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「大丈夫」

 ぎゅっと握り込むネックレスは、お母さまが小さい頃に買ってくださったシトリンのもの。常に身につけていることもあって、ものすっごくぼろぼろ。でも、このネックレスがわたしにとっては1番の宝物。

 高価なネックレスでも、貴重なネックレスでもない。
 お母さまがわたしのために考えて購入してくださったという事実が大事なのだ。

 わたしの手の中にある紙に書かれているのは、宰相さんが他国に繋がっていたことは勿論のこと、彼が人身売買にも手を染めていたという噂について。
 どれも出所が知ったりとしていて、行なっていたという事実は間違いない。

「わたしが動かなくちゃ」

 薄茶の猫っ毛をぎゅっと引っ詰めてシニヨンにしたわたしは、薄緑のドレスを引っ掛けないように注意を払いながら、地下牢から抜け出す。
 わたしを監禁していることは誰にも知らせたくないのだろう。見張りは置かれていなかった。

(好都合ね)

 ルビーさんを応援に向かわせたために、多分今現在の状況は混沌と化してしまっているだろう。でも、わたしが動くのならば、そのくらいでなくては困る。ただでさえ、こういうことは素人なのだから。

 地下牢を出る際に運良く見つけた洗い立てのメイド服置き場で、わたしはメイドに返送する。顔立ちはそこそこ整っている方だけれど、目立つものでないから新人だとでもいえば納得してもらえるだろう。

 みっともなく震える手に、身体に、ひゅっと息を飲み込んだ。

「情けないわね」

 歩いている感覚すらも失ってしまうくらいに足は震えてる。ドレスの裾で隠れているけれど、本当はもう歩く足さえも止めてしまいたい。
 心臓がどくどくと嫌な音を立てているし、キーンという耳鳴りは止まるところを知らない。

 怖い。嫌だ。帰りたい。泣きたい。お父さま。お母さま。………旦那さま。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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