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60 結ってもらった髪

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 ゆっくりと深く息を吐き出したアザリアは、鏡に映る不安げな表情をした自分に僅かにガッカリした。


(こんなことで感情の制御ができなくなるなんて、本当に情けないわね………、)


 彼の手から芸術品のように生み出されていく髪型に魅入りながら、アザリアは心の中に巣食う感情を見ないように心がける。

 彼が触れている髪が、彼の手の甲や指先が時々擦れる耳たぶが、首筋が、おでこが、ただただ暑い。

 心臓が早鐘を打って、頬が、鼻先が、首筋が、赤くなる。


「———はい、できた」


 彼の指先が離れていく感覚に寂しさを覚えながら、アザリアは眉を下げた。


「ありがとうございます、王子さま」


 声にも、寂寥が滲んだ。


「アザリア?」


 アルフォードの怪訝そうな声に、表情に、アザリアはハッとする。


(悟られちゃダメ。演じ切らなきゃ。
 わたくしは、———暗殺姫なのだから………、)


 ふっと小さく息を吐き出したアザリアは鏡を見つめて妖艶に微笑む。


「………ただ、あなたの髪を結うスキルに感嘆していただけですわ」


 彼の手によって編み出された芸術品のような髪型は、控えめに言っても美しい。

 脳天にあるつむじの部分から横髪を巻き込んでカチューシャのように編み込んだ髪を後ろへと持っていき、側頭部と後頭部の間ほどの位置で三つ編みを重ねることによって結び目が見えないように工夫されている。
 編み込みや三つ編みはしっかりと解されていて、ところどころに真珠のパールが散りばめられている。
 窓から入ってくる陽光が頭にあたるたびに、真珠の慎ましやかな虹色の光を、艶やかで真っ赤な猫っ毛が鮮烈な輝きをはらむ。


「………ふふっ、本当に、本当に、可愛い」


 そう言うアザリアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ち、それはやがて濁流へと変化していった———。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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