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番外編 幼き日のワルキューレ
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私はたくさんの人を不幸にしてしまう人間だ。
真っ白な老婆のような髪に、血色の瞳。お姉さまたちと同じ色彩を持って生まれたのに、私だけは、お母さん以外に愛されなかった。
「あらあらまあまあ、また穢らわしい生き物が歩いていましてよ!わたくし、お鼻がひん曲がりそうですわ!!」
「あら、本当ね。わたくしがアレ等なら、即刻自死を選びますのに、本当にアレ等は肝が座っていますわね」
「下民のくせに、陛下に色目を使うなんて、本当に気持ち悪いですわね」
くすくすとしたお父さまのお妃さまの笑い声に、私はぎゅっとお母さんのドレスの裾に隠れる。
旅一座1番の踊り子だったというお父さまのお妾さんであるお母さんは、私から見ても、ここにいるたくさんのお妃さまに負けないくらいに、いいえ、それよりももっともっと美人だ。私とは正反対の真っ黒なふわふわした髪はとっても綺麗で、サファイアみたいな瞳はどこにいようと、どんな目に遭おうと、きらきら輝いている。
私の自慢のお母さん。
私の憧れのお母さん。
お妃さまやお姉さまに意地悪をされても、お母さんが一緒だから、私はへっちゃらだった。
お母さんはとっても強かった。魔法は使っちゃいけないからって、絶対に表では使わなかったけれど、すっごい魔法使いだった。剣もお上手だったけれど、それ以上に、私はお母さんの綺麗な魔法に魅了された。お妃さまたちやお姉さまたち、メイドさんたちがいない時間を見つけるたびに、私はお母さんに魔法を教えてもらった。
「ぐぬぬっ!」
「そう、とっても上手よ、フローラ」
お母さんは私が上手にできたらふわふわと私の頭を必ず撫でてくれた。良い子良い子としてもらう度に心がぽかぽかして、あったかい気分になった。
大好きな大好きなお母さんの後ろを、私はいつもてちてち歩いた。
お空にとるが飛んでいたら、鳥に向かってジャンプして、猫さんやわんちゃんがお庭にお散歩に来たら、追いかけっこをした。お花にお水をあげたり、花冠を作るのも楽しかった。
お母さんはそんな私をいつも優しい目で見つめてくれた。
私のことを唯一大事にしてくれるお母さんは、時々私をつらそうな目で見た。その時は決まって、お父さまが訪ねてきた後だった。そして、お妃さまたちからの嫌がらせが増加する時期だった。私の髪と目は、お父さまとおんなじだ。
私は嫌われて、でも、お父さまやお姉さまたちは好かれる色彩だ。
どうして、私だけ愛されないの………?
何度も何度も思ったけれど、実際に口に出すことは決してしなかった。しては、いけないと思った。
お母さんは時々、自分のことを異民族だと形容した。そして、それは絶対に他の人には知られてはいけないと私に厳命した。お母さんがこんなに厳しくなることは他にないから、私はこのお話をするのが嫌いだった。
8歳のある日、私とお母さんはとあるお妃さまが主催するお茶会にお呼ばれした。そのお妃さま曰く、お母さんと和解したいらしい。嘘が明け透けすぎて、なんだか気持ち悪かった。
でも、私とお母さんには断る権限なんてなくて、結局はそのお茶会に参加した。
「いい?フローラ。ここで出る飲み物や食べ物は絶対に食べちゃダメ。分かった?」
「………はい、お母さん」
焦燥に駆られたお母さまの瞳に一抹の不安を抱えながら、私はお茶会に参加した。お母さんのお言付け通り、お茶を飲んだふりをして、時間が過ぎるのを待つ。
「あらあら、ワルキューレ。紅茶を全く飲んでいないじゃない」
お茶会の終盤、やっと解放されると安堵した次の瞬間、お妃さまが嘲るような笑みを浮かべて、私の肩を握りしめた。ゾワっと背筋にオカンが走って、蛇に睨まれてしまったように体が動かなくなる。
「ーーーワルキューレはお茶が苦手でして………、私が代わりにいただきますわね」
穏やかに微笑んだお母さんから、死の匂いがした。ティーカップを弾かなきゃと思うのに、身体は全く思うように動いてくれなくて、けれど、私は必死になってティーカップを母から奪って、そして破壊した。
次の瞬間、怒りに震えた主催者たる第2皇妃が一直線に走ってきて、ぐさっとお母さんのお腹を刺した。あまりにも一瞬の出来事で、止める間すらなかった。
余興のように眺める皇后とくすくすと笑う姉である皇女たちに、私の意識は真っ赤に染まった。
この後、何があったのか、私が何をしたのかは綺麗さっぱり覚えていない。けれど、これだけは分かっている。
ーーー私はみんな殺した。
皇后とその娘である第2皇女を除き、私は残り全員を殺した。2人を生かした理由はわからない。けれど、なんとなく彼女たちには手を出すべきではないと直感が言っていたからではないかと私は思っている。
その後、私は皇帝の前に連れて行かれた。
お父さまと呼ぶのすらも嫌悪感によってできなくなった私は、結局彼のことをそう呼ぶようにしたのだ。お母さんを苦しめた元凶にして最も憎ましい男。
戦闘狂の彼に唯一似た娘として、私は皇城で重宝されるようになった。
ありとあらゆる勉学が始まった。中でも1番多かったのは人殺しの訓練だった。毎日毎日、罪人を切り裂くように命じられる苦痛に、私の精神はだんだんと摩耗していく。
ーーー助けて、助けて助けて、助けて助けて助けて助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて………!!
常に聞こえる私を殺そうとする影の声。
闇の手は常に私を地獄の門へと引っ張ろうとする。
狂いそうになる精神を振り乱す髪と絶叫で押さえつけた。
壊れそうになる身体を、栄養と薬で補った。
疲れ切って頬がこけた自分を鏡で見る度に、鏡を割った。
血に染まるあいつと同じ色彩の髪を切り裂きたかった。
あいつと同じ血色の瞳を抉り出したかった。
ーーーでも、そんなことはできない。
だからこそ、私は武器を握り続けた。
細いナイフはレイピアに変わり、レイピアは双剣へと変わり、双剣は両手剣に変わり、そして私の相棒である大鎌へと変化した。
敵の殺し方がどんどん残虐で鮮やかになっていく自覚はあった。
でも、出来るだけ柄の長い武器を握りたかった。
人を殺す感触が少ない武器を握りたかった。
『必ず生き残ってね、フローラ』
耳に残るのは優しき母の願い。
だからこそ、私は死ねない。
生きなくてはならない。
生き足掻いて、もがいて、そして死ななければならない。
あの男のお気に入りでなくなってしまえば、すぐに散ってしまうような儚い命。
けれど、足掻く価値ぐらいはあるんじゃないかと私は思っている。
ありとあらゆるものに食いついて、文字通り血反吐を吐きながら努力した。
そして、私はやっとのことで、欲しかったものを手に入れた。
ーーー『戦姫』
唯一無二の私の居場所。
私の必要とされる場所。
戦場に立ってからも地獄は続いた。
つかみかかりにくる漆黒の手は増え続け、呪詛は睡眠をも妨害する。
「生きたいの………、」
ぼそっと呟けば、目から雫がこぼれ落ちる。
戦場に出て2年。
この時の私は、4年後にガラリと変化する世界をまだ知らない。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
これにて番外編終了になります。
他にリクエストがあればまた執筆させていただきますので、ご希望の方は感想欄からお知らせください。
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