白銀色の中で

わだすう

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17,行方不明

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「行方不明者の捜索であれば、街の警備に連絡していただければ対応しますが、何故、ここに」
「あの、わ…私の孫は…金眼保有者なんです」

 老婦人は少し言いよどんでから、覚悟を決めたように告白をする。アラシが背後を振り向くと、立って待機していたクラウドはうなずく。

「私はシューカ街の学校で清掃員をしておりまして、3日前に…」
「金眼保有者が暴走する様子を見たのですね」
「はい。それで孫が心配になりまして、近くで一人暮らしをしている孫を訪ねたのです。孫はいませんでした。仕事先にもおらず、心当たりを探しても見つかりません」
「保有者であることが関係するとお思いになって、ここにいらしたのですね」
「はい…孫は保有者であることを国に報告しておりません。あの子の両親は…先立ちましたが…普通に生活して欲しいと願っただけなのです。しかし、国を、王陛下を欺いたことに変わりはありません。罰なら私が全て受けます。ですから、孫を、あの子を探してください…っ!お願いします…!」

 彼女はテーブルに細い手をそろえ、震えながら頭を下げる。
 金眼保有者が生まれたら国に報告する義務になっている。国民にとって、法律違反は国を、強いては国王陛下を侮辱するも同じ。
 彼女は孫のため、死ぬ覚悟でやってきたのだろう。

「お顔を上げてください」

 と、アラシは優しく促す。

「あ…!」

 おそるおそる顔を上げた彼女の目にうつったのは、神々しい金色の絶対的な君主の姿。ウェア王が応接間にシオンを従えて入ってきたのだ。

「あぁ…」

 彼女は腰が抜けたかのように、椅子から降りて膝をつく。王はそんな彼女の前で膝を折り、震える手をそっと握った。『あなたを許す。何も心配いらない』と言うように。

「あなたのご覚悟を無駄にはしません。お孫さんのことはお任せください」

 アラシが言う。

「はい…っ、はい…!ありがとうございます…!」

 老婦人はぼろぼろ涙を流し、何度も頭を下げた。






「なぁ」

 応接間を出たウェア王…いや、蓮は金髪のカツラを外しながら口を開く。

「これで良かったのか」
「はい、陛下はお忙しくて対応出来ませんし。何より、彼女は救われたと思いますよ」

 カツラを受け取り、シオンは微笑む。

「…ん」

 老婦人は王に扮した蓮を神様かのように崇め、ありがたがっていた。何の落ち度もない者を騙しているようで、気分が悪いのだ。

「お前、性格悪いくせにこういうことは気にするんだな」
「るせーよ」

 笑って頭をなでてくるクラウドに悪態をついた。

「レンー!」

 そこへ、待っていたヒナタが廊下を走ってくる。

「レンはすごいな!王さまの代わりが出来るんだもんな」

 腕に抱きつき、目をキラキラさせて蓮を見上げてくる。2日前のノームとの一件で相当怖がらせてしまい、蓮はヒナタに距離を置かれると思っていたが、逆に余計離れなくなってしまった。

「別に、すごかねーし」
「すごいよ!レンにしか出来ないんだから!」
「…あ、そ」

 打算のない心からの言葉。蓮は照れくさくなって目を反らす。シオンとクラウドはそんなふたりを微笑ましく見守った。


 シューカ街の金眼保有者に異変が表れてから3日。ぱったりと異変は起こらなくなっていた。やっと異常事態が治まったと、国務大臣や王室護衛たちはほっと胸を撫で下ろしていた。
 しかし、それに代わるかのように各街から報告され始めたのが、行方不明者の発生である。各街1、2名だが、ウェア王国では行方不明者など迷子を含めても年間100名にも満たない。それがこの3日で80名を超えているのだ。これはこれで異常事態だった。
 通常、行方不明者の捜索は各街に任せているのだが、王も気にしており、大臣からの命でアラシを中心に国も捜査をし始めていた。その矢先、先ほどの老婦人の訪問があったのだ。


「あの人の孫もだってよ。お前はどう思う?」

 と、クラウドはシオンに聞く。彼女の孫以外にも、行方不明者の何名かが金眼保有者だと判明していた。千人にひとりと言われている保有者が約80名の中に数名いるとなると、だいぶ高い比率になる。

