完 馬鹿兄貴の尻拭いで悲しみに暮れた妖精姫に会いにいったら、愛犬にされた件について。

水鳥楓椛

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エーットー、ダレノコト?

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「………………」

 悲しみに暮れている彼女は俺に返事をくれない。
 ちゃりちゃりと両手で大事そうに握りしめているネックレスに、俺の心はぎゅーっと締め付けられる。あれはおそらく、兄上がフローラ公爵令嬢に送ったというプラチナでできたネックレスだろう。

「………わたくしはなぜあの場に呼ばれたのでしょうか」

 今にも壊れてしまいそうな虚ろな視線が向けられた瞬間、俺は息を呑む。
 ぼろぼろに痩せこけ皺くちゃのネグリジェを身につけてなお、妖精姫と謳われるフローラ公爵令嬢は、その渾名を納得せぬわけにはいかないくらいに大層美しい。

「愚兄の残虐な性格ゆえかと」
「わたくしは今までの人生全てである16年をあのこのために捧げてきましたわ。全てを我慢して、あの子中心の生活を送って参りました」
「申し訳ございません」

 俺は彼女の人並外れた努力を知っているがゆえに、謝るしかできない。
 彼女は未来の兄上の妻として、未来の王太子妃として、未来の国母として、日夜、勉学やマナー等の様々なレッスンに睡眠時間を削って励んでいた。

 苦しかっただろう。
 悲しかっただろう。
 辛かっただろう。
 遊びたかっただろう。

 周囲の人間が遊んでいるのを横目に教育を受けることがどんなに辛いことか、俺は知っている。
 未来のためだと言われても、国のためだと言われても、受け入れられないことはある。

「わたくしはたった一夜で失った」
「我が愚兄の行動、弁明のしようもございません」

 美しい若葉の瞳に広がる真髄の闇に、俺のくちびるは情けなく震える。

「あのこの全てが愛おしかった。あのはわたくしの人生そのものだった」
「っ、」
(あぁ、兄上よ。あなたは何故、こんなにも真っ直ぐに自らを愛してくれる女性を粗末に扱ったんだ………!!)

 控えめに言って兄上の心情が理解できない。

「なのに、失う瞬間にすら立ち会えなかった」
「ん?」

 俺は表情がピシリと固まるのを感じた。

(いやいや、そこは普通立ち会えなくない?というか、婚約者が寝取られる瞬間を拝みたかったの?)

 大混乱に陥った俺は、ぱちぱちと何度も瞬きを重ねる。

「わたくしの愛おしいマックス。可愛いマックス。あぁ、あいつのせいで、バディーとかいうクズのせいで、わたくしは生まれた時からずっと一緒のあのこの死に目にすらも会えなかった!!」

 フローラ公爵令嬢の叫びに、俺は首を大きく傾げた。

「エーットー、ダレノコト?」

*******************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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