白銀色の中で

わだすう

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 シューカ街の大通りにある、カフェのオープンテラス。そこのテーブル席に蓮、シオン、クラウド、ヒナタの4人が座っていた。少々寒いが、温かいお茶で一息つくにはちょうどいい。

「…と、報告があり、問題なく抑制出来ました!」

 学校から戻った護衛長アラシは彼らの脇に立ち、各所の状況をハキハキと伝える。

「そうですか。報告ありがとうございます」
「はい!さすがレン様です!!」

 礼を言うシオンにうなずき、蓮を大声で褒め称える。

「声デケーよ」

 蓮は迷惑そうに顔をしかめた。

「では、補佐に出向いていた護衛たちを城に帰還させ、休息を取ってください。お疲れさまでした」
「はい!ありがとうございます!」

 アラシはシオンの指示と労いに、頭を下げる。

「アラシ、お前また怪我したのか?」

 ほほの真新しい湿布に気付いたクラウドが、呆れ気味に聞く。

「えっ?!まぁ、あの…はい」

 さすがにライカに跳び蹴りされたとは言えず、アラシは苦笑いする。あの後、冷静になった彼女に平謝りされたが。


 今日、保有者の暴走は合わせて6件起こったが、いずれも無理に気絶させることなく正気に戻すことが出来た。クラウドの母親やライカの弟の件を速やかに連絡し、家族らに協力を求められたためである。
 蓮の『確かめたいこと』とは保有者の一番大切な人…最も愛する人がそばにいれば、暴走しても正気に戻るのではないか、ということだったのだ。


「レン様。いつ、気がつかれたのですか」

 アラシが席を外すと、シオンは改めて聞く。

「あ?ここに来た日だけど…」と、疲れ気味の蓮はテーブルに伏せる。

「レイニーさんとシャウアさんの街で、ですか」
「ああ」

 蓮がその可能性に気付いたのは元護衛長の双子が警備員をする街で、初めて暴走する保有者を見た時。暴れるカスミが婚約者のハルを見たとたん、明らかに様子が変わった。その時はすぐに気絶させてしまったのでわからなかったが、あのままハルに任せれば正気に戻ったかもしれないと思ったのだ。
 他の街で聞きたかったのもそのことで、蓮の説明が伝わっていても、それを確かめる間もなく気絶させていたので、確認は出来なかっただろうが。

「戦時中でさえ気づかれなかったことに、何故一度ご覧になっただけでおわかりになったのですか」

 シオンは驚きつつ、聞く。


 戦時中、金眼保有者の血縁者は優秀な兵士であったが、金眼保有者は『兵器』として扱われた。使い方を誤れば、味方でさえ傷つける殺人兵器。保有者自身も『金眼』の強大過ぎる戦闘能力をコントロール出来ず、理性も記憶も失ってしまうのだ。
 その戦闘能力を解放するのはウェア王の命令だったが、当時も破壊し続ける彼らを止めるには無理に気絶させるしかなかった。


