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26,やめたくない
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3年後。
「あー…やめたくない」
護衛用の事務室では、レイニーが事務机に突っ伏し、先ほどから同じ台詞をぼやいていた。
「しっかりしろ、レイニー。お前も護衛長だろう」
その隣に座るシャウアが叱咤するが
「知らん…。やる気ない」
と、顔を反対側に向けてしまう。
「ふざけるな。俺だけにやらせる気か?」
「だってよー…シオンはまだ21だぞ?9年もそばにいられないんだぞ?」
「仕方がないだろう」
ふたりは今年30歳を迎え、近々王室護衛を退職する。護衛はその過酷な任務ゆえ、30歳で定年退職となるのだ。退職後、使用人として城に残る選択肢もあるが、双子は故郷の街に帰り、そこの警備員として駐在することが決まっていた。
彼らの前でやりとりをただ見ているしかないのは、次期護衛長となるトージ。今年26歳になり、金眼保有者の血縁ではないがその真面目さと人望の厚さをかわれて任命された。次期護衛長は基本、現護衛長が選ぶことになっている。
引き継ぎのために呼び出されたのはいいが、ふたりがこの調子なので内容が頭に入ってこないでいた。
「まったく、お前はシオンのこととなると本当に役立たずになるな」
シャウアはため息をつき、引き継ぎ資料を手にとる。
「お前に言われたくない。資料逆さまだぞ」
「…」
ムッとしたレイニーに指摘され、図星で固まる。割り切っているように見えるシャウアも、シオンが絡むとポンコツになる。
「あの、護衛長」
見兼ねたトージが口を挟む。
「シオンのことがご心配なのはわかりますが、彼なら大丈夫ですよ」
護衛長ふたりがシオンを必要以上にかわいがっているのは、城内の者全員が周知のことだ。退職して残していく彼が気がかりなのだろう。少しでも安心させようと、トージは話す。
「冷静で礼儀正しいですし、戦闘能力も私より上位です。護衛長が退任なさっても、変わらず国のために」
「何わかりきったことをほざいているんだ…?」
レイニーが顔を上げ、低い声でトージの話をさえぎる。
「えっ?」
「俺たちが心配しているのはそんなことではない。俺たちがそばにいられなくなったら、下心のある悪い虫どもがつき放題になる」
シャウアは資料を机に投げつける。
「わ、悪い虫…?皆、シオンを慕いこそすれ、下心のある者などいませ」
「んな訳ないだろがぁあああ!!お前の目は節穴かぁ?!!」
「ひぃ?!」
何の冗談かと思うトージを、レイニーは机を叩いて怒鳴りつける。
「お前だって、シオンのことをかわいいかわいい言ってただろがあぁぁあっ!!」
「そっ…それは彼が幼い頃で…っ!」
指差され、トージはあたふたと言い訳する。
「やめろ、レイニー。トージにわめいたところで何も変わらない」
「はぁ~…わかってる」
シャウアに制止され、レイニーは大きなため息をつく。
「あー…やめたくない」
そして、またぼやきながら、机に突っ伏した。
「…」
トージは護衛長に就任したら、一番の仕事は護衛たちの統率ではなく、シオンの下世話な噂話が彼らの耳に入らないようにすることだと思った。
城の一室。今夜は退職する護衛たちの歓送会と銘打った宴会が行われていた。夜勤者以外の護衛たちがほぼ参加し、日頃の過酷な任務の反動か、かなり盛り上がった。
「あ~あ…本当にやめるんだな…」
「ああ…」
ウェア人は酒豪が多いが、夜半を過ぎるとさすがにほとんどの者が自室に戻り、あとの者は酔い潰れて床やテーブルに突っ伏して眠っている。その中で、生き残っている主役の護衛長、レイニーとシャウアはちびちびとコップの酒を口にしながらぼやいていた。こうして、歓送会を開かれると退職することを嫌でも実感する。
「週イチ…いや、毎日様子見に来てやろうかな…」
「やめておけ。お互いの仕事に支障が出る」
「…だな」
