夏の思ひ出

憂希

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はじまり

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大学一年生の夏、沢村一毅は1人きままに旅をしていた。
自転車で行けるところまで、とにかく限界まで目的もなく走っていた。

大きな国道からやや細くなっている県道に入り、住宅街の脇道を抜けると海がみえた。

海に来たのは中学生以来。ずっと海とは無縁の生活だった。久しぶりの海はキラキラと眩しく、うーんと広かった。

海岸沿いをゆっくりと進んでいくと民宿がみえた。
今夜はそこに泊ろう。そう思い、部屋が空いているか民宿へ訪ねた。

「すみませーん」

『·····』

反応がない。人が居ないのか。もう一度声を出すも反応がない。人が戻るまで待とう、そう思ったとき。

『お兄さん、宿探してるの?』

女の子の声がした。
振り向くと学校帰りだろうか制服姿の高校生くらいの少女がこちらをみていた。

「そうなんだよ、ちょうど民宿見つけてさ。ここの民宿今日は休み?」

『そこのおばさん病気で入院しちゃったから暫く誰も来ないと思うよ』

「そっか、教えてくれてありがとう。他を探すよ。」

せっかく海岸沿いの綺麗な景色が望める場所を見つけたが、泊れないなら次を探すしかない。
自転車に乗り、その場を去ろうとすると少女が

『お兄さん、良かったらうちに泊る?うちの家旅館やってるんだけど』

そう声をかけてくれた。
新たに泊る場所を探すのも面倒くさく、探しても夏休みだ空いているとも限らないのでありがたく少女の提案にのらせてもらおう。

「いいのか?ぜひお願いしたいな。」

『ほんと!じゃあ案内するよ。』

少女の名前は海と言うようで、現在高校2年生。夏休みの部活帰りだそう。お互いの身の上話などしながら少女のあとに続き海岸沿いを進み、少し住宅街へ進んだところにその旅館はあった。

『ここ、うちの旅館。お母さんに部屋聞いてくるから待ってて。』

木造の立派な門構えの前庭が綺麗に整えられている、老舗と呼ばれるような、そんな旅館だった。
急に財布の中身が心配になった。
なにせ、大学生だ。バイトと親の仕送りである程度の生活は送れているが贅沢のできる立場ではない。
親切にしてもらったが帰るしかないかな。
そう思ったとき、

『お兄さん、部屋空いてるって!お母さーん、お部屋案内してもいいー?』

『海、落ち着いて。あら、いらっしゃい。この子の母でこの旅館の女将をしています。この子が御迷惑をかけているみたいで、すみません。』

「いえいえ、宿を探していたところ声をかけていただいて助けていただいただけで迷惑はかけられてませんよ。
ただ、お恥ずかしながら…とてもこのような立派な宿に泊るお金は持ち合わせていなくて…」

『娘が強引に連れてきた方にそんなお金を請求しませんよ、ふふ。旅館も歴史だけはある古いものです。ましてやこんな田舎に来てくださっているんだから、おもてなしさせてくださいな。』

『お兄さん他に泊るところなんてこの辺りはそんなに無いんだから、泊っちゃえばいいよ』

「・・・では、お言葉に甘えさせていただいても良いですか?お掃除など手伝えることは手伝いますので。」

『まぁ!そんなこと気にしなくても良いのですよ。あまり気に病むようでしたら海の相手をお願いしても良いですか?この娘目を離すとろくなことをしないので…』

『お母さん!酷い!こんなに旅館思いな娘居ないんだからね!お客さん呼び込んであげたのに!』

『この通り、強引で…お転婆なのよ。海、このお兄さんを町案内してあげたら?』

『お兄さんこの町初めてって言ってたもんね!いいよ!案内するよ!』

『お部屋への案内が終わったら、行ってきなさいな。18時には夕食の準備があるから戻ってらっしゃいね。』

『はーい』

女将さんのご厚意で泊れるのと観光までできることに感謝し、部屋に荷物を置きに行った。
部屋は403号室。
荷物も粗方整理し、海ちゃんに町案内をお願いした。
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