「つーか、しょうがねーんじゃね」

 シオンの疑問に、蓮はふっと息を吐く。

「戦争ん時、大切なヤツはそばにいねーだろ」
「…そう、ですね」

 戦地には愛する人と別れておもむくもの。何百人、何千人の保有者が『兵器』となってもそれに気づかれなかったのは、当然なのかもしれない。

「はぁー…娘と息子より、夫なんだな…」

 母親を止められなかったショックの癒えないクラウドがぼやく。母親には父親が付き添い、重傷を負った姉のミゾレは病院で治療を受けている。

「坊っちゃんな上、マザコンか」
「まざ…?何だそれ。悪口な気がする」

 蓮がボソッと言ったことを聞き逃さず、クラウドはじろりとにらむ。

「…」
「黙るな!悪口なんだろ?!」

 反応しない蓮に、立ち上がって怒鳴る。

「るせーよ」

 蓮は文句を言いつつ、にっと笑う。

「…ったく。かわいいな、お前は!」

 彼なりの励ましとわかり、クラウドは笑って蓮の頭をガシガシなでた。

「俺はレンのそばにいれば、大丈夫だな!」

 ヒナタは蓮の腕を握り、シオンに言う。

「そうですね」
「あ?」

 シオンは微笑んで同意し、何のことかと蓮は首をかしげる。

「へへっ」

 ヒナタはご機嫌で蓮の腕にすり寄った。


「レン様!」

 そこへ、街に派遣されていた護衛のひとりがあわてた様子でやって来る。

「城からの連絡がございます!へ…陛下のご様子が…っ!」

 と、蓮の前で片膝をつき、息を切らしながら報告する。

「…っ」

 蓮は疲れているのも忘れ、立ち上がった。




 大通りのカフェを見下ろす、時計台。街で一番高い建物で、屋根や大時計にはまだ雪が凍りついている。

「あーあ、たいして騒ぎにならなかったね」

 イールはその大時計の縁に座り、つまらなそうに言う。

「構わない。収穫はあった」

 更に上の屋根部分に立つヨイチが青髪をなびかせ、はるか下のオープンテラスを見つめていた。こんなところに人がいるとは誰も思わず、下を歩く人々に気づかれる様子はない。

「それよりさ、ヨイチのお気に入りがまさかウェア王の『身代わり』だなんてね。本当にあのコなの?」
「ああ、間違いない」

 王室関係者で黒髪の少年という情報だけで、彼らは異変の様子を見に来たこの街で、偶然蓮を発見していた。更に、2日前に出会った時はよく見れなかった蓮の顔を見て、ウェア王と全く同じであることに気づいた。噂話でしかなかった『ウェア王の身代わり護衛』が本当に存在すると確信もしていた。

「本当に~?保有者でもないのに、2日でもう動けるなんてタフ過ぎだよ?」
「勝手に疑えばいい」
「別に疑ってないって。あ、あの背高い人が僕たちが会った元保有者だよ」

 と、イールはカフェを足早に後にする蓮たちのひとり、シオンを指す。

「…そうか」
「あと、あの赤髪の人はたぶん僕のタイプだね。もう少し、近くで見たいなー」
「ダメだ」

 クラウドを見ようと身を乗り出すイールを、ヨイチは制する。

「わかってるって。じゃ、帰る?」
「ああ」

 蓮を守るように歩くシオンとクラウドをにらむように見下ろす。

「…邪魔だな」

 と、つぶやきながら、イールに続いて時計台を飛び降りた。








 ウェア城の奥、入り組んでわかりにくい場所にある、王の自室。蓮はその扉をそっと開ける。
 普段は片付いている室内がひどい有り様だった。本は床一面に散乱し、ソファーはひっくり返り、ベッドの天蓋もシーツも破れてめちゃくちゃである。

「ティル」

 蓮は部屋の主、唯一無二の友達の名を呼ぶ。

「…レ、ン…?」

 散らかった広い部屋の隅にうずくまっていた王が、おそるおそる顔を上げる。普段より強く光り、うつろいでいた金色の瞳が蓮をとらえ、ふっと輝きが治まる。

「あ…レンーっ!!」

 王は弾かれるように立ち上がって走り、蓮に抱きつく。

「こ…っ怖かった…!おかしく、なっちゃうかと…思って…っ!」
「ん…も、ヘーキだ」

 ボロボロと涙をこぼし、しゃくりあげながら訴える王の背を蓮は優しく叩いてやる。

 異変の影響は王にも襲いかかった。飛びそうになる意識と理性を保とうと、自室に入り、ものに当たって耐えていたのだ。

「レンー…っ」
「頑張ったな」
「うん…っ」
「疲れたろ。寝るか?」
「ううん、もっと、レンと一緒にいたい…っ」
「ずっと、一緒にいるって」

 王の自室前では、シオンとクラウドが漏れ聴こえるふたりの会話に耳を傾けていた。ヒナタは座っているクラウドに寄りかかり、うとうと居眠りをしている。
 思えば8カ月前。蓮は金眼保有者の暴走を止める方法のヒントを与えてくれていた。怒りで我を失い、何も聞き入れず、暴走寸前だった王を蓮はたった一声で止めた。保有者が心から信頼し、愛する者の声は届くのだと。その時は蓮と王だからこそ、成立したと思われていたが、金眼保有者共通の特性だったのだ。

 シオンもクラウドも蓮を愛している。けれど、蓮と王の友情とも愛情ともくくれない特別な関係に入り込む余地はなくて。絶対的な君主に嫉妬することすら許されない。
 ふたりは同じことを考えているとわかりながら言葉を交わすことはなく、その場にとどまり続けた。
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