「そうですね。偶然の可能性もありますし、まだ何とも言えません。行方不明者全員の素性を把握していないのですから」
「まぁな」

 保有者暴走の異変と行方不明者の多発に、何か関係があるのかもしれない。気にはなるが、シオンの言うことももっともで。

「捜査を任されているのはアラシたち、護衛です。私たちは彼らの補佐に徹した方が良いでしょう」
「ああ。俺たちが口出しし過ぎて、あいつらを甘やかすのも良くないな」

 ふたりは王室護衛を退職した身。もちろん非常時に協力はするが、現役の護衛たちに頼られ過ぎるのは彼らのためにも避けたい。

「シオンさん!クラウドさんっ!」

 老婦人を送り出してきたアラシが廊下を走ってくる。

「資料を見比べていたら気づいたのですが、保有者の異変があった街と行方不明者のいる街がほぼ重なっているんです!」

 と、興奮して資料を掲げる。

「そうか。やっぱり無関係ではなさそうだな」
「はい!我々はこのまま継続して、行方不明者の捜索をします!金色の目の外国人の居場所がわかれば良いのですが…っ」
「それなら、まず行方不明者の素性と行方不明になった日時を調べてはどうでしょうか」
「そうですね…!行方不明者全員が金眼保有者だと確定していませんしね…」

 シオンの提案に、アラシはうんうんと納得する。

「わかりました!我々で手分けして調べます!ありがとうございます!」

 そして、勢いよく頭を下げるとまた廊下を走って行った。
 コイツ意地でも護衛たちを外国人に関わらせない気だなと、蓮はシオンを見上げた。









そのまた翌日。

「おい、レン。何を待っているんだよ」

 クラウドは半ばうんざりして、蓮に問う。彼らがいるのは国境をまたぐ深い森の入り口付近。ウェア王国は太陽が照らして暖かいが、この辺りはまだ雪も多く残り、かなり寒い。フード付きのマントを羽織っていても、ただじっとしていると凍えそうだった。

「シオン」

 蓮は大きな木の影に身をひそめるようにして、木と木の間から見える断崖絶壁の下のウェア王国を眺める。

「はぁ?何であいつがここに来るのがわかるんだ?」
「今日来るか、わかんねーけど」

 シオンから釘を刺されている蓮だが、やはり例の外国人たちのことを見て見ぬふりは出来ない。ここで張っていれば、いつかは必ずシオンがやって来るはず。そして、彼の後を追えば、外国人たちの姿を見れると考えたのだ。

「来ないかもしれないってことか?」

 クラウドはあいまいな話に顔を歪め、マントの上から腕をさする。

「嫌なら帰れ」
「かっ、帰る訳ないだろ!お前を置いていけるか!」
「そうだ!」

 ヒナタが同意し

「そうですよ!」

 アラシもうなずく。

 蓮ははぁと白い息を吐く。本当はひとりで来たかったのだが、城を出るのをクラウドに見つかり、芋づる式にヒナタとアラシにも見つかってしまい、3人ともついて来てしまったのだ。城の周りに張った結界でシオンは自分たちが外出したのを把握しているだろうし、今日は来ない可能性が高いと蓮は思う。
 ところが、数百メートル先に気配を感じて、身を隠したまま木の影からのぞく。断崖絶壁を軽々と登り、森の中に入って行く者が見えた。あの身のこなしと長身は、間違いなくシオンだ。蓮は彼を追い、森の奥へと足を踏み入れた。

「待て、レンっ!」

 クラウドの呼びかけなど聞かず、走って行く。

「ヒナタ、乗れ!」
「うん」

 あの速さではヒナタを置いていくことになってしまうので、クラウドはしゃがんでヒナタを背に負う。

「行くぞ、アラシ!」
「はい!」

 そして、アラシと共に蓮を追って森に入った。




「チッ…」

 蓮はシオンを見失い、舌打ちする。冬季とはいえ、木々が生い茂りただでさえ視界の悪い広大な森の中。気配を消して移動されると、人ひとりの居場所を特定するのは難しい。それを見込んで、シオンは自分たちがいるとわかっていてもここに来たのかと蓮は思った。
 もうとっくに蓮の世界への入り口がある場所より奥に来ている。これ以上奥まで行くと、ウェア王国に戻る道筋がわからなくなるかもしれないと思い、諦めようとした時。

「…!」

 複数人の気配を感じて、蓮はその方向へ足を向けた。何十メートルか先の少し拓けた場所に人がいる。3人。ひとりはたぶんシオンだ。木の幹に隠れ、気配を潜めて彼らをのぞき見る。

「あー、いたいた!」

 蓮を追っていたクラウドが、彼の姿にほっとしてかけ寄る。背中のヒナタは眠っており、アラシは疲れて息も絶え絶えだった。

「レン!見失うかと思っ」
「黙れ」
「?」

 蓮は隣に並んだ彼を見もせず言い、クラウドは何事かと蓮の視線を追う。

「な、何だ?あいつら…っ!」

 シオンと共にいるふたりを見て、驚愕した。
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