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「できたっ?」
「んー、できたよー」

 いつもとは比べものにならないぐらいに積極的な姿に少し驚きながらも、僕は使い捨ての小皿に装ったたまご粥をきなこさんに持たせようとする。
 けれど、彼女は一向に受け取らない。

「食わんの?」
「食べる」
「ん。なら、ほらお取り」
「やっ!」

 プイッと横を向いたきなこさんに、僕は惚ける。

(なに?この可愛ええ生き物はっ!!)

 何をするのが正解かわからない僕は、若干困りながらも、可愛い彼女のせいで全てを許してしまう。

「あー」

 だがしかし、次の瞬間に彼女がとった行動で僕は全てを悟った。

「食べさせてほしん?」
「ん」
「僕なんかが食べさせてええん?」
「ええの」

 可愛いきなこさんのお願いを僕が聞かないわけがない。
 「あ」と無防備に開けられた可愛い可愛いお口の中にふーふーしてしっかり冷ましたたまご粥を、そうっと入れてあげる。

「んっ!美味しい!!」

 嬉しそうにはしゃぐ彼女のお口の中に、何度も何度もたまご粥を入れてやる。
 作った量の半分を食べたところで、彼女はギブをした。

「お菓子はいらん?」
「要るっ!!でも、おなかいっぱい………、」
「ほな、ちょっとだけ食べたら残りは冷蔵庫入れとくな」
「ん!お粥も?」
「そうしとくな」

 言い聞かせるように優しく声をかけると、きなこさんは嬉しそうに反応する。
 行く前に作ったばかりのみかんゼリーを取り出した僕は、また使い捨ての皿に少量ゼリーを装い、そこではたっと気がついた。

(お薬、混ぜていけば難なく飲ませられるんやね?)

 先程から見える赤ちゃん返り状態から言って、彼女は間違いなく薬を飲んでくれない。

 なら、………。

 僕はゼリーの中に風邪薬の錠剤を混ぜる。

 そうして準備を終えた僕は、彼女にニコッと微笑んだ。

「みかんゼリーやでー」
「食べる!」

 あーっとお口を開けた彼女につるんとした喉越しの柔らかいゼリーを流し込む。

「んー!!めちゃめちゃ美味!美味なの!!」
「よかったなぁ」
「うん!」

 ご機嫌に食べていく彼女は、そこにお薬が混ざっていたことにも気が付かず、どんどんどんどんゼリーを食べていく。そして、お皿ははあっという間に空っぽとなった。

「ごちそーさまでした!」
「おそまつさまぁ」

 食べ終わった彼女の頭を撫でると、やっぱりそれなりに熱い。

「親御さんいつ帰ってくるん?」
「………ママとパパはね、きなこのことが嫌いでうとましーんだよ」
「そっか」

 なんとなく闇を感じた僕は、そこで質問をやめた。

「ほな、僕は帰るよ。なんかあったらメールちょうだいな」
「や」
「えー、だめなん?」
「かえっちゃやなの」

 甘えるように服を引っ張られる。
 メタクソ可愛い。

 でも、だが、僕は男で、きなこさんは女だ。
 許されるわけがない。

(頑張れ、僕の理性)

 必死に動員させた僕の理性だが、結構崩壊寸前だ。

「カカオくん」

 甘えたように言われた瞬間、僕のハートは撃ち抜かれた。

「きなこさんが寝るまでな………、」

 結局その日、僕が帰宅することができたのは姫野家のタワマンを訪れてから4時間後の出来事であった———。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
次の話は明日の7時です!!

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