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2章. 消えた一族
15. 謎の少年
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「は、はい! お気をつけて」
「危ないかもしれないから、カレルはここに居ろよ?」
「は、い……」
普通ならばきちんと着なければならないが、緊急事態に軍服をしっかり着込んでいる時間はない。上着だけ羽織って、何かあった時の為に剣を持って診療所を出た。
騒動が起こっているのは、診療所近くの路地裏だった。聞こえてくる通行人達の会話から推測するに、どうやら複数の成人男性が、たった1人の少年に暴行しているらしい。その瞬間を見た周囲の女性達が悲鳴を上げている。
流石にそれは止めに入らなければ。本来なら騎士の仕事だが今近くにはいなさそうだし、そう──この街、レイゾルテの騎士達は舐められすぎている。影にも、そして人間にも。軍人の方が戦闘能力に優れているから、俺が姿を現せばさっさと退散してくれるかもしれない。
走りながら、能力を発動する。俺の能力は発動する際の予備動作は一切なく、頭の中で払う対価と上げたい能力をしっかりと思い浮かべれば、いつでも発動可能だ。逆に弱点は、思考がまともに働かない時は能力が発動できないという点だ。
精神力を少しだけ対価に払い、両足の脚力を上げる。足がまだ完治していない分、一応能力でカバーした方が安全だろう。現場に辿り着くと、頭から血を流した少年が体格の良い男に殴りかかられているところだった。
「やめろ」
常人からかけ離れた跳躍力で少年の前に辿り着き、男が振り上げていた腕を掴んで止める。少年は、意識はあるようだが、何度も殴られたようで出血が多く怪我も多い。
「なん、……軍人か。チッ」
「少尉か、……めんどくせえな、ずらかるぞ!」
5人の男達が顔を見合わせ荷物を持って逃げ去ろうとするのを、目の前の男を剣の柄で殴り気絶させることで止める。一歩間違えば少年一人を殺していたんだぞ。逃がす訳ないだろうが。
直様近くにいたもう一人も気絶させ、驚いて立ち止まった一人と、逆上して近づいてきた一人の意識も奪う。そして最後の一人は少しだけでも情報を聞き出すべく、気絶させずに首に剣先を突き付けた。
「どうして少年一人にここまでした?」
「……。……こいつが!」
流石に剣を突き付けられては下手に抵抗できないのか、後退りながら少年を指差した。
「こいつが悪いんだよ! 俺達の組織の情報を奪おうとするから!!」
「……組織? 情報? もっと詳しく」
「知らねえ! 俺らは下っ端だ、こいつの捜索を任されて、偶々沢山いる捜索グループん中で俺達が最初にこいつを見つけたってだけだよ!!」
あまりはっきりとした情報ではないが、今は興奮しているし、これ以上聞き出すのは無理そうだな。無理矢理聞き出してもいいが、それよりこの少年の治療が優先だ。
手荒だが、また剣の柄で男を気絶させる。あとは騎士に任せたいのだが──ああ、やっと来たな。
「ローザー少尉……! いつもありがとうございます、遅れてすみません……」
「誰かが犠牲になる前に間に合ったんだから気にしなくていい。だが、今度は貴方自身が間に合うようにな。軍への報告は俺がしておくから、騎士団への報告は任せていいか?」
「はい……! 精進します……!」
騎士に向かって軍隊式の敬礼をした後、少年に声をかけながら横抱きにすると、それを見た騎士から騎士団式の礼を返されて軽く会釈した。黒と金を基調とし、そして襟と袖口に赤の差し色が入った軍服と違い、騎士団服は白と金を基調とし、襟と袖口に青の差し色が入っている。盾を背負い剣を腰に提げた、この赤い髪に橙色の瞳を持った若い騎士は、いつも軍人に対して礼を尽くしてくれるから顔は覚えているが名前は……確か騎士仲間にユース、と呼ばれているのを聞いたことがあるな。今度直接聞こう、と考えつつ走ってカレルの診療所へ向かった。
「大丈夫か、名前は?」
「……」
「話したくなかったらとりあえずそれでもいいが、手当てをしてもいいか教えてくれ。診療所に連れて行っても?」
相変わらず声は出してくれないが、少年はこくりと頷いてくれた。警戒されているようだが、助けた相手ではある為多少は気を許してくれているようだ。カレルと同じ黒い髪が、血で赤黒く塗れており痛々しい。瞳の色は深い緑で、歳は10代前半に見える。
診療所の前まで来ると、心配したのかカレルが扉を開けて外に立っていた。
「カレル! すまない、手当てをしてやってくれないか」
「えっ?! その子はどうしてそんな怪我を」
「男5人に囲まれて暴行を受けていた。今のところこの子のことはそれくらいしかわからない。喋れないのか、それとも喋りたくないのか……何も聞けていない。軍へ連絡したいから、この子のことはひとまずカレルに預けていいか? 寝台まで運ぶ」
「わかりました!」
カレルと共に、急いで診療所の中に入る。酷い怪我だというのに、少年はあまり痛がっているような様子がなく、ただただ大人しかった。カレルが治療を進めていくのを横目で見つつ、通信機でこの街の軍人達に連絡を入れておく。報告した結果、少年の治療が終わった後に俺がまたこの子に話を聞くことになってしまった。……助けた相手には、多少口が開きやすいだろう、との考えだ。今日は非番だったのだが……仕方ない。そして騎士団は、捕らえた5人の事情聴取を担当するらしい。後で情報の擦り合わせをしないとな。