やはり気になるのは目の届かなくなるかわいい弟分のこと。現実味のないことをぼやくレイニーにシャウアが首を振り、ふたりで自嘲する。
「レイニーさん、シャウアさん」
そこへ、夜勤であるはずのシオンが部屋に入ってくる。
「「シオン!?」」
双子は驚き、椅子から立ち上がってシオンにかけ寄る。
「お前は入ってくるな!!」
「また倒れたらどうする!」
シオンはアルコールに極端に弱い。こんな酒の匂いが充満した部屋に入ったら酩酊してしまう。だから、ふたりはあえてシオンを夜勤にしたのだ。
「短時間なら、大丈夫です」
部屋から出そうとするふたりに、シオンはサングラスを外して微笑む。
「長年のお勤め、お疲れさまでした」
そして、床に片膝をつくと深々と頭を下げた。
「それから、私が幼い頃からいつも気にかけてくださり、護衛となってからも多くの場面で助けていただきました。この場でお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
双子がアルコールに弱い自分のために歓送会を不参加にしてくれたとわかっているが、きちんと労いと感謝を伝えたかった。
呆然とその姿を見ていたふたりは顔を見合わせる。
「「シオンっ!!」」
ふたりでシオンを抱き起こすと、勢いよく抱きしめた。
「何だよ~っ急に改まって…っ!」
「礼を言うのは俺たちだ」
「お前がいたから、俺たちはどんな任務にも挑めたし、護衛長までつとめられたんだ…!」
「お前がいることで、どれだけ救われ、癒やされたかわからない」
「ありがとう!」
「ありがとうな」
レイニーとシャウアは交互に言いながらシオンを抱き寄せ、頭をなでまわす。最後の方は涙声になっていた。
「「お前は俺たちのかわいい弟だ」」
「…はい」
聞き慣れた言葉に、シオンは目を閉じ、ふたりの服をギュッとつかむ。兄を失った自分がこうして城で過ごし、王室護衛となれたのは彼らのおかげだ。その愛情すべてを受け入れることは出来なくとも、彼らは変わらず愛してくれた。きっと思っている以上に、ふたりは自分を救ってくれたのだろう。
「…シオン?」
ふっとシオンが脱力し、ふたりは身体を支える。
「眠っている…」
「やっぱりな」
顔を真っ赤にして寝息をたてる弟分を見て、同じ顔で笑った。
「シオン君、明日も大臣の護衛についてもらえるだろうか?」
「はい、その予定です。よろしくお願いします」
国務大臣の補佐官に頭を下げられ
「シオンさん、昨日はありがとうございました!今日はお部屋のお掃除をさせていただきたいのですが…っ」
「いいえ、私の自室は結構ですので、別の場所をお願いします」
ほほを染める使用人に礼を言われ
「シオン、ちょっと来てくれ!補佐を頼む!」
「はい、すぐ行きます」
先輩護衛にも頼られる。
シオンが城内を歩けば職種関係なくひっきりなしに話しかけられ、それらに丁寧に応える彼に皆うっとりと見惚れる。以前からシオンに好意を持つ者は多かったが、あの過保護な兄貴分たち…レイニーとシャウアが目を光らせていたので近づくのもためらいがあった。ふたりが退職して城を出たことで、気軽に話しかけられるようになったのだ。
中でも特に積極的にアプローチする者がふたりいた。
「あの、シオン君」
「はい」
「勤務明けたら…夕食を一緒に食べない?」
おずおずと誘うのは同じ王室護衛のナツ。歳はシオンよりひとつ上だが、護衛としては後輩になる。王室護衛とは思えないほど、おとなしくて気弱な印象である。
「はい、私でよろしければ」
断る理由もないシオンは、クッと口角を上げてうなずく。
「あ…良かったぁ。じゃあ、あと」
「シオン!」
ホッとするナツをさえぎるように、遠くの方から名を呼ばれる。
「はい」
「明日の任務は俺と一緒だったな。後で改めて打ち合わせをしたい」
足早に近づいて来たのは同じく王室護衛のフブキ。新護衛長のトージと同期で、金眼保有者の親族がいる血縁者。現役護衛で1、2位を争う戦闘能力を持つ実力者だ。
「わかりました」
「うん、後でな」
うなずくシオンににこっと笑み、親しげに肩を抱いてから離れていく。
「…っ」
すれ違いざまフブキに威圧的ににらまれ、ナツはビクッとして青ざめる。
「ナツさん?」
「あ、ううん…何でもないよ。後で、食堂に行くね」
「はい」
どうしたのかと名を呼ぶシオンに手を振り、彼もあたふたと離れていった。
ナツとフブキ。このふたりのシオンへのアプローチは城内でも有名になりつつある。周りが注目する中、ふたりの好意にまったく気づかない…否、まったく興味がないのはシオン本人だった。
城内の食堂。ナツとシオンはテーブルを挟んで向き合い、夕食を食べていた。食事はもう何度か共にしたことがある。
「シオン君は食事中もそれ、外さないんだね」
ナツはシオンの顔半分を隠す大きなサングラスを指す。
「はい、すみません」
「え…っご、ごめん。謝らないで」
頭を下げられてしまい、焦って謝る。
「はい、ナツさんも」
「ふふ…そうだね」
シオンがクッと口角を上げ、ナツも恥ずかしげに笑う。シオンの穏やかな雰囲気は少ない会話を交わすだけでも、ナツを幸せな気持ちにさせた。水を一口飲み、意を決してシオンを見つめる。
「シオン君」
「はい」
「食事が終わったら、僕の部屋に来ない…?」
「え?」
食事の誘い以外のアプローチは初めてで、さすがにシオンもスプーンを持つ手が止まる。
「もっと、話したいし…良かったら、お茶だけでも」
「シオン」
またもや聞き覚えのある声が、ナツの話をさえぎる。ナツの背後からやって来たフブキが、ゆっくりとシオンの横に歩み寄る。
「はい」
「食事は終わったか?明日の打ち合わせをしたいんだが」
優しく肩に手を置き、シオンの手元をのぞくように顔を近づける。
「はい、わかりました」
「待っているぞ」
フブキは勝ち誇った表情でナツを見ると、食堂を出て行った。
「…」
ナツはうつむき、テーブルの下でギュッと拳を握る。
「申し訳ありません、ナツさん」
「あ…気にしないで。また、今度でいいから」
謝るシオンに苦笑いし、食欲などすっかり失せたがスプーンを手に取った。
「あー…やめたくない」
護衛用の事務室では、レイニーが事務机に突っ伏し、先ほどから同じ台詞をぼやいていた。
「しっかりしろ、レイニー。お前も護衛長だろう」
その隣に座るシャウアが叱咤するが
「知らん…。やる気ない」
と、顔を反対側に向けてしまう。
「ふざけるな。俺だけにやらせる気か?」
「だってよー…シオンはまだ21だぞ?9年もそばにいられないんだぞ?」
「仕方がないだろう」
ふたりは今年30歳を迎え、近々王室護衛を退職する。護衛はその過酷な任務ゆえ、30歳で定年退職となるのだ。退職後、使用人として城に残る選択肢もあるが、双子は故郷の街に帰り、そこの警備員として駐在することが決まっていた。
彼らの前でやりとりをただ見ているしかないのは、次期護衛長となるトージ。今年26歳になり、金眼保有者の血縁ではないがその真面目さと人望の厚さをかわれて任命された。次期護衛長は基本、現護衛長が選ぶことになっている。
引き継ぎのために呼び出されたのはいいが、ふたりがこの調子なので内容が頭に入ってこないでいた。
「まったく、お前はシオンのこととなると本当に役立たずになるな」
シャウアはため息をつき、引き継ぎ資料を手にとる。
「お前に言われたくない。資料逆さまだぞ」
「…」
ムッとしたレイニーに指摘され、図星で固まる。割り切っているように見えるシャウアも、シオンが絡むとポンコツになる。
「あの、護衛長」
見兼ねたトージが口を挟む。
「シオンのことがご心配なのはわかりますが、彼なら大丈夫ですよ」
護衛長ふたりがシオンを必要以上にかわいがっているのは、城内の者全員が周知のことだ。退職して残していく彼が気がかりなのだろう。少しでも安心させようと、トージは話す。
「冷静で礼儀正しいですし、戦闘能力も私より上位です。護衛長が退任なさっても、変わらず国のために」
「何わかりきったことをほざいているんだ…?」
レイニーが顔を上げ、低い声でトージの話をさえぎる。
「えっ?」
「俺たちが心配しているのはそんなことではない。俺たちがそばにいられなくなったら、下心のある悪い虫どもがつき放題になる」
シャウアは資料を机に投げつける。
「わ、悪い虫…?皆、シオンを慕いこそすれ、下心のある者などいませ」
「んな訳ないだろがぁあああ!!お前の目は節穴かぁ?!!」
「ひぃ?!」
何の冗談かと思うトージを、レイニーは机を叩いて怒鳴りつける。
「お前だって、シオンのことをかわいいかわいい言ってただろがあぁぁあっ!!」
「そっ…それは彼が幼い頃で…っ!」
指差され、トージはあたふたと言い訳する。
「やめろ、レイニー。トージにわめいたところで何も変わらない」
「はぁ~…わかってる」
シャウアに制止され、レイニーは大きなため息をつく。
「あー…やめたくない」
そして、またぼやきながら、机に突っ伏した。
「…」
トージは護衛長に就任したら、一番の仕事は護衛たちの統率ではなく、シオンの下世話な噂話が彼らの耳に入らないようにすることだと思った。
城の一室。今夜は退職する護衛たちの歓送会と銘打った宴会が行われていた。夜勤者以外の護衛たちがほぼ参加し、日頃の過酷な任務の反動か、かなり盛り上がった。
「あ~あ…本当にやめるんだな…」
「ああ…」
ウェア人は酒豪が多いが、夜半を過ぎるとさすがにほとんどの者が自室に戻り、あとの者は酔い潰れて床やテーブルに突っ伏して眠っている。その中で、生き残っている主役の護衛長、レイニーとシャウアはちびちびとコップの酒を口にしながらぼやいていた。こうして、歓送会を開かれると退職することを嫌でも実感する。
「週イチ…いや、毎日様子見に来てやろうかな…」
「やめておけ。お互いの仕事に支障が出る」
「…だな」
やはり気になるのは目の届かなくなるかわいい弟分のこと。現実味のないことをぼやくレイニーにシャウアが首を振り、ふたりで自嘲する。
「レイニーさん、シャウアさん」
そこへ、夜勤であるはずのシオンが部屋に入ってくる。
「「シオン!?」」
双子は驚き、椅子から立ち上がってシオンにかけ寄る。
「お前は入ってくるな!!」
「また倒れたらどうする!」
シオンはアルコールに極端に弱い。こんな酒の匂いが充満した部屋に入ったら酩酊してしまう。だから、ふたりはあえてシオンを夜勤にしたのだ。
「短時間なら、大丈夫です」
部屋から出そうとするふたりに、シオンはサングラスを外して微笑む。
「長年のお勤め、お疲れさまでした」
そして、床に片膝をつくと深々と頭を下げた。
「それから、私が幼い頃からいつも気にかけてくださり、護衛となってからも多くの場面で助けていただきました。この場でお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
双子がアルコールに弱い自分のために歓送会を不参加にしてくれたとわかっているが、きちんと労いと感謝を伝えたかった。
呆然とその姿を見ていたふたりは顔を見合わせる。
「「シオンっ!!」」
ふたりでシオンを抱き起こすと、勢いよく抱きしめた。
「何だよ~っ急に改まって…っ!」
「礼を言うのは俺たちだ」
「お前がいたから、俺たちはどんな任務にも挑めたし、護衛長までつとめられたんだ…!」
「お前がいることで、どれだけ救われ、癒やされたかわからない」
「ありがとう!」
「ありがとうな」
レイニーとシャウアは交互に言いながらシオンを抱き寄せ、頭をなでまわす。最後の方は涙声になっていた。
「「お前は俺たちのかわいい弟だ」」
「…はい」
聞き慣れた言葉に、シオンは目を閉じ、ふたりの服をギュッとつかむ。兄を失った自分がこうして城で過ごし、王室護衛となれたのは彼らのおかげだ。その愛情すべてを受け入れることは出来なくとも、彼らは変わらず愛してくれた。きっと思っている以上に、ふたりは自分を救ってくれたのだろう。
「…シオン?」
ふっとシオンが脱力し、ふたりは身体を支える。
「眠っている…」
「やっぱりな」
顔を真っ赤にして寝息をたてる弟分を見て、同じ顔で笑った。
「シオン君、明日も大臣の護衛についてもらえるだろうか?」
「はい、その予定です。よろしくお願いします」
国務大臣の補佐官に頭を下げられ
「シオンさん、昨日はありがとうございました!今日はお部屋のお掃除をさせていただきたいのですが…っ」
「いいえ、私の自室は結構ですので、別の場所をお願いします」
ほほを染める使用人に礼を言われ
「シオン、ちょっと来てくれ!補佐を頼む!」
「はい、すぐ行きます」
先輩護衛にも頼られる。
シオンが城内を歩けば職種関係なくひっきりなしに話しかけられ、それらに丁寧に応える彼に皆うっとりと見惚れる。以前からシオンに好意を持つ者は多かったが、あの過保護な兄貴分たち…レイニーとシャウアが目を光らせていたので近づくのもためらいがあった。ふたりが退職して城を出たことで、気軽に話しかけられるようになったのだ。
中でも特に積極的にアプローチする者がふたりいた。
「あの、シオン君」
「はい」
「勤務明けたら…夕食を一緒に食べない?」
おずおずと誘うのは同じ王室護衛のナツ。歳はシオンよりひとつ上だが、護衛としては後輩になる。王室護衛とは思えないほど、おとなしくて気弱な印象である。
「はい、私でよろしければ」
断る理由もないシオンは、クッと口角を上げてうなずく。
「あ…良かったぁ。じゃあ、あと」
「シオン!」
ホッとするナツをさえぎるように、遠くの方から名を呼ばれる。
「はい」
「明日の任務は俺と一緒だったな。後で改めて打ち合わせをしたい」
足早に近づいて来たのは同じく王室護衛のフブキ。新護衛長のトージと同期で、金眼保有者の親族がいる血縁者。現役護衛で1、2位を争う戦闘能力を持つ実力者だ。
「わかりました」
「うん、後でな」
うなずくシオンににこっと笑み、親しげに肩を抱いてから離れていく。
「…っ」
すれ違いざまフブキに威圧的ににらまれ、ナツはビクッとして青ざめる。
「ナツさん?」
「あ、ううん…何でもないよ。後で、食堂に行くね」
「はい」
どうしたのかと名を呼ぶシオンに手を振り、彼もあたふたと離れていった。
ナツとフブキ。このふたりのシオンへのアプローチは城内でも有名になりつつある。周りが注目する中、ふたりの好意にまったく気づかない…否、まったく興味がないのはシオン本人だった。
城内の食堂。ナツとシオンはテーブルを挟んで向き合い、夕食を食べていた。食事はもう何度か共にしたことがある。
「シオン君は食事中もそれ、外さないんだね」
ナツはシオンの顔半分を隠す大きなサングラスを指す。
「はい、すみません」
「え…っご、ごめん。謝らないで」
頭を下げられてしまい、焦って謝る。
「はい、ナツさんも」
「ふふ…そうだね」
シオンがクッと口角を上げ、ナツも恥ずかしげに笑う。シオンの穏やかな雰囲気は少ない会話を交わすだけでも、ナツを幸せな気持ちにさせた。水を一口飲み、意を決してシオンを見つめる。
「シオン君」
「はい」
「食事が終わったら、僕の部屋に来ない…?」
「え?」
食事の誘い以外のアプローチは初めてで、さすがにシオンもスプーンを持つ手が止まる。
「もっと、話したいし…良かったら、お茶だけでも」
「シオン」
またもや聞き覚えのある声が、ナツの話をさえぎる。ナツの背後からやって来たフブキが、ゆっくりとシオンの横に歩み寄る。
「はい」
「食事は終わったか?明日の打ち合わせをしたいんだが」
優しく肩に手を置き、シオンの手元をのぞくように顔を近づける。
「はい、わかりました」
「待っているぞ」
フブキは勝ち誇った表情でナツを見ると、食堂を出て行った。
「…」
ナツはうつむき、テーブルの下でギュッと拳を握る。
「申し訳ありません、ナツさん」
「あ…気にしないで。また、今度でいいから」
謝るシオンに苦笑いし、食欲などすっかり失せたがスプーンを手に取った。
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