白銀色の中で

わだすう

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16,死にたくない

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「一昨日、母に異変が表れました。私が不在の時で、彼女は父を殺してしまっていました。だから、殺すしかなかったんです」
「!」

 金眼保有者の母親を殺した。予想以上のことで、蓮は驚く。

「気絶させればいいのに…って思いました?ダメですよ。自分の夫を殺したんですよ?正気に戻った時、何て言ってあげればいいんですか?」
「…」
「この国ではどんな理由があろうと殺人は極刑です。どうせ死ぬんです。だったら、何もわからないまま、死なせた方がいいでしょう?」

 ノームはまた蓮の首筋に唇を当て、ぐっと歯をたてる。

「母親は…お前を見て、名前呼んだろ」

 蓮は首の痛みに顔をしかめながら言う。

「え?何で…」

 ノームは目を見開き、蓮の横顔を見る。

「お前には向かって来なかったんじゃねーの」
「見てた、訳ないですよね…?」

 確かに母親は名を呼び、血の海になった実家を見て呆然とする息子には攻撃して来なかった。あの場にいたかのように話す蓮に、ノームは顔を引きつらせて聞く。

「母親はお前が一番大切だったんだな」
「はぁ?」
「暴走した保有者は一番大切なヤツがいれば、気絶させなくても正気に戻るんだよ」
「は…っ?何、それ…?」

 昨日ようやく判明したことなのだから、ノームにとって寝耳に水な情報で。彼は素になっていた。

「昨日、シューカ街の保有者はほとんどそれで治まった。仲間に聞いてみろ」
「じゃあ…正気に戻ってたってこと?母は、全部わかってて、僕に殺されたってこと…?」

 ノームはがく然として、もたれるように蓮の肩に手を置く。

「…そっか。何も知らないまま死なせたかったけど、仕方ないね。どっちにしろ、僕は母を殺したから」
「お前だけ罪を被ればいいってか」
「そう。親孝行でしょ?」

 と、笑んで蓮のほほに唇を当てる。

「本当はすぐに後を追うつもりだったんだよ。でも、あんたが来てるって聞いてさ。最期に犯してからにしようかなって」
「は…っお前、死ぬ気ないんじゃね」

 蓮は嘲笑う。

「…何で?」
「一昨日だろ?死ぬならとっくに死んでるだろ。何かしてからって、ダイエット出来ねー女かよ」
「な…何それ。あんたをヤったら本当に死ぬけど?」

 ノームは動揺をごまかすかのように、蓮をベッドへ押し倒す。

「…っなら、何で俺に話した」

 のしかかられる恐怖に身体を強ばらせながら、蓮はノームを見上げる。

「最初に聞いたのは、あんたじゃなかった?」

 ノームは蓮の上着をつかむと乱暴に引き上げ、裾が嫌な音をたてて破ける。

「死ぬ気なら、何聞かれよーが無視してさっさとヤれよ。死ぬ理由長々話して、止めて欲しいんか?」
「…っ」

 蓮の指摘に、ノームは言葉に詰まる。

「…そ、んな、訳ないよ…。あんた、僕を恨んでるだろうし…自殺するなら、殺してやるくらい思ってるんじゃない?」

 絞り出すように出たのは冗談めいた強がり。

「よくわかったな」
「え、そうなんだ」

 蓮が真顔で肯定し、思わず呆気にとられる。

「ふー…も、いい。しゃべんの疲れた。勝手にしろ」

 蓮はため息をつき、他人事かのように言ってベッドに身を預ける。

「…はは…っ本当、性格悪いね」

 ノームは苦笑いして、あらわになった蓮の引き締まった腹筋に手を這わす。

「ん…っ」
「これからもっと、疲れるよ?」

 胸元へ手のひらを滑らせながら、耳元でささやいた。





「ひ、う…っあぁ!」

 2本の指がぐちぐちと音をたてながら、後孔をかき回す。過敏な粘膜を引っ掻かれるようで、痛みと快感に交互に襲われ、蓮はシーツを握りしめて耐える。

「本当、抵抗しないね?何かあった…?」           
「んぅ…ふ、知る、か…っ」

 体力がなくて抵抗したくても出来ないのだが、そんなことをノームが知るよしもない。

「ふぅん?ま、いいけど」
「ああぁっ?!」

 胸の突起を甘噛みされ、びくんと大きく身体が跳ねる。続けて前立腺を指先で押され、胸の突起を吸われ、指でこすられ、強制的に与えられる快感。

「ぐ、うぅ…っ」

 黒い瞳に涙がにじみ、唇を噛みしめ、それでもびくびくと身体は震える。

「さぁ、いい声で鳴いてよ?」

 ノームは指を抜き、蓮の身体を反転させてうつ伏せるとひくつく後孔に己の猛るモノを当てた。

「あ…く、ん、あぁぁーっ!!」

 カリ部分までゆっくりと入れ、後は根元まで勢いよくねじ込む。 身体の奥をえぐられたようで、蓮は耐えきれずに悲鳴をあげる。

「あぁっ!あ、んっ!んぅ…っ!」

 シーツに顔を押しつけても声を抑えられないほど激しく突かれ、揺さぶられる。

「あー…あんたのナカ、最高…っ」

 熱くうねり己を締め付ける蓮の胎内を、ノームは恍惚として味わう。蓮が泣きわめこうと絶頂しようと止めず、欲を何度も注いだ。



「は、はぁ…っ」

 精を出し尽くし、ノームは息を荒らげて蓮からずるりと己を抜く。

「…っふ…はぁ…っんん…」

 汗と涙にまみれ、うつろな表情でやっと呼吸する蓮を見つめ、深く、唇を重ねた。











「じゃあね」

 ノームは衣服を整えると、ドアノブに手をかける。

「…死ぬ、のか…?」

 ベッドにぐったりと伏せ、今にも気を失いそうな蓮がかすれた声で聞く。

「…さぁ、どうしようかな」

 ノームははにかむと、あいまいな返事をして部屋を出て行った。



「う…っ」

 ドアを閉めたとたん、ノームはうめいて座り込む。

「うあ、あ、あぁぁぁっ!!」

 そして、頭を抱えて泣き叫んだ。

 死にたくない。蓮の言った通りだ。

 母親の首を切り裂いた時は、本当に後を追うつもりだった。けれど、気持ちとは裏腹に自分の喉を裂けず、気づいたら2日も経っていた。そんな時に蓮が来ていると知り、踏ん切りがつかないのは彼を抱いていないからだと思った。
 彼を抱けば死ねる。そう信じて、元王室護衛である伯父にも何も伝えず、ウェア城に戻った。
 目的は達成したのに。死ぬことが怖くなっただけだった。彼の減らず口を聞いて、言い返して、共に笑いたかった。これからもずっと、彼の温かい肌に触れていたかった。認めたくなかったこの気持ちを、今さら自覚するなんて。

「死にたくないよ…っレン…!」

 ノームはもう二度と触れることの出来ない者を抱くように己の腕を抱え、嗚咽した。








「気は済みましたか」
「…」

 どのくらい時間が経ったのか。聞き覚えのある声に、ノームは顔を上げる。前護衛長、シオンが無表情で見下ろしていた。

「あなたの街が大変な騒ぎになっているそうですよ」
「そうですか」

 ノームの故郷は小さな街で。ただでさえ大事になる、惨殺死体がふたりも発見されたとなれば、街ぐるみの大騒ぎだろう。

「これから、どうすべきかおわかりですよね」
「…はい」

 シオンはもう全て知っているらしい。ノームはうなずく。

「では、そのようにしてください」
「シオンさん」

 蓮の部屋に入ろうとしたシオンを止める。

「はい」
「殺してください」
「…」
「極刑に処されるくらいなら、あなたに殺されたいです。あなたなら、出来ますよね。いえ、やりたいでしょう?」

 と、ノームは挑発的に訴える。蓮を何度も傷つけたノームを、シオンは殺したいほど憎んでいるだろう。以前までは立場上出来なかっただろうが、今は理由もあって絶好の機会のはずだ。どうせ逃れられないのなら、彼にも、間接的に蓮にも傷を遺したい。

「お断りします」
「…そうですよね」

 迷いのない拒否。さすがに、こんな挑発には乗らないかと思う。

「それがあなたの望みなら、私が叶えるはずないでしょう」

 と、シオンは冷ややかに言う。ノームはゾッとした。彼は、ノームが思っている以上の憎悪を抱いていた。

「それに、この混乱の最中のことです。あなたが極刑とは決まっていません。大臣らに報告し、指示を仰いでください」
「あ…」

 何か言いたげに口を開くノームにかまわず、背を向ける。

「どうぞ、苦しんでください」

 こちらを見もせずに言い放たれたセリフに、ノームは絶望する。これから課せられるのは、死よりも重い罰。

「…あ、あぁ…っ」

 開いた口からは嗚咽しか出なかった。




 シオンが蓮の部屋に入ると、気を失ってベッドに横たわる蓮にすがって泣く少年がいた。

「ヒナタ」
「あ…!し、シオン…っ!」

 声をかけると涙でぐちゃぐちゃになった顔でシオンを見上げる。

「さっき、悪いヤツがいて、レンが…っ!おれ、守ってやれなくて…!」

 必死に説明しようとするヒナタの首には絞められた痕。ベッド上の蓮は衣服が無残に破け、汗とこびりついた精液で全身汚れていた。何があったのか、シオンは大体のことを察する。

「悪者は私がこらしめましたので、心配ありませんよ」

 穏やかに言いながら、蓮の身体に毛布をかける。

「で、でも…っレン、怒るだろ?おれが弱い、から…っ」
「レン様は怒りませんよ」
「本当か?」
「はい」
「おれのこと、嫌いにならないか?」
「はい」

 蓮に嫌われることが怖くて仕方ないのだろう。必死に聞いてくるヒナタに、シオンは微笑んでうなずく。
 ヒナタがいて、良かったとシオンは思った。部屋に彼の気配を感じたから、ノームに対して冷静に話が出来た。誰もいなければ、感情に任せて挑発にのり、彼を殺していたかもしれない。彼の蓮への思いと身勝手さは、そのくらい我慢ならなかった。

「レン様はお疲れになっただけです。お身体を拭いて差し上げましょう。ヒナタ、タオルを持ってきてください」
「…うん」

 ヒナタは涙を拭って立ち上がり、クローゼットに向かった。











 2日後。ウェア城に白髪の老婦人が訪れた。使用人…クラウドに案内されて応接間に通され、おずおずとすすめられた椅子に座る。

「失礼します」

 王室護衛長アラシが応接間に入り、彼女ははっとして立ち上がる。

「お座りください」
「あ…はい」

 緊張している様子の彼女にアラシはにこりと微笑んで向かいに座り、彼女はその笑顔に少し安堵して座った。

「では、ご用件をお話しください」
「私の孫を、探してもらいたいのです」

 と、老婦人は1枚の写真をテーブルに置く。パッと見、女性かのような線の細い青年がはにかんだ笑顔で写っていた。
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