白銀色の中で

わだすう

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11,惚れた弱み

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 蓮は自室ではなく、シオンの部屋に連れてこられていた。

「レン…」

 ベッドに下ろされると、その上にシオンがまたがってくる。

「あー…も、何…」

 男にのしかかられる恐怖で蓮の身体は強ばるが、何の抵抗も出来ないので目を反らすしかない。すると、シオンは右目を覆う布に手をかけ、するりと外した。

「…?」

 あらわになる、失い、傷ついた右目。蓮は意味がわからず、シオンを見上げる。てっきりこの流れで犯されると思っていたのに。

「私は…金眼保有者、なのでしょうか」
「あ?」

 ぽつりとつぶやくように言った質問の意図もわからない。

「何か、あったのか…?」
「…」

 聞いても、シオンは黙って見つめてくるだけ。蓮はふっと息を吐き、シオンの右目に手を伸ばした。

「何があったか知らねーけど」

 と、痛々しい傷にそっと触れる。


 昨日、シオンはあの男の眼を見た時、一瞬だが命令に逆らえなかった。『試してみるか』と彼は言った。『金眼保有者』だから、試したのだ。彼らが保有者たちに何かしらの影響を与え、この異変をもたらしたのだ。そして、自分もその対象なのだ。
 常に冷静でいられるはずの自分が、手加減出来ないくらい動揺した。ヒナタのような子どもにさえ話せるくらい、昔のことになっていたのに。『金眼保有者』であったことを強制的に思い知らされた。
 抑制する側から抑制される側になるかもしれない恐怖に支配され、昨夜は城に戻ることが出来なかった。


 傷をなぞるように触れる蓮の指先。

「この眼があっても、なくても、お前はお前だろ」
「…っ」

 やはり、この人は無遠慮に心に踏み込み、触れてくる。最も欲しかった言葉をくれる。

「…あ、ぁ…っ」

 シオンは声をもらし、右目に触れる蓮の手をぎゅっと握る。左目からはぽろぽろと涙がこぼれ、蓮のほほに落ちる。

 怖かった、苦しかった、つらかった。

 あふれだす感情。この人には隠さなくていいのだ。

「っ?シオン…?」
「う、ぅあぁぁ…っ」

 突然のことに驚く蓮に覆い被さると、泣き叫んだ。昨夜は戻らなくて良かったかもしれない。昨日、蓮は死んだかのような状態で運びこまれたと聞いた。こんな精神状態でそんな彼を見たら、きっとこの号泣がマシなくらい発狂しただろうから。

「…」

 また、泣かせてしまった。

 蓮は前にも右目の傷に触れて見た、シオンの涙を思い出す。この傷を見せる時の彼はあまりにつらそうで。触れてやらないといけない気持ちになるのだ。

 やがて、シオンの嗚咽が聞こえなくなる。

「…シオン?」

 身体をよじらせて顔をのぞきこむと、シオンは目を閉じて静かな寝息をたてていた。

「マジか」

 蓮はがく然とするが、今の体力では上に乗るシオンをどかすことも出来ず、身動きがとれない。文句を言って、起こしてやろうかと思うが

「ガキみてー…」

 初めて見る彼の子どものような寝顔に、思わずふっと笑みがこぼれる。シオンは決して他人に無防備な姿を見せない。何度も共に朝を迎えている蓮でさえ、情事の後、隣で寝ているのかさえわからなかった。

「…」

 ま、いいかと、蓮は脱力する。どうせ今日一日休養しろと言われているし、どかしたからと動く気はない。シオンのぬくもりを感じながら、蓮もまた眠りに落ちていた。








「陛下、こちらの資料にお目通しを」
「うん」

 王の執務室では資料が山積みの机に座った王が、更なる資料を手渡され目を通す。邪魔をしたくないとの蓮の希望もあり、蓮の体調のことは伝えていない。

「大臣、この部分については……」

 資料をめくりながら、大臣に確認をしようとした王はふと窓の外の何かが視界に入ってくる。まだ雪で真っ白な城の塀に、人影が見えたのだ。

「いかがされました?」

 話の止まった王に、大臣が何事かと聞く。

「…いや、何でもない」

 一瞬、目を離してまた塀の上を見るが、何もない。王は首を振り、また資料に目を落とした。









 安寧な時間はノックの音が終わりを告げた。シオンはまだ眠っている蓮を起こさないよう身体を起こし、右目に布を巻く。

「…はい」
「お休みのところ、申し訳ありません!」

 ドアを薄く開けると、部屋前に王室護衛がふたり、姿勢を正して頭を下げる。

「ご報告したいことがあります」
「どうしましたか」
「今朝、シューカ街で例の金色の目を持つ外国人が目撃されたそうです」
「…わかりました。報告ありがとうございます」

 その知らせで、シオンは一気に現実へ引き戻された。

「近々、シューカ街で金眼保有者の異変が起こります」
「!」
「では、やはり関係が…!」

 シオンの断言に、護衛ふたりは驚いて顔を見合わせる。

「はい、間違いありません。アラシに伝え、シューカ街の警備を強化してください。陛下と大臣たちには私がお話しします」
「はい!」

 これで後手だった保有者の暴走を事前に防げるかもしれない。的確な指示を受け、彼らは真っ先にシオンに知らせて良かったと思う。
 外国人の目撃情報を集めるよう護衛たちに直接指示したのはウォータ大臣だが、その発案者はシオンだとわかり、大臣より先に知らせた方がいいと考えたのだ。

「それから、シューカ街に私も行きます」

 シオンの参戦は心強い。

「ありがとうございます!」

 護衛たちは意気揚々とアラシへ報告しに行った。


「…シオン」

 部屋のドアを閉めると、蓮がベッド上で身体を起こしていた。

「すみません。起こしてしまいましたか」

 シオンは謝ってベッドに座り、まだ心なし顔色の悪い蓮のほほに触れる。

「俺も行く」
「聞いていたのですね。ですが、許可は出来ません」
「もう動ける。ジャマしねーし」
「それは問題ではありません。異変の最中、体調が万全ではないあなたを何事もなくお守りすることは困難です」

 と、まだアザの残る蓮の首筋に指先を這わす。また暴走する保有者に襲われたら、今の蓮では命に関わるだろう。

「確かめたいことがあんだよ」

 蓮も最初からすんなり許可されるとは思っていない。だからといってあきらめる気もないが。

「確かめたい…?何をですか」
「どこで聞いてもわかんねーから、直、見るしかねーんだよ」
「…」
「頼む」

 と、目を伏せる。頭こそ下げなかったが、意地っ張りな蓮の最大限の頼み方。蓮がここまで引かないことは珍しく、シオンは彼の『確かめたいこと』がさすがに気になってくる。

「私のそばを離れず、指示に従っていただけますか」
「ああ」
「わかりました。ただし、行くのは明朝です。よろしいですか」

 出された条件に蓮は素直にうなずく。
 結局折れたシオンは、ヒナタが言っていた『レンが一番強い』はあながち嘘ではないと思う。

「…惚れた弱みですね」
「あ?」
「いいえ、何でも」

 微笑み、蓮のあごを上げてそっとキスをした。










「学校始まって良かったね。友達に会えるの楽しみでしょ?」
「うん」

 天候の回復に伴い、休校していた街の学校は今日から再開していた。シューカ街の学校へ向かって歩いているのは、仲の良さげな姉弟。
 姉のライカは王国唯一の女性王室護衛である。今は隣で歩く弟、スノのために休暇を取っていた。水色のポニーテールを揺らし、女性らしいメリハリのあるプロポーション、普段キツく見える顔立ちも、かわいい弟の前ではゆるむ。
 スノは金眼の保有者で、街の学校の高等部に通う16歳。普段、金色の左目はコンタクトレンズで隠し、両目ともライカと同じ青色である。
 頼れる姉がそばにいてくれることは嬉しかったが、彼女が王室護衛という職業に憧れ、ようやくそれを叶えたのに、自分のせいで休ませていることは心苦しくもあった。

「うわ…っ?!」

 歩道にまだ多く残る雪に足をとられ、スノは転倒しそうになる。めったにない積雪。慣れない雪上を歩くのは一苦労だ。

「スノ!」

 ライカはさっと手を伸ばし、弟の手をつかんで支える。

「大丈夫?気をつけて」
「…うん」

 手を握ったまま歩きだす姉に、スノはうなずいてついて行く。
 思えば、姉は幼い頃からずっとそばで守ってくれた。心ない大人に女の子みたいだとイタズラされそうになった時は、怪我を負ってまで助けてくれた。
 こうしてつないでくれる手は、いつの間にか自分の方が大きくなったけど。

「何かあったら、先生に言ってね。すぐに迎えに行くから」
「ありがとう、姉さん」

 校門前に着き、笑顔で手を振るライカに手を振り返す。姉に甘え過ぎじゃないかと、友達にはからかわれるけど。スノはまだ、ライカの手を離すことは出来なかった。

 そして、ふたりとも登校中にすれ違った青髪の男が、金色の目を光らせていたことには気がつかなかった。
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