白銀色の中で

わだすう

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15,邪魔

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「お前、城に結界張ったのか」

 蓮は王との昼寝から起きた時、違和感を感じていた。城の周りに『結界』が張られていたためだ。

「はい。陛下があのような状態になられたのは、この数日中に彼らが近くまで来ていたということです。それに、ヒナタもいますから」
「強過ぎじゃね?」
「念のためです」

 苦笑いする蓮に、シオンは微笑む。
 この結界はかなり強力なもので、普段ウェア城に出入りしている者でも、少しうかつなことを考えただけで入れなくなるんじゃないかと思うほどだ。外国人たちが城に侵入を試みるほど大胆なことをするかはわからない。しかし、これで敵意を持つ者は城に近づくことも出来ず、ひとまずここから出なければ王とヒナタはもう心配ないだろう。

「で、どうすんだ?」

 原因が判明し、後はそれをどう潰すかだ。蓮はシオンが何か考えているのか聞く。

「彼らの確保、連行を私に一任していただきました。大臣方から許可もいただいています」

 シオンはこの異変の原因が金色の目を持つ外国人であること、彼らが国境の森にいることを、すでに大臣らに報告していた。さすが、仕事が早いと蓮は思う。

「なら、俺も」
「それはなりません」

 共に彼らを確保したいという蓮を、シオンは食い気味に拒否する。

「…何で」
「彼らは危険です。異変の原因ではありますが、はっきりとした目的や正体のわからない今、護衛たちにも関わらせるつもりはありません。無駄な犠牲が出てしまうでしょうから。それはあなたも同様です」

 シオンは早速護衛たちに国境の森を捜索させようとした大臣らを止め、王にも護衛たちにも外国人たちのことを伝えないよう口止めした。そして、半ば強引に彼らの確保を一身に引き受けた。彼らの戦闘能力の高さと金眼保有者に影響を及ぼす能力を身をもって知り、他の者に関わらせるのは被害を大きくするだけと判断したのだ。

「ざけんな。俺はこの異変を何とかするために来たんだ。原因がすぐそこにあんのに、指くわえて見てろっつーのか」
「はい」

 蓮にギロッとにらみつけられても、シオンは動じない。

「…も、いい。勝手にやるし」
「なりません」

 確保の協力を断れば、蓮がそうくってかかるのは予想していた。横を向いてしまった蓮の視界に入るよう、シオンは足元に片膝をつく。

「あなたが行動するのであれば、どんな手を使ってでも止めます」

 蓮の手をとり、手の甲に唇を当てる。

「はっ…んなこと、出来ねーくせに」

 シオンは蓮に危害を加えることはしない(セックスを除いて)。それがわかっている蓮は、煽るように言う。

「いいえ。言ったでしょう。私はあなたのためなら何でもいたしますと」

 シオンのゾッとするような覇気が急に高まり、痛いほどの力で手を握られる。

「…っ!」

 勝手なことをするのならば、文字通り『何でも』し、やめさせる。見つめてくる深い紫の瞳は、本気でそう言っていた。例えば、この手を粉々にすることも出来る、と。
 蓮は背筋が凍りつき、言葉も発せずにうなずいていた。

「ありがとうございます」

 『わかった』という返事だと受け取り、シオンは覇気をおさめて微笑む。

「…チッ」

 蓮はまたやられたと舌打ちし、うつむいた。

「レン」

 シオンは蓮の手を優しく握り直す。蓮にも外国人のことを伝えるつもりはなかったが、ひょんなことで知ってしまった場合、彼は十中八九単独で勝手に動くだろう。それならば、あらかじめ伝えて釘を刺した方が良い。

「彼らは暴走する保有者と訳が違います。今朝のように制圧が出来る保障は全くありません。私はもう、誰かが傷つき、命を失う様を見たくないのです」

 と、なだめるようにまた手の甲にキスをする。

「…お前は…か」
「え?」

 うつむいたままの蓮が何かボソッと言い、聞き返す。

「お前はいいのか。お前もその『誰か』だろ」

 蓮は顔を上げ、哀しげな表情でシオンを見つめる。彼は国のため、他の者を危険にさらさないため、自ら犠牲となって引き受けたということ。美談かもしれないが、蓮はそう思えない。

