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1章 幸せの花園
48 本当の願い (1)
しおりを挟むほうっとため息を吐くと、花々が笑うようにざわめいた。
そのざわめきに苦笑して、ノアは何輪かの花を詰む。
ノアの向かう先には美しい2つのクリスタル。
「ねえ、ティアラ。君ならばもっと上手に振る舞えるのかな?」
美しき結晶は何も言わない。
ただただ残酷なまでの美しさを誇っているだけ。
「ねえ、フク。どうやったら僕は上手に笑えるのかな?」
花々が嘲笑うようにざわめく。
陽が沈んでいく。
夕闇が侮蔑を込めた漆黒でノアの身体を包み込む。
「魔女さまはとってもとっても優しいんだ。誰よりも優しくて、誰よりも繊細な人。魔女さまは絶対に君達に深入りしようとはしなかったね」
花弁が宙を舞うのを見つめながら、ノアは大きなため息をこぼす。
「ねえ、魔女さまには何が見えているのかな。何を考えているのかな。僕にはいつも分からない。あの人と一緒にいる時だけは、王子教育で叩き込まれた読心術も全くもって役に立たなくなる」
歪な笑みを浮かべたノアは、ぎゅっと己の身体を抱きしめる。
「魔女さまは得体が知れない。僕には、あの人の深淵を覗けない。あの人の根底にあるものを推し量ることができない」
何度も何度も読もうとして、失敗して、悔しくて、もう1度挑戦して、失敗して、………失敗するたびに、ノアの無能さを思い知らされてきた。情けなくて仕方がなくて、苦しくて、寂しくて、心の中に何度も北風が舞い込んできた。
「………魔女さまはリュシエンヌとも少し、距離を置いているんだ。ずっとずっと色んな人と関わってきたから、僕にはわかる。気づかれないように、慎重に、丁寧に、違和感を抱かれないように、距離を置いている」
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