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1章 幸せの花園

42 天才と秀才 (2)

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 思わず凄みのある声を出したノアに、リュシエンヌがビクリと肩を震わせた。大きく跳ねた肩を横目に見たノアは、新緑の瞳で遠き日の出来事を見つめる。

『………ごめんなさい、先生。………………じょーずにできなくて、ごめんなさい』

 幼き頃のノアはまだ何もできない、今も何もできないけれど、更に何もできない、無能なチビっ子だった。
 国王夫婦に遅くになってやっとできた待望の後継ぎの子供なのに、無能で、役に立てなくて、努力してもなかなか実らせることができないノアに、周囲はヤキモキしていた。
 無能な王と浪費癖が酷い癇癪持ちの妃から生まれた子供であるノアが真っ当に育つよう、周囲はこれでもかというほどに気を使っていた。
 けれど、生まれて間もない頃から開始された徹底的な英才教育は、ノアを賢くはしてくれなかった。何度も何度も挫折して、その度に布団に頭を突っ込んで涙が枯れるまでみんなから隠れて泣いた。

 ノアは必死に頑張った。
 死ぬ気で努力した。
 ノアには努力以外の道なんてなかったから、当然のことだった。

 ノアは努力の凄さを知っている。
 努力の報われなさを知っている。

 最後に笑うのが才能を持って生まれてきた“本物の天才”だということも、秀才にはいずれ限界が訪れることも、けれど、秀才は天才になり得る事もあることを、ノアはちゃんと知っている。

 ノアは天才だと言われてきた。
 恵まれた寵児だと周囲に言わしめて見せてきていた。

 ノアは努力の人間だ。
 才能の人間なんかじゃない。

 ただ、———諦めなかっただけ。

 天才になっる秀才は、よく言えばただの努力家、悪く言えば諦めを知らない凡人であると、ノアは思っている。
 諦めないことこそが最大の“才能”であると思っている。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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