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1章 幸せの花園
59 魔法は救いか禍か。 (1)
しおりを挟む走って走って逃げた先は、いつも通りの花畑。
月花草が風に靡きながら咲き誇り、双月が雲に隠れながら笑っている。
「っ、」
どうしようもない涙が溢れて、月花草の群青色に輝く花弁へと滴り落ちる。
何度失えば、この悲しみを感じずに済むのだろうか。
何度味わえば、この苦しみに慣れるのだろうか。
残念ながら、幼く未熟なノアにはその答えを持ち合わせることができていない。
それどころか、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまっているせいで、まともな思考回路すらも失われつつある。
冷静であろうとすればするほどに、凪いだ心を手に入れとうとすればするほどに、ノアの心はズキズキと鋭い痛みを訴える。
ノアの未熟な魔法では、ティアラも、フクも、リュシエンヌも、誰も守れなかった。
それどころか、傷つけ、死んでしまうきっかけを与えてしまった。
ノアは王子さま失格だ。
王子さまは、強く、正しく、優しくあらなければならないのに、公平であらなければならないのに、ノアはいつも公平さを見失ってしまう。
手が届く範囲のもの全てを守ろうとしてしまう。
そんなこと、———できるはずがないのに。
ノアは手が届く範囲じゃない全てのものまでも、ノアは王子さまとして守らなければならない。
ノアには、守る責務がある。
けれど、今のノアでは全くもって歯が立たない。
身短な者すらも守ることができないノアに、何の価値があるというのだろうか。
そもそも、ノアには価値があるのだろうか。
分からない。
分からなさすぎて、胃が痛い。
喉に迫り上がってくるひりひりと熱い感覚に任せ、ノアは胃の中を空っぽにするかのように吐き続ける。
なんで吐いているのか、なぜこんなにも気持ち悪いのか分からない。
治らぬ吐き気の原因も、涙の原因も、ノアには回答を持ち合わせることができていない。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
これからもこのノロノロペースでの更新になってしまいそうです………😭
今日から3日間は連続更新となりますが、その次の話以降は気長にお待ちください🙇♀️
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