冷えてしまった昼食を見つつ、ふと息を吐いた。さて、これが食べれるのはいつになることやら。
「危ないかもしれないから、カレルはここに居ろよ?」
「は、い……」
普通ならばきちんと着なければならないが、緊急事態に軍服をしっかり着込んでいる時間はない。上着だけ羽織って、何かあった時の為に剣を持って診療所を出た。
騒動が起こっているのは、診療所近くの路地裏だった。聞こえてくる通行人達の会話から推測するに、どうやら複数の成人男性が、たった1人の少年に暴行しているらしい。その瞬間を見た周囲の女性達が悲鳴を上げている。
流石にそれは止めに入らなければ。本来なら騎士の仕事だが今近くにはいなさそうだし、そう──この街、レイゾルテの騎士達は舐められすぎている。影にも、そして人間にも。軍人の方が戦闘能力に優れているから、俺が姿を現せばさっさと退散してくれるかもしれない。
走りながら、能力を発動する。俺の能力は発動する際の予備動作は一切なく、頭の中で払う対価と上げたい能力をしっかりと思い浮かべれば、いつでも発動可能だ。逆に弱点は、思考がまともに働かない時は能力が発動できないという点だ。
精神力を少しだけ対価に払い、両足の脚力を上げる。足がまだ完治していない分、一応能力でカバーした方が安全だろう。現場に辿り着くと、頭から血を流した少年が体格の良い男に殴りかかられているところだった。
「やめろ」
常人からかけ離れた跳躍力で少年の前に辿り着き、男が振り上げていた腕を掴んで止める。少年は、意識はあるようだが、何度も殴られたようで出血が多く怪我も多い。
「なん、……軍人か。チッ」
「少尉か、……めんどくせえな、ずらかるぞ!」
5人の男達が顔を見合わせ荷物を持って逃げ去ろうとするのを、目の前の男を剣の柄で殴り気絶させることで止める。一歩間違えば少年一人を殺していたんだぞ。逃がす訳ないだろうが。
直様近くにいたもう一人も気絶させ、驚いて立ち止まった一人と、逆上して近づいてきた一人の意識も奪う。そして最後の一人は少しだけでも情報を聞き出すべく、気絶させずに首に剣先を突き付けた。
「どうして少年一人にここまでした?」
「……。……こいつが!」
流石に剣を突き付けられては下手に抵抗できないのか、後退りながら少年を指差した。
「こいつが悪いんだよ! 俺達の組織の情報を奪おうとするから!!」
「……組織? 情報? もっと詳しく」
「知らねえ! 俺らは下っ端だ、こいつの捜索を任されて、偶々沢山いる捜索グループん中で俺達が最初にこいつを見つけたってだけだよ!!」
あまりはっきりとした情報ではないが、今は興奮しているし、これ以上聞き出すのは無理そうだな。無理矢理聞き出してもいいが、それよりこの少年の治療が優先だ。
手荒だが、また剣の柄で男を気絶させる。あとは騎士に任せたいのだが──ああ、やっと来たな。
「ローザー少尉……! いつもありがとうございます、遅れてすみません……」
「誰かが犠牲になる前に間に合ったんだから気にしなくていい。だが、今度は貴方自身が間に合うようにな。軍への報告は俺がしておくから、騎士団への報告は任せていいか?」
「はい……! 精進します……!」
騎士に向かって軍隊式の敬礼をした後、少年に声をかけながら横抱きにすると、それを見た騎士から騎士団式の礼を返されて軽く会釈した。黒と金を基調とし、そして襟と袖口に赤の差し色が入った軍服と違い、騎士団服は白と金を基調とし、襟と袖口に青の差し色が入っている。盾を背負い剣を腰に提げた、この赤い髪に橙色の瞳を持った若い騎士は、いつも軍人に対して礼を尽くしてくれるから顔は覚えているが名前は……確か騎士仲間にユース、と呼ばれているのを聞いたことがあるな。今度直接聞こう、と考えつつ走ってカレルの診療所へ向かった。
「大丈夫か、名前は?」
「……」
「話したくなかったらとりあえずそれでもいいが、手当てをしてもいいか教えてくれ。診療所に連れて行っても?」
相変わらず声は出してくれないが、少年はこくりと頷いてくれた。警戒されているようだが、助けた相手ではある為多少は気を許してくれているようだ。カレルと同じ黒い髪が、血で赤黒く塗れており痛々しい。瞳の色は深い緑で、歳は10代前半に見える。
診療所の前まで来ると、心配したのかカレルが扉を開けて外に立っていた。
「カレル! すまない、手当てをしてやってくれないか」
「えっ?! その子はどうしてそんな怪我を」
「男5人に囲まれて暴行を受けていた。今のところこの子のことはそれくらいしかわからない。喋れないのか、それとも喋りたくないのか……何も聞けていない。軍へ連絡したいから、この子のことはひとまずカレルに預けていいか? 寝台まで運ぶ」
「わかりました!」
カレルと共に、急いで診療所の中に入る。酷い怪我だというのに、少年はあまり痛がっているような様子がなく、ただただ大人しかった。カレルが治療を進めていくのを横目で見つつ、通信機でこの街の軍人達に連絡を入れておく。報告した結果、少年の治療が終わった後に俺がまたこの子に話を聞くことになってしまった。……助けた相手には、多少口が開きやすいだろう、との考えだ。今日は非番だったのだが……仕方ない。そして騎士団は、捕らえた5人の事情聴取を担当するらしい。後で情報の擦り合わせをしないとな。
冷えてしまった昼食を見つつ、ふと息を吐いた。さて、これが食べれるのはいつになることやら。
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