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1章 幸せの花園

38 小さな魔法使い

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 魔女はもう一度優しくノアの頭を撫で、再び動き始めた。
 だんだんと、着実にその時は目の前へと迫ってくる。

「っ、」

 唐突に辺りが開け、ノアの思い出の場所へと辿り着いた。
 野生の草が繁茂し、岩には苔も生えている少し湿気が強めの土地の中央には、焦茶色のローブを深く被ったノアと同じくらいの身長の魔法を展開している子供が、所在なさげに佇んでいた。

「………………、」

 くるっとノアの方に振り向いた小さな魔法使いは、何も話さない。
 場に満ちるのは風に揺られた葉の擦れる音と、草が踏みそめられる音のみ。
 周囲に転がる焦げた変死体を視線に入れないようにしながら、ノアはと小さな魔法使いを真っ直ぐと見つめる。

「———余計なお世話」

 先に静寂を破ったのは小さな魔法使いの方だった。
 声の質からしておそらくは女の子。

「あらあらぁ、死にかけの子娘如きがぁ、先輩相手に噛み付くのぉ?」

 魔女から発せられた背筋が凍りつくほどの冷たい声に、ノアはひゅっと息を飲み込んだ。無意識のうちに握り込んだ拳には強い痕がついてしまうほどに身体が強張っている。

「………魔女の業界では強さこそがすべてのはずよ」
「そうねぇ。じゃあ聞くけどぉ、お前は《永遠の魔女》たるわたしよりもぉ、自分の方が強いとでも思っているのぉ?ほとほと呆れるわぁ」
「長い時間を生きてるだけの年嵩ババアなんて怖くないわ」
「………なるほどねぇ、なんでお前がこれほどまでに才能に恵まれているのにも関わらず弱いのか分かったわぁ」
「はあ?何をっ!?」

 もう一度言い募ろうとした少女の身体が宙へと投げ飛ばされる。
 無詠唱で使用された圧倒的力を持つ魔女の魔法は、いとも簡単に少女が身体の周りに張っていた結界を破壊し、襲いかかる。

 ———僕と同等、いや………、戦い方次第では圧勝、かな………?

 大変失礼なことを冷静に分析したノアは、空中で宙吊りされたままきゃんきゃん吠えている小さな魔法使いに、呆れた視線を向ける。

「………君、威勢がいいのは良いことだと思うが、」

 そこで言葉を区切ったノアは、小さな魔法使いに憐憫と哀れみ、そして呆れの含んだ視線と声を抜け、ぶっきらぼうな言葉をかける。

「———パンツが丸見えだぞ?」

 ノアの視線の先にあるもの、それは可愛いクマちゃんがお尻の位置にどどんと描かれた、イチゴ柄のパンツだった。

「び、」
「び?」
「びゃああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 激しい絶叫に耳を塞いだ魔女は、やがて小さな魔法使いを地上へと下ろす。
 魔女が小さな魔法使いを連れてログハウスへと帰宅する頃には、ノアのほっぺたは左右ともに赤く紅葉柄に腫れ上がってしまっていたらしい———。

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