きをしているんだ?」
「動き……と言われると困るんだけど、土を柔らかくしてかき混ぜたかったから、細い棒をこう回転させるみたいな感じかしら。それが……うーん、5、6本?」
指をくるくる回しながら説明すると、何故かもう一度見せろと言われてしまった。えー……、だから魔法のプロの前で見せるのは恥ずかしいんだけど。
「どっせいっ!」
再び魔法を使うと、土が耕される様子を凝視していたヨナは、口を覆い真剣な表情で何かを考えているようだった。
(個人的には、『こんなのを魔法の改良と呼んでいたのか、愚か者!』ぐらいの扱いにしてくれると嬉しいんだけど。実際、真上方向だった魔法に指向性を追加しただけだし)
「なるほど?」
ヨナが人差し指で地面を指し、そのままその指をスライドした。すると、もこもこもこっと指さす先の地面が耕されていく。さっすがー。
「面白いな。魔力はほとんど使わないくせに目に見える成果が劇的だ」
「言っておくけど、畑には使えても開墾には使えないからね」
「そうだろうな。これでは雑草の根は引きちぎれても、木の根は無理だろう」
だからこそ面白い、とヨナは続ける。
「ここまで特定の作業に特化した魔法を見るのは久しぶりだ。農作業という点では初めてだな」
「えーと、褒めてるのかどうなのか分かりにくいんだけど」
「十分褒めている。リリアンのような可愛らしい魔力でも、これだけの成果が出るのはすごいことだ。他にこの魔法を使える人間はいるのか?」
「ノエル――弟には教えたわ。私に何かあったときの代役は必要だったし。弟は、孤児院で土魔法の素質持ちが居れば教えておく、と言っていたけど……」
「そうだな。平民でも使える者はいるかもしれないな。王太子妃が進めている地力向上の研究も合わせれば、国全体の収穫量も飛躍的に……いや、それはどうでもいいか」
いや、ロイヤルな方々にとっては、どうでもいいことじゃないからね? 国を富ませるためにはすごく大事だから。
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