訳あり令嬢は早く死にたい

飴之ゆう

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「お嬢様!!!!」

ガシャンッという大きな物音とともに私の体が傾く。
侍女達が遠くで顔を青くして叫んでいた。

こうなるのね、と冷静に考えながら重力に逆らわず床に倒れる。
背中に走る鋭い痛みももうだ。

私は私を切りつけた女─母親を静かに見つめる。

「その目が気に入らないのよ!!!」

美しかった母の顔が醜く歪みヒステリックに叫んだかと思うと、そのままもう一度手に持った刃物を振りかざした。

「おやめください奥様!!」

真っ青な顔の侍女達が、あわてて母を止めに入る。
この光景も何回目だろうか。何回繰り返したってこれだけは変わらない。変えられない。
努力しても駄目なものは駄目ということをこれ程思い知ったことはない。必然というものなのだろう。私の人生に必要不可欠なのだ。納得したくも甘受したくもないけれど…。

八歳の誕生日、私は母に殺されかける。
も例外などなかった。

夕食前のこと。それが起こる日は必ず私の誕生日で、社交界デビュー前の私は屋敷でお母様とお父様といつもより豪華な食事をする予定だった。
政略結婚のお母様とお父様の仲は、はたから見ると悪くはない。あくまではたから見れば、である。
実際は食事を共にしないし話しているところも滅多に見ない。
そんな両親が一緒に食卓を囲む数少ない機会が私の誕生日である。父も母も人並みに娘を愛していたのだ。私の誕生日は必ず夕飯を共にし、滅多にない家族団らんがある程度には。
しかし、八歳の誕生日は違った。

お父様が仕事で帰れなくなった。

たったそれだけ。だけどお母様にとってはそれだけではなかったのだろう。きっと限界だったのだ。

お母様はお父様を愛してしまった。

お父様もお母様のことはそれなりに好ましく思っていたはずだ。愛していたかと聞かれれば否だろうが…。
そんな中お母様は、私にだけ向けられるお父様の関心に嫉妬した。お父様への気持ちと私への気持ちがぐちゃぐちゃになり爆発したのが、今日この日。

背中に負ってしまった傷は、大きくなっても完全に癒えることはなく、痛々しい傷跡が残ってしまうことを私はいる。いつの生でも変わらず残るそれが、枷になって私を苦しめることも。


ドクドクと脈打つ心臓に生暖かい血の感触、むせかえるような鉄の匂い、侍女達の悲鳴、動かない体─。
そのどれにも死を感じない。私はここで死ぬことはないといるから。

「なんの騒ぎだ!」

この騒動はいつも帰宅したお父様のこの声で鎮まる。けれどその頃にはもう私の体は冷え切り意識も朦朧としていて、これ以降の会話を聞くことはできなかった─。
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