赤雪姫の惰眠な日常

長野 雪

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惰眠2.村一番の惰眠好き

2.惰眠×邪魔=恐怖・後編

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 史家は言う。
 この灯華国には、神仙の加護があると。
 建国の祖である皇帝・章。彼は火を自在に操ることを得意とする神仙に師事した。
 彼は群なす兵を薙ぎ倒し、小国同士の諍いの絶えないこの地を統一した。
 彼の傍らには、花をこよなく愛する仙女が侍っていたと伝えられている。彼女は敵味方関係なく、戦死した者のために涙を落とし、花を贈った。
 火を操る皇帝。花を咲かせる仙女。
 皇帝は国に名前をつけなかったが、誰からともなく、火と花の国、灯華国と呼ばれるようになった。
 時を下った今もなお、皇帝の血筋は絶えることなく、その権威が失墜することなく国は存続している。
 時に愚帝が権力を握ることもあったが、そうした際にはどこからともなく、神仙が現れ、後始末をつけていったという。ある時は失政の尻拭い、ある時は愚帝の暗殺、そういった形をとって。
 神仙は権威の象徴でもあり、反権威の象徴でもあった。


 ◇  ◆  ◇


 村の中央に位置する集会所では、集まった男たちが何やら悲壮な顔を突き合わせていた。

「鉱南は本当に赤雪姫の所へ呼びに言ったんだろうな」
「……あいつは根が正直だ、行かないということはないだろ」
「そもそも、赤雪姫の気が乗らなければ、来ることはない」
「それもそうだが……」
「……」
「……」
「……だんだん、来て欲しいのか、来ないで欲しいのか分からなくなってきた」
「それを言うな」
「そうだ。どちらにしても不安が残るんだ。運に賭けようと決めたじゃないか」
「万が一に来たとしたら、いったい今度は」

バタン

 その音に、男たちの泣き言が止まる。視線の集まった先には、扉を開け放った鉱南に集まった。

「鉱南、首尾はどうだった?」

 問いに答えず、鉱南は震える手で扉を閉めた。その行為に、誰もが失敗したのだと理解する。鉱南が自席に座ったところで、村長が口を開いた。

「そうか。ならば仕方ない。とりあえず再発防止の対策を―――」

 練ろうじゃないか、と続けようとした村長が口をあんぐりと開いたまま、声を出すことを忘れた。

「そんなつれないことを言うでない。折角、足を運んで来たのじゃ」

 確かに赤雪姫のために用意してあった席だったが、いつの間にかそこは空席ではなくなっていた。
 いつの間に、という以前に、そこに彼女が座っているというだけで、男たちの身体が強張る。

「話は道すがら鉱南から説明されておる。―――さて」

 赤雪姫はまるで獲物を見つけた獣のように赤い目を細めた。集まった男たちは蛇に睨まれたカエルのように動けないでいる。

「わしに何を求める?」

 冷たく尋ねた赤雪姫の瞳が、居並ぶ男たちを順繰りに映し出して行く。一通りの顔ぶれを確認したところで、今度は上機嫌にこう言った。

「そして、わしに何を捧げる?」

 男たちはこの場から一目散に逃げたくなった。もちろん、ここまで案内した鉱南も例外ではない。確かに赤雪姫は万能だが、それと同時に常識破りのとんでもない報酬を要求することを、彼らはよく知っていた。


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