「何で、お前が…っ」

 それに、シオンはもう王室護衛ではない。城の使用人ではあるが、言ってしまえば一般人だ。いくら戦闘能力が高くても、本来彼がやるべきことではないはずだ。

「…レン」

 釘を刺すだけだったのに、蓮は予想以上に自分のことを考えてくれた。言葉足らずで伝えきれていないが、シオンはたまらなく愛しく思う。

「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です」

 立ち上がり、蓮のほほに触れるとそっと唇にキスをした。








「ん…っあぁ…!」

 枕元の灯りの下。なまめかしく浮かび上がる蓮の若々しい身体を膝の上に抱き、シオンは手で舌で愛でる。

「美しいです、レン…」

 首筋に唇を這わせながら、びくびくと震える蓮にささやく。繋がった蓮の中は濡れてうごめき、心地よくシオンを締めつける。

「なぁ…んっお前は何で…っ俺を抱く…?」
「もちろん、あなたを愛しているからです」

 あえぎながら聞いてくる蓮の濡れたモノをぐちぐちとしごきながら、シオンは恥ずかしげもなく答える。

「んん…っ、ホントは他に、抱きたい…ヤツが…っ」
「何故そのようなことを。クラウドから何か言われましたか」
「…」

 1年前に彼らから告白された時、クラウドに言われたことを蓮はふと思い出したのだ。金眼保有者の最も愛する人がその暴走を止める、という特性を考えていたこともある。

「いませんよ。私が抱くのはあなただけです、レン」
「…あ、そ…」

 にこりと微笑まれ、蓮は余計に身体が熱くなって目を反らす。

「ぅん…っ」

 シオンの指先が過敏な先端部分をなぞり、びくんと蓮の背が反る。

「は…っ!シオ、ン…っも、イク…っ」

 シオンの手の中で、蓮のものは限界を訴える。

「ふ…もう少し、このままで」
「ああ?!や…んんーっ!!」

 また微笑むシオンにぎゅっと握りこまれ、蓮は腰を跳ね上げて涙を散らす。胸元を押して離れようとする蓮を、シオンは逃がすまいと抱き寄せ唇を重ねる。

「ぅ…っんぅ…!」

 苦しげに泣きながら、蓮はシオンの唇にすがるように舌を差し出してくる。

「レン…」

 シオンはそれに応えて深く唇を重ね、窓の向こうから感じる視線を遮るように蓮を抱きしめた。




 灯りがついた窓のひとつを見つめる、鈍い金色の目があった。ウェア城を囲む高い塀の上。ヨイチは長い青髪を押さえて眼帯を外し、両の目で再びその窓を見る。距離的に窓の中が見えるはずないが、確かに感じる。2日前に唇を奪った少年がそこにいる。

 彼をもう一度近くで見たい。そして、この手で触れたい。

 しかし、それを阻む目に見えぬ壁。これ以上近づけず、ここから手を伸ばすことさえためらわれる。誰の仕業かわかっている。あの窓の向こう、少年に覆い被さる元金眼保有者。こちらが何も出来ないことをわかっていて、見せつけるかのように彼をもてあそんでいるのだ。

「やはり、邪魔だ」

 ヨイチはつぶやく。窓の灯りが消えても、塀の上からしばらく動かなかった。










 翌日。

「なー、レン!おれも『雪がっせん』したい!」
「あ?」

 朝食を食堂でとった後、部屋に戻る蓮についてきたヒナタがねだる。

「昨日、クラウドがやったって言ってたぞ」

 クラウドに雪合戦という名の鬼ごっこをした話を聞き、興味を持ったらしい。

「あー…明日な」

 蓮は面倒くせーと思いながら、適当に返事をする。

「やった!明日な!」

 喜ぶヒナタを見て、明日その辺の護衛たちを捕まえて中庭に並べればいいかと更に適当なことを考えていた。


「あっ?!だ、誰だてめっぅぐ?!」

 蓮の部屋のドアを開けたヒナタが叫ぶと同時に、室内に引っ張り込まれた。

「ヒナタ…っ?」

 人の気配を感じなかったのに、何事かと蓮も部屋に入る。

「!お前…」
「お久しぶりです、レン様」

 室内にいたのは王室護衛のひとり、ノームだった。食事をしている間に、忍び込んで待ち伏せていたらしい。グレーの髪色で物静かな雰囲気。戦闘の能力は現役の護衛で最も高く、ライカと共に王付きの護衛を任されている。

「実家、帰ってたんじゃねーの」

 ノームの母親は金眼保有者なので、彼も実家のある街に帰省していたはずである。

「はい、先ほど戻りました」
「うー!んんーっ!」

 もがくヒナタを人質かのように抱えて口を押さえているのに、はにかんだ笑顔を浮かべる様はあまりに不釣り合いだ。

「離してやれ。抵抗しねーよ」

 蓮は半ば諦めて言う。ノームは表面上は人当たりが良く、紳士的で城の者たちから慕われているが、蓮に対しては違った。『実力のある護衛は身代わり護衛と性交が出来る』という職務上の特権を掲げ、何度も手酷く犯そうとしてきた。
 ヒナタに危害を加える気はないだろうが、まだ体力の十分でない状態でヒナタを助け、彼から逃げるのは蓮には不可能だ。

「今日は聞き分けがいいですね」

 ノームはにこりと笑い、ヒナタを離す。

「…っぶは!何するんだてめー!!レンから離れろ!!」

 ヒナタは口をぬぐって怯まず怒鳴り、ノームをぐいