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42.偶然だけど偶然じゃない
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「なんだかちょっと吸い付くような感じなんですね。金属特有の冷たい感じがないというか……」
「それは魔銀のおかげだな。金属が魔力を含んでいるから、人にも馴染むんだ」
それもまたファンタジー、と遠い目になりながら、ユーリはフィルに向き直った。
「これなら確かに邪魔になりそうもないんですけど、本当にいいんですか?」
「あぁ、よく似合っている。――――これをこのまま付けて帰りたいが、いいか?」
「えぇ、もちろんでございますとも」
「あと、守護の付与のために、奥を少し借りたいのだが」
「それでしたら、小部屋をご用意できます。少々お待ちくださいませ」
流れるようにやり取りがなされ、あれよあれよと口を挟む間もなくユーリは店の奥の小さなスペースに案内される。
「えっと、フィルさんが付与?というのをするんですか?」
「あぁ。自分の装備にも付与することもあるし、問題ない。――ユーリ、先程の俺の鱗を出してもらってもいいか?」
「あ、はい」
鞄から取り出した白銀の鱗を取り出すと、フィルはユーリを椅子に座らせ、その目の前に膝をついた。
「ちょ、えっ、フィルさん?」
「あぁ、すぐに終わるから」
「ではなくて、膝、膝が汚れます!」
「これか? 気にすることはない」
よりにもよって王族を目の前にひざまずかせる一般人ってどんなだ!とユーリは心の中でジタバタとする。
だが、フィルは自分の膝の上にアンクレットを付けたユーリの足を乗せ、そこに鱗を押しつけた。
ユーリに聞き覚えのある言葉――おそらく魔術言語――を呟くフィルの顔は真剣そのものだった。邪魔をしてはいけない雰囲気に、ユーリはぎゅっと口を閉じる。小声で早口だったので、聞き取れた自信はなかったのだが……
「障壁、反射、追尾……?」
「聞き取れたか。悪意ある攻撃を受けたときに、そのまま攻撃を『反射』して相手を『追尾』する『障壁』をな」
本当はここまでガチガチにする必要がないかもしれんが、と続けるフィル。だが、番の誓約をしない以上、守りに手は抜けないのだと続ける。
「すみません。私の我儘のせいで余計な手間を……」
「いいんだ。そんな用心深いユーリを、俺はそのまま守りたい。だから、ゆっくり考えてくれていいんだ」
「ありがとうございます……」
なんだか申し訳ないやらありがたいやらで、ユーリはすごく勿体ないことをしているような気分になる。
(もう頷いてしまっても、いいかな)
フィルのことは、王族だから畏れ多いという気持ちはあるが、嫌いではない。別れた元彼のことはとっくに吹っ切っている。
それでも素直に頷けないのは、このファンタジーな世界で、あまりにもうまく話が転がり過ぎているんじゃないかという、漠然とした根拠のない不安のせいだ。
(せめて誰かに相談できたらいいんだけど、周りはフィルさんの味方だらけだし……)
まさか、国王と王妃が第三王子であるフィルよりも、彷徨い人のユーリを優先させているとも知らず、ユーリは思い悩む。
(シャナに相談できたら良かったんだけど、さすがに遠いし、今はあっちも大変だろうし)
飛ばされてすぐの頃に、すごく世話になった獣人の少女を思いながら、ユーリはため息をついた。
・‥…━━━☆
「今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ。他に見たい場所はあるか?」
「大丈夫です。あ、でも、物価とか色々知りたいので、お店をひやかしながら帰ってもいいですか?」
「それぐらいなら問題ない」
この世界にどんなものが流通しているのか、その値段などをチェックしながら二人で手を繋いで歩く。竜人だらけの通りを歩くことにも慣れ、今後クレットに元の世界の話をするちょうどいい題材はないものかと考える。クレットの役に立ちたいというより、技術提供料が美味しかったのだ。このままフィルの隣にあり続けるにしろ、そうでないにしろ、先立つものは多いに越したことはない。
「……ル! フィルってば!」
先にその呼びかけに気がついたのは、フィルだったが、彼はその聞き覚えのある声に無視を決め込んだ。せっかくの初デートを邪魔されてはたまらない。だが、隣のユーリは、そうでもなかったらしい。
「あの、フィルさん、呼ばれていませんか?」
「気のせいだろう」
「でも――――」
小柄な人影は、人通りの多い通りで苦労しながら、二人に近付いて来ている。
「ちょっとフィルってば! アンタ、色ボケして耳をどこに置いてきたのよ!」
遠慮のない罵詈雑言に、無視したいなぁ、とフィルは願ったが、それは相手の方が許してはくれなかった。
「まったく、あたしを無視するってどういう了見よ!」
とうとう二人の目の前にやってきた人影は、びしっと人差し指をフィルに突きつけた。
「それは魔銀のおかげだな。金属が魔力を含んでいるから、人にも馴染むんだ」
それもまたファンタジー、と遠い目になりながら、ユーリはフィルに向き直った。
「これなら確かに邪魔になりそうもないんですけど、本当にいいんですか?」
「あぁ、よく似合っている。――――これをこのまま付けて帰りたいが、いいか?」
「えぇ、もちろんでございますとも」
「あと、守護の付与のために、奥を少し借りたいのだが」
「それでしたら、小部屋をご用意できます。少々お待ちくださいませ」
流れるようにやり取りがなされ、あれよあれよと口を挟む間もなくユーリは店の奥の小さなスペースに案内される。
「えっと、フィルさんが付与?というのをするんですか?」
「あぁ。自分の装備にも付与することもあるし、問題ない。――ユーリ、先程の俺の鱗を出してもらってもいいか?」
「あ、はい」
鞄から取り出した白銀の鱗を取り出すと、フィルはユーリを椅子に座らせ、その目の前に膝をついた。
「ちょ、えっ、フィルさん?」
「あぁ、すぐに終わるから」
「ではなくて、膝、膝が汚れます!」
「これか? 気にすることはない」
よりにもよって王族を目の前にひざまずかせる一般人ってどんなだ!とユーリは心の中でジタバタとする。
だが、フィルは自分の膝の上にアンクレットを付けたユーリの足を乗せ、そこに鱗を押しつけた。
ユーリに聞き覚えのある言葉――おそらく魔術言語――を呟くフィルの顔は真剣そのものだった。邪魔をしてはいけない雰囲気に、ユーリはぎゅっと口を閉じる。小声で早口だったので、聞き取れた自信はなかったのだが……
「障壁、反射、追尾……?」
「聞き取れたか。悪意ある攻撃を受けたときに、そのまま攻撃を『反射』して相手を『追尾』する『障壁』をな」
本当はここまでガチガチにする必要がないかもしれんが、と続けるフィル。だが、番の誓約をしない以上、守りに手は抜けないのだと続ける。
「すみません。私の我儘のせいで余計な手間を……」
「いいんだ。そんな用心深いユーリを、俺はそのまま守りたい。だから、ゆっくり考えてくれていいんだ」
「ありがとうございます……」
なんだか申し訳ないやらありがたいやらで、ユーリはすごく勿体ないことをしているような気分になる。
(もう頷いてしまっても、いいかな)
フィルのことは、王族だから畏れ多いという気持ちはあるが、嫌いではない。別れた元彼のことはとっくに吹っ切っている。
それでも素直に頷けないのは、このファンタジーな世界で、あまりにもうまく話が転がり過ぎているんじゃないかという、漠然とした根拠のない不安のせいだ。
(せめて誰かに相談できたらいいんだけど、周りはフィルさんの味方だらけだし……)
まさか、国王と王妃が第三王子であるフィルよりも、彷徨い人のユーリを優先させているとも知らず、ユーリは思い悩む。
(シャナに相談できたら良かったんだけど、さすがに遠いし、今はあっちも大変だろうし)
飛ばされてすぐの頃に、すごく世話になった獣人の少女を思いながら、ユーリはため息をついた。
・‥…━━━☆
「今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ。他に見たい場所はあるか?」
「大丈夫です。あ、でも、物価とか色々知りたいので、お店をひやかしながら帰ってもいいですか?」
「それぐらいなら問題ない」
この世界にどんなものが流通しているのか、その値段などをチェックしながら二人で手を繋いで歩く。竜人だらけの通りを歩くことにも慣れ、今後クレットに元の世界の話をするちょうどいい題材はないものかと考える。クレットの役に立ちたいというより、技術提供料が美味しかったのだ。このままフィルの隣にあり続けるにしろ、そうでないにしろ、先立つものは多いに越したことはない。
「……ル! フィルってば!」
先にその呼びかけに気がついたのは、フィルだったが、彼はその聞き覚えのある声に無視を決め込んだ。せっかくの初デートを邪魔されてはたまらない。だが、隣のユーリは、そうでもなかったらしい。
「あの、フィルさん、呼ばれていませんか?」
「気のせいだろう」
「でも――――」
小柄な人影は、人通りの多い通りで苦労しながら、二人に近付いて来ている。
「ちょっとフィルってば! アンタ、色ボケして耳をどこに置いてきたのよ!」
遠慮のない罵詈雑言に、無視したいなぁ、とフィルは願ったが、それは相手の方が許してはくれなかった。
「まったく、あたしを無視するってどういう了見よ!」
とうとう二人の目の前にやってきた人影は、びしっと人差し指をフィルに突きつけた。
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