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1章 幸せの花園
23 崩せなかったものと貫くもの (2)
しおりを挟む「———ティアラ、」
びくりと少女の、ティアラの身体が震える。
「………僕さ、やっと思い出したよ。君の“髪”を」
懐かしむように瞼を閉じたノアは、腰に布を巻いているだけの状態にも関わず、ナイフを握りしめているティアラに背中を向けた状態で話し続ける。
「いっとき、父上の“お気に入り”だった女の人の中に、多分だけど君の“お母さま”がいたんじゃないかな?」
「………………、」
本当に綺麗な女性だった。
そして、ティアラにそっくりだった。
「君のお母さまは国王陛下の要求を突っぱねて殺された。違う?」
「………………、」
「でも、1つだけ不思議なことがあるんだ」
無駄のない足の進め方で1歩ノアの方に近寄ってきたティアラに、ノアは鏡越しで真っ直ぐな視線を投げかける。
「君のお母さまは“平民”だったはずだ。なのに、何故、平民の女の娘であるお前が、何故、そこまでの礼儀作法を身につけている」
ノアの確信を持った瞳に、ティアラは泣きながら歪な引き攣った笑みを浮かべる。
涙の伝った後がいっぱいある真っ赤に腫れてしまったアクアマリンの瞳には、何も浮かんでいない。
「君のお母さまが亡くなったあの件は、そもそもがおかしかったんだ。国王陛下はたとえ誰であろうとも、気に入ればどんな手を使ってでも全てを手に入れるお方。普通に考えれば、あんなに美しい君のお母さまを手放すわけがない」
震える手でナイフを振り上げ、ノアの脳天目掛けて振り落としたティアラの手をくるりと掴み、痛みによってナイフを落とさせ、そしてティアラを壁へと縫い付けたノアは、にっこりと王子としての冷たい笑みを浮かべて、ティアラの首に自らの手をかける。
「もし手放したとすれば、多分それは宰相の独壇場の判断。そう考えれば、自ずと答えは見えてくる」
ぎゅっと首を絞める手に力を込めたノアは、すっと表情を消した。
「君のお母さまは他国からの《間諜》だった。違う?」
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
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※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
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