白銀色の中で

わだすう

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12,同時多発

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 翌日。蓮は希望どおりシューカ街に来ていたが、いつも以上に仏頂面だった。

「俺から離れるなよ、レン」

 クラウドが右隣で肩を抱き

「レン、俺に寄りかかっていいぞ!」

 左腕にはヒナタがくっつき

「レン様には誰ひとり近づけさせませんから!」

 と、前方ではアラシが息をまいている。

 こんな厳重警護をされて行く予定ではなかったので、うっとうしくてしょうがない。アラシは仕方がないとして、クラウドとヒナタは蓮が街へ行くと聞きつけ、強引について来たのだ。

「…」

 蓮が後方にいるシオンにちらりと視線を送ると、彼はわかりましたと言わんばかりに微笑む。

「アラシ」
「はい!」
「私たちはクラウドがいますので、彼の実家に向かいます。あなたは手薄な学校の補佐に行ってもらえますか」

 と、シオンはやんわりアラシを蓮から離す指示をする。

「えっ…しかし、私はレン様の世話役で」
「お願いします」
「…っはい」

 拒否しようとしたが、有無を言わせない鋭い殺気が突き刺さり、アラシはうなだれて街の学校へと向かった。


「おい、俺のうち行くのか?」

 クラウドは不服そうにシオンに聞く。

「ええ、何か問題でも」
「な、ないけどよ…」

 何か問題のありそうなクラウドに、蓮とヒナタは首をかしげた。




 クラウドの実家は閑静な住宅街、といったところの特に豪邸が並ぶ通りにあり、その中でも群を抜いて大きな邸宅だった。

「うわぁ!デカイうちだな」

 ヒナタは素直に感心し

「お前、やっぱりイイトコの坊っちゃんじゃねーか」

 蓮は自分を棚に上げて言う。

「言うな」

 クラウドは顔を伏せて蓮の頭に手をやる。
 家柄が立派なことで苦労知らずの世間知らずと思われるのが嫌で、家出同然で王室護衛になったようなもの。普段ガサツに振る舞うのは育ちの良さを隠したいがため。歳も30を過ぎて隠す必要もないのだが、まだ照れくさいのだ。

「お父上がこの街の首長ですから」
「お前も言うな!」

 しれっと言うシオンを赤い顔でギロっとにらむ。
 ふたりは同級生で幼なじみ。シオンは何度もクラウドの実家を訪れており、家族のことも大体把握している。

「お疲れさまです!」

 クラウドの実家前で待機する護衛たちがかけ寄ってくる。

「お疲れさまです。変わりはありませんか」
「はい!」

 シオンやクラウド、蓮の姿に彼らは安堵して返事をした。

「本当に異変が起こるのか?」
「はい、間違いありません」

 まだ半信半疑なクラウドに、シオンはうなずく。

「天候が回復して多くの人々が外出し始めました。さらに昨日から学校も再開しています。同時多発的に保有者の異変が起こる可能性が高いです」

 例の外国人たちが保有者に影響を与えるには、おそらく何らかの接触が必要。今まで、異変の表れた保有者が日にひとりかふたりずつだったのは人々がほとんど外出せず、接触が少なかったからで。昨日、街で目撃された外国人は相当数の人々と接触をしたはずだとシオンは考えていた。
 しかも、人口の最も多いシューカ街では把握している保有者だけで10人を超える。もし、その全員に異変が表れたら、連絡が来てから出向くのでは被害が大きくなってしまうだろう。

「けど、うちにこんな大人数いなくてもいいんじゃないか?あの姉貴がいるんだぞ」

 クラウドはため息をついて言う。
 彼の姉、ミゾレは彼の師匠であり、戦闘の能力は王室護衛に匹敵する手練れなのだ。街の役所で父親を補佐する仕事をしているが、この一月は休暇をとり、今日も母親と家にいる。

「もちろん、ミゾレさんも頼りにしていますよ」

 と、顔見知りであるシオンは微笑んだ。

 その時。

「!!」

 クラウドの実家内から、ガラスの割れる音が響き渡った。さらに何かが激突して壊れたような音も聴こえてくる。

「母さん…っ!!」

 クラウドは血相を変え、護衛たちより先に玄関へと走って行く。

「あなた方はクラウドの援護をお願いします」
「はい!」

 シオンは護衛たちに指示し

「レン様とヒナタは私から離れないでください」

 背後にふたりを隠すように、玄関へと向かう。

「母さ…っ?!」

 勢いよく玄関の扉を開けたクラウドが見たのは、普段とかけ離れた母親の姿だった。うなり声をあげ、無残に崩れた壁のガレキからはい出てくる様はまるで獣。右目を美しい金色に光らせ、覇気を撒き散らし、こちらをにらみつける。
 こうなると知っていたはずなのに、覚悟もしていたはずなのに、クラウドはショックでこれ以上家の中に入れない。

「く…クラウド…」
「姉さん…!!」

 穴の開いた壁から弟の名を呼ぶのは、クラウドの姉のミゾレ。頭から出血し、腹を押さえ、やっと立っているようだ。

「ガゥウアアァ!!」

 うなり声をあげ、母親がミゾレに襲いかかる。

「く…っ」

 クラウドは動かなかった身体を叱咤して走り、ミゾレを抱えて転がり、避ける。母親がその勢いのまま突っ込んだ壁はがらがらと崩れた。

「うぅ…」
「母さん!!どうして…っ!!」

 怪我を負った姉を抱え、クラウドはゆらりと立ち上がった母親に叫ぶ。
 暴走する保有者に言葉は届かない。それすら忘れるほど動揺する彼が、彼女に攻撃することは不可能だとシオンは判断する。

