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2章. 消えた一族

14. 助けを呼ぶ声

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 この街──レイゾルテは、王都と国境の丁度中間くらいに位置する街だ。色んな街の経由地点ということで活気はそこそこあり、大通りには出店も多い。その為そこでご飯を買っても良かったのだが……そういえば、自分の部屋に剣置きっ放しだな。俺は軍が所有している宿の一室を借りており、大抵そこで寝泊まりしているものの、色んな人のところに行ってもいた。そう、まあ大体セックスの誘いで。だが、カレルのこともあるし誘いはしばらくは受けないだろうな。
 まだ仕事に復帰しないとはいえ何があるかわからないし、少し遠いが取りに行くか、剣。折り畳みナイフと自らの身体しか武器がないのは不安だ。そのせいでつい最近足を怪我したのだし……。そうと決まれば、その方向に向けて歩みを進める。カレルの診療所は大通りの一本中にあり、少しだけ静かだがそれでも人通りは多い。石造りの建物や煉瓦造りの建物が立ち並ぶ道を、人を避けながら進んでいく。

「そこの兄さん、軽食はどうだ~? うちのは美味いぜ」
「また今度是非」

 出店の店主からの誘いを受け流しつつ、勧められたものを一応見ておく。確かにスパイスがかかっているような、良い匂いのする肉の串焼きは美味しそうではあるが、先に食べ物を買うと歩き辛くなる。買うのは剣を持ってからにしたい。
 武器の携帯は申請すれば認められてはいるものの、さすがに腰に剣を提げていると目立つが、まあ仕方ない。この街に2年も軍人として勤めていれば大体の騎士に顔を覚えられてはいるし、引き留められて面倒なことになることはないだろう。

 古びてはおらず真新しさもない、外観については特筆することがない二階建てで石造りのごく普通の宿に着いて、フロントに声をかける。

「ルイス・ローザーだ」
「はい、ルイス・ローザー様ですね。では確認を」

 そう言われ、髪の右側をかき上げて軍人ナンバーを見せる。軍服を着ていれば階級を示すバッジが付いていて、名前と軍人ナンバーを口頭で伝えればいいのだが、今は私服である為こうする他ない。

「軍人ナンバー0452、確認致しました。それではこちらの鍵をどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 鍵を受け取って、2階の自室に向かう。ここでは、鍵はいちいち預けるシステムだ。何故なら、この宿は軍人しか借りていない為に、全ての部屋にそれぞれの武器が保管されているから。武器を奪われるなんてことがないように、セキュリティがしっかりしている。だからフロントを担当するのは、襲われても対応ができるように、ある程度の戦闘能力を持った人だ。

 2階の1番角の部屋──そこが俺の部屋だ。鍵を使って中に入ると、殺風景な光景が広がっているのがわかる。本当に必要最低限のものしかなく、あると言えば本くらいのものだ。ベッドの横に立て掛けていた剣を手に取り腰に提げて、軍服といくらか着替えも持ち出した。実は今着ている下着は、カレルからの借り物である。
 カレルを待たせているから長居するつもりはない。手提げを肩にかけながら、階段を降りてフロントに鍵を返却する。そして出店が立ち並ぶ所に向かった。通り道にあった美味しそうなコーヒー豆を買いつつ、何を買おうかと思考を巡らせる。

 栄養が摂れるものの方がいいんだろうか。それとも、そんなことより量あるものの方がいいのだろうか。わからないから、両立できるものの方がいいな。と考えていると、野菜が沢山入ったミネストローネとパスタを混ぜたような料理が売っているのを見つけ、購入する。自分の分は普通盛りが1つで、カレルのは大盛りが2つ。あとは飽きてしまうだろうから味を変えて、ビシソワーズの冷製パスタの大盛りが2つ。そしてまだ足りなそうだなと思って、キャロットラペとキャベツと鶏肉のグラタンも2つ購入。凄い量だな、何人分だこれは。
 夏とはいえ身体を冷やし過ぎるのもよくないし、温かいスープパスタとグラタン、冷たいスープパスタとサラダでバランスが取れるだろうか。買ったものがカレルの口に合うといいなあと思いながら、帰路についた。


「ただいま。遅くなって悪い」
「おかえりなさい。うわあ、凄い荷物ですね……! 足は大丈夫ですか?」
「ああ、問題なさそうだ」
「それは良かった……!」

 買った料理をカレルに渡して、自分の荷物は邪魔にならないところに置いておく。まだ動きが緩慢なカレルを見て、心配と意地悪心混じりに声を掛けた。

「カレルこそ、腰はどうだ?」
「う、……湿布を貼りましたので、ご心配なく……」
「ふふ、そうか」
「なんですか」
「いや?」

 じとりとした視線を躱しながら、手を洗って席に着いた。俺が自分の荷物を片付けている間に、カレルが料理を机に並べておいてくれたらしい。

「それじゃあ、食べるか──」
「──大変だ!! 誰か止めてくれ!!」

 折角食べようというところで、外から大声が聞こえた。……助けを呼ぶ声を聞かなかったことにするのは、できない性分だ。フォークを置いて、ソファーから立ち上がる。

「すまない、少し様子を見てくる」
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