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Film08.情報は廊下に ―MINORI’S EYE―
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(まったく、ツイてないったら……)
あたしは靴を上履きに履き替えながら、昨日の失敗を思い出していた。誰にも知られないように梶原先輩とわたりをつけようと思っただけなのに、どうして九十九のヤツが出て来るかなぁ!
「おはよー。みぃやん」
「はよー、べっちん」
(あぁ……いつかはセンパイにも「みぃやん」とか呼ばれてみたいなぁ。でも、「みのり」って呼んでもらう方がいいかも……)
ぽや~っと妄想モードに入りそうになる自分をかろうじて抑え、あたしは2-B教室へ足を向けた。
(はぁ……。たぶん、また邪険にされちゃうよね)
センパイの率直な物言いはさすがにツラいかも、そうボヤきながら、あたしはトボトボと歩いた。と、前からはらり、と紙片が落ちた。
慌ててまっすぐ前を見てみるものの、いったい誰が落としたものなのかは既にわからなかった。とりあえず、九十九の教室の前なので、拾っておかなきゃいけなかった。なぜって、ヤツのクラスの廊下にゴミの一つでも落ちていようものなら、クラス全体が、ひいてはセンパイも怒られてしまうからだ。そういう話を聞いたことがある。
(……にしても、なんだろう?)
それはどうやら封筒のようだった。「津堂沙耶香様」と、ちまちまとした丸文字で宛名書きがされている。裏を見ると「梶原さゆり」。その名は、間違いなく2-Bの梶原先輩のものだった。あたしは急いで近くのトイレへ、その個室へと駆け込んだ。
乱暴に封を切り、中のルーズリーフを取り出す。そこには二種類の文字が並んでいた。行頭に「Q」と書かれている文字。もう一つは同じく行頭に「A」と書かれている文字。後者はあきらかに封筒と同じ、梶原先輩のもののようだった。
(もう一つは……誰なんだろう?)
あたしは罪悪感を感じることもなく、内容に目を通した。
Q 誕生日と血液型は?
A 確か、B型で、誕生日は十一月十一日だったと思う。
Q 趣味は?
A 小学生の時点ではミニ4駆とビックリマンシールの収集。今はさすがに知らない。
Q 家族構成は?
A 本当にそんなの必要なの? とりあえず、一人っ子だけど。
Q 好きな音楽とか、本とかは?
A だから私は、あくまで小学生までの、転校するまでの直くんしか知らないってば。
Q さゆりは「直くん」のこと、まだ好きでしょう?
A どういう質問なのよっ! 直くんはもう「三沢くん」だって!
あたしは、顔がにま~っとするのが止まらなかった。これは間違いなく梶原先輩が誰かに宛てた封筒だろう。そう、三沢センパイが気になる誰かへの。
(なんにしろ、これで手間がはぶけたってワケね)
とりあえず、必要な事項だけをポケットの手帳に書き込んだあたしは、再び封筒の宛名を見た。
『津堂沙耶香』
手帳に要注意人物と丸をつけて、あたしは封筒にそのルーズリーフをしまいこんだ。
◇ ◆ ◇
「センパーイっ! 三沢センパイ! お久しぶりです! 一日ぶりですねっ!」
あくまで元気よく振る舞いながら、お昼休みを利用して、あたしは2-Bへやって来た。
「なんだ……せっかく昨日は静かだったのに。用がないなら来るなよ」
「えっへへー、そんなこと言って、ホントは寂しかったんじゃないですか? センパイ?」
わざと高慢な感じでぐいぐいぐいっと寄って行くあたしを、誰かが阻む。
「本当に嫌がってるじゃない、ちょっとは相手のこと思いやったらどうなの?」
あたしはその人に見覚えがあった。……と言っても、このクラスにちょくちょく遊びに来ているから、たいていの人は覚えてるんだけど。でも、黒髪のストレートのロングヘア。この髪の艶には見覚えがある!
「ね、さやちゃん。やっぱ怒ってるんだ?」
あたしとセンパイの邪魔をした女の制服の袖を引っ張って、誰かがさらに割り込んで来た。そう、それは、紛れもなく梶原さゆり! あたしに待ちぼうけをくわせたせいで、鬼教師九十九の尋問まで受けちゃった全ての元凶!
「ごめんね、あたしがさやちゃんの名前書いた封筒、落としたりしたから……」
(さやちゃん? ってことは、封筒の宛名はこいつかぁっ!)
あたしは、目の前の邪魔者を見た。なるほど、そういうわけであたしの邪魔をするっての?
「あ……もしかして、津堂先輩、ですか?」
あたしはわざとおそるおそる尋ねた。相手が恋敵と書いてライバルだと思うと、演技にも熱が入るってもんよ。
「え? あ、えぇ、そうだけど?」
ふふん、ちょっとは驚いてるようね。さぁ、ここからが一世一代の腹芸の始まりよ!
「あ、良かったぁ。さっき、この教室の前でこれ拾って……」
あたしはブレザーのポケットから例の白い封筒を取り出した。もちろん、封を切られた状態で。
「こ、これは……」
その先輩は慌てて封筒を裏返し、送り人の名前を確認する。
「さ、さやちゃん。それだよ!」
梶原先輩の言葉をきっかけに、あたしは再び腹芸モードに入る。
「あぁ、良かったぁ。これ、このクラスの人の物かもって、センパイに聞こうとしてたんですよ。見つかってよかったですね」
「ちょ、ちょっと待って。えぇっと、増山さんだっけ? ――――これ、封が切られてるけど、あなた知らない?」
すごく慌てたふうに津堂先輩が言う。ちらりと目を走らせると梶原先輩も心配しているようだった。
(へっへーん。ありがたく見せてもらったわよーだ)
心の中で舌を出し、あたしはとても心外そうな顔つきで津堂先輩を見つめた。
「えぇ、あたしが見つけた時にはもう……。あたしもさっきそこで拾ったばかりですから。このクラスの担任がとても恐い先生だって聞いて、慌てて拾ったんですよぉ」
後半はわざと甘える調子でセンパイに向かって言う。センパイは「いらん世話やきやがって」とか悪態ついてたけど、脈ありってかんじ?
あたしは靴を上履きに履き替えながら、昨日の失敗を思い出していた。誰にも知られないように梶原先輩とわたりをつけようと思っただけなのに、どうして九十九のヤツが出て来るかなぁ!
「おはよー。みぃやん」
「はよー、べっちん」
(あぁ……いつかはセンパイにも「みぃやん」とか呼ばれてみたいなぁ。でも、「みのり」って呼んでもらう方がいいかも……)
ぽや~っと妄想モードに入りそうになる自分をかろうじて抑え、あたしは2-B教室へ足を向けた。
(はぁ……。たぶん、また邪険にされちゃうよね)
センパイの率直な物言いはさすがにツラいかも、そうボヤきながら、あたしはトボトボと歩いた。と、前からはらり、と紙片が落ちた。
慌ててまっすぐ前を見てみるものの、いったい誰が落としたものなのかは既にわからなかった。とりあえず、九十九の教室の前なので、拾っておかなきゃいけなかった。なぜって、ヤツのクラスの廊下にゴミの一つでも落ちていようものなら、クラス全体が、ひいてはセンパイも怒られてしまうからだ。そういう話を聞いたことがある。
(……にしても、なんだろう?)
それはどうやら封筒のようだった。「津堂沙耶香様」と、ちまちまとした丸文字で宛名書きがされている。裏を見ると「梶原さゆり」。その名は、間違いなく2-Bの梶原先輩のものだった。あたしは急いで近くのトイレへ、その個室へと駆け込んだ。
乱暴に封を切り、中のルーズリーフを取り出す。そこには二種類の文字が並んでいた。行頭に「Q」と書かれている文字。もう一つは同じく行頭に「A」と書かれている文字。後者はあきらかに封筒と同じ、梶原先輩のもののようだった。
(もう一つは……誰なんだろう?)
あたしは罪悪感を感じることもなく、内容に目を通した。
Q 誕生日と血液型は?
A 確か、B型で、誕生日は十一月十一日だったと思う。
Q 趣味は?
A 小学生の時点ではミニ4駆とビックリマンシールの収集。今はさすがに知らない。
Q 家族構成は?
A 本当にそんなの必要なの? とりあえず、一人っ子だけど。
Q 好きな音楽とか、本とかは?
A だから私は、あくまで小学生までの、転校するまでの直くんしか知らないってば。
Q さゆりは「直くん」のこと、まだ好きでしょう?
A どういう質問なのよっ! 直くんはもう「三沢くん」だって!
あたしは、顔がにま~っとするのが止まらなかった。これは間違いなく梶原先輩が誰かに宛てた封筒だろう。そう、三沢センパイが気になる誰かへの。
(なんにしろ、これで手間がはぶけたってワケね)
とりあえず、必要な事項だけをポケットの手帳に書き込んだあたしは、再び封筒の宛名を見た。
『津堂沙耶香』
手帳に要注意人物と丸をつけて、あたしは封筒にそのルーズリーフをしまいこんだ。
◇ ◆ ◇
「センパーイっ! 三沢センパイ! お久しぶりです! 一日ぶりですねっ!」
あくまで元気よく振る舞いながら、お昼休みを利用して、あたしは2-Bへやって来た。
「なんだ……せっかく昨日は静かだったのに。用がないなら来るなよ」
「えっへへー、そんなこと言って、ホントは寂しかったんじゃないですか? センパイ?」
わざと高慢な感じでぐいぐいぐいっと寄って行くあたしを、誰かが阻む。
「本当に嫌がってるじゃない、ちょっとは相手のこと思いやったらどうなの?」
あたしはその人に見覚えがあった。……と言っても、このクラスにちょくちょく遊びに来ているから、たいていの人は覚えてるんだけど。でも、黒髪のストレートのロングヘア。この髪の艶には見覚えがある!
「ね、さやちゃん。やっぱ怒ってるんだ?」
あたしとセンパイの邪魔をした女の制服の袖を引っ張って、誰かがさらに割り込んで来た。そう、それは、紛れもなく梶原さゆり! あたしに待ちぼうけをくわせたせいで、鬼教師九十九の尋問まで受けちゃった全ての元凶!
「ごめんね、あたしがさやちゃんの名前書いた封筒、落としたりしたから……」
(さやちゃん? ってことは、封筒の宛名はこいつかぁっ!)
あたしは、目の前の邪魔者を見た。なるほど、そういうわけであたしの邪魔をするっての?
「あ……もしかして、津堂先輩、ですか?」
あたしはわざとおそるおそる尋ねた。相手が恋敵と書いてライバルだと思うと、演技にも熱が入るってもんよ。
「え? あ、えぇ、そうだけど?」
ふふん、ちょっとは驚いてるようね。さぁ、ここからが一世一代の腹芸の始まりよ!
「あ、良かったぁ。さっき、この教室の前でこれ拾って……」
あたしはブレザーのポケットから例の白い封筒を取り出した。もちろん、封を切られた状態で。
「こ、これは……」
その先輩は慌てて封筒を裏返し、送り人の名前を確認する。
「さ、さやちゃん。それだよ!」
梶原先輩の言葉をきっかけに、あたしは再び腹芸モードに入る。
「あぁ、良かったぁ。これ、このクラスの人の物かもって、センパイに聞こうとしてたんですよ。見つかってよかったですね」
「ちょ、ちょっと待って。えぇっと、増山さんだっけ? ――――これ、封が切られてるけど、あなた知らない?」
すごく慌てたふうに津堂先輩が言う。ちらりと目を走らせると梶原先輩も心配しているようだった。
(へっへーん。ありがたく見せてもらったわよーだ)
心の中で舌を出し、あたしはとても心外そうな顔つきで津堂先輩を見つめた。
「えぇ、あたしが見つけた時にはもう……。あたしもさっきそこで拾ったばかりですから。このクラスの担任がとても恐い先生だって聞いて、慌てて拾ったんですよぉ」
後半はわざと甘える調子でセンパイに向かって言う。センパイは「いらん世話やきやがって」とか悪態ついてたけど、脈ありってかんじ?
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