影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

文字の大きさ
25 / 37
2章. 消えた一族

15. 謎の少年

「は、はい! お気をつけて」
「危ないかもしれないから、カレルはここに居ろよ?」
「は、い……」

 普通ならばきちんと着なければならないが、緊急事態に軍服をしっかり着込んでいる時間はない。上着だけ羽織って、何かあった時の為に剣を持って診療所を出た。

 騒動が起こっているのは、診療所近くの路地裏だった。聞こえてくる通行人達の会話から推測するに、どうやら複数の成人男性が、たった1人の少年に暴行しているらしい。その瞬間を見た周囲の女性達が悲鳴を上げている。
 流石にそれは止めに入らなければ。本来なら騎士の仕事だが今近くにはいなさそうだし、そう──この街、レイゾルテの騎士達は舐められすぎている。影にも、そして人間にも。軍人の方が戦闘能力に優れているから、俺が姿を現せばさっさと退散してくれるかもしれない。
 走りながら、能力を発動する。俺の能力は発動する際の予備動作は一切なく、頭の中で払う対価と上げたい能力をしっかりと思い浮かべれば、いつでも発動可能だ。逆に弱点は、思考がまともに働かない時は能力が発動できないという点だ。
 精神力を少しだけ対価に払い、両足の脚力を上げる。足がまだ完治していない分、一応能力でカバーした方が安全だろう。現場に辿り着くと、頭から血を流した少年が体格の良い男に殴りかかられているところだった。

「やめろ」

 常人からかけ離れた跳躍力で少年の前に辿り着き、男が振り上げていた腕を掴んで止める。少年は、意識はあるようだが、何度も殴られたようで出血が多く怪我も多い。

「なん、……軍人か。チッ」
「少尉か、……めんどくせえな、ずらかるぞ!」

 5人の男達が顔を見合わせ荷物を持って逃げ去ろうとするのを、目の前の男を剣の柄で殴り気絶させることで止める。一歩間違えば少年一人を殺していたんだぞ。逃がす訳ないだろうが。
 直様近くにいたもう一人も気絶させ、驚いて立ち止まった一人と、逆上して近づいてきた一人の意識も奪う。そして最後の一人は少しだけでも情報を聞き出すべく、気絶させずに首に剣先を突き付けた。

「どうして少年一人にここまでした?」
「……。……こいつが!」

 流石に剣を突き付けられては下手に抵抗できないのか、後退りながら少年を指差した。

「こいつが悪いんだよ! 俺達の組織の情報を奪おうとするから!!」
「……組織? 情報? もっと詳しく」
「知らねえ! 俺らは下っ端だ、こいつの捜索を任されて、偶々沢山いる捜索グループん中で俺達が最初にこいつを見つけたってだけだよ!!」

 あまりはっきりとした情報ではないが、今は興奮しているし、これ以上聞き出すのは無理そうだな。無理矢理聞き出してもいいが、それよりこの少年の治療が優先だ。
 手荒だが、また剣の柄で男を気絶させる。あとは騎士に任せたいのだが──ああ、やっと来たな。

「ローザー少尉……! いつもありがとうございます、遅れてすみません……」
「誰かが犠牲になる前に間に合ったんだから気にしなくていい。だが、今度は貴方自身が間に合うようにな。軍への報告は俺がしておくから、騎士団への報告は任せていいか?」
「はい……! 精進します……!」

 騎士に向かって軍隊式の敬礼をした後、少年に声をかけながら横抱きにすると、それを見た騎士から騎士団式の礼を返されて軽く会釈した。黒と金を基調とし、そして襟と袖口に赤の差し色が入った軍服と違い、騎士団服は白と金を基調とし、襟と袖口に青の差し色が入っている。盾を背負い剣を腰に提げた、この赤い髪に橙色の瞳を持った若い騎士は、いつも軍人に対して礼を尽くしてくれるから顔は覚えているが名前は……確か騎士仲間にユース、と呼ばれているのを聞いたことがあるな。今度直接聞こう、と考えつつ走ってカレルの診療所へ向かった。

「大丈夫か、名前は?」
「……」
「話したくなかったらとりあえずそれでもいいが、手当てをしてもいいか教えてくれ。診療所に連れて行っても?」

 相変わらず声は出してくれないが、少年はこくりと頷いてくれた。警戒されているようだが、助けた相手ではある為多少は気を許してくれているようだ。カレルと同じ黒い髪が、血で赤黒く塗れており痛々しい。瞳の色は深い緑で、歳は10代前半に見える。
 診療所の前まで来ると、心配したのかカレルが扉を開けて外に立っていた。

「カレル! すまない、手当てをしてやってくれないか」
「えっ?! その子はどうしてそんな怪我を」
「男5人に囲まれて暴行を受けていた。今のところこの子のことはそれくらいしかわからない。喋れないのか、それとも喋りたくないのか……何も聞けていない。軍へ連絡したいから、この子のことはひとまずカレルに預けていいか? 寝台まで運ぶ」
「わかりました!」

 カレルと共に、急いで診療所の中に入る。酷い怪我だというのに、少年はあまり痛がっているような様子がなく、ただただ大人しかった。カレルが治療を進めていくのを横目で見つつ、通信機でこの街の軍人達に連絡を入れておく。報告した結果、少年の治療が終わった後に俺がまたこの子に話を聞くことになってしまった。……助けた相手には、多少口が開きやすいだろう、との考えだ。今日は非番だったのだが……仕方ない。そして騎士団は、捕らえた5人の事情聴取を担当するらしい。後で情報の擦り合わせをしないとな。

 冷えてしまった昼食を見つつ、ふと息を吐いた。さて、これが食べれるのはいつになることやら。
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。