「あなた方が保有者の制圧を…っ」

 と、戸惑っている護衛たちに指示を出そうとすると

「待て」
「レン様…?」

 ただ見守っていた蓮がシオンを止める。

「クラウド!お前の母親の一番大切なヤツは誰だ?!」

 クラウドに叫ぶ。

「は…?!」
「お前か?娘か?ダンナか?」
「何で、今…っそんな…!」

 突然の意味不明な質問に訳がわからず、答えようがない。そこへ

「異変が表れたのか?!」
「父さん…?!」

 街の首長である父親が自宅へと帰って来たのだ。

「グゥウ…」

 その声に反応したのか、母親の光る眼が玄関の夫へと向く。

「危ない!!逃げろ、父さん!!」

 父親は姉弟と違い、戦闘訓練を積んでいない。襲われたらひとたまりもないと、クラウドは叫ぶ。

「大丈夫だ」

 そう息子に言い、父親は落ち着いた様子で室内に入る。

「今、帰ったぞ」
「…あ」

 夫と目を合わせたとたん、妻の覇気がふっとなくなり、金眼の輝きもだんだんと治まっていく。

「あな、た…」
「どうしたのだ?落ち着きなさい」

 と、普通に言葉を発した妻の肩に優しく手を置く。

「あなた…お帰りなさい。早いのね」
「ああ、ただいま」

 微笑み合い、あいさつを交わした。

「?!」

 気絶させなくとも、暴走した保有者が正気に戻った。周りの者たちは驚きのあまり、言葉も出ない。

「あら、クラウド。帰ってたの?ミゾレ、どうしたの、その怪我…?」
「母さん…」

 普段どおりのおっとりした母親を、姉弟は呆気にとられて見上げる。

「何か、あったのかしら?なんだか、眠くて…」

 母親は変わり果てた室内と固まる護衛たちを見回し、頭を押さえてふらつく。

「疲れたんだろう。今日はもう休むといい」
「ええ…」

 夫に肩を抱かれ、ふたりは家の奥へと歩いて行った。

「レン様…これがあなたの『確かめたいこと』ですか」

 ひとりだけこうなるとわかっていた蓮は振り向いたシオンに、にっと笑った。









「スノ?気分でも悪いの?」
「ううん、大丈夫…」

 街の学校。高等部の教室で授業中のスノは隣席の女子に話しかけられ、弱々しく首を振る。1限目が始まった頃から、気を弛めると意識が遠のきそうになるのだ。

「顔色悪いよ。先生に言ってあげようか?」
「大丈夫だよ…っぐ、う…」
「スノ?」
「う…ウオアアァァっ!!」

 スノは叫び声をあげ、勢いよく立ち上がる。

「きゃあぁ?!」
「うわぁっ!!」
「どうした、スノ?!」

 生徒たちは突然のことに驚いてざわめき、教師も焦って彼を見る。

「フゥウウゥー…っ」

 スノはうなって机の上に飛び乗り、コンタクトレンズの外れた金色の左目を光らせて教室内を見回す。

「…っ!!」

 普段のおとなしくてかわいらしい彼とかけ離れた様に、教室内は恐怖で静まりかえる。

「失礼します!!」

 学校内を見回っていたアラシともうひとりの王室護衛がスノの叫び声を聞きつけ、教室にかけこんでくる。

「皆さん、伏せてください!!」

 スノの姿を確認すると、アラシは机上に立つ彼に向かい、突進する。

「!!」

 彼の腹にタックルし、その勢いで窓ガラスを破って教室外へ飛び出す。ここは3階だが、そのくらいの高さなら問題はない。スノを抱えて着地すると、暴れる彼を地面へ押し倒す。

「アラシさん!」

 護衛がアラシを追って教室から飛び降りてくる。

「大丈夫だ!このまま押さえて気絶させ…」

 彼を制して、スノの首に腕を回そうとすると

「スノ!!」

 女性の叫び声が聞こえ、アラシは顔を上げる。

「?!ライカ…?」

 ライカが弟の名を叫びながら、王室護衛最速を誇るスピードで走ってくる。今日、異変が起こると連絡を受け、スノを迎えに来ていたのだ。

「護衛長!スノに触らないで!!」
「ええっ?!ちょ…ぐはぅっ!!」

 そして、その勢いでアラシの横っ面に跳び蹴りをくらわせた。

「アラシさーん?!!」

 護衛はまさかのことに驚愕し、不意討ちをまともにくらったアラシは地にもんどり打って倒れる。

「スノ!スノ!!大丈夫?!」

 ライカはかまわず、倒れていたスノを抱き起こす。

「…姉さん」

 スノは姉を見たとたん、ふっと覇気が消え、金眼の輝きも治まる。

「ごめんね、迎えが遅くなって…。怖かったでしょ?」

 ライカは涙声で謝り、ぎゅっと手を握る。

「ううん。ありがとう、姉さん」

 …たぶん、僕は姉を家族以上に思っている。だから、この手を離せない。

 スノは姉のあたたかい手を握り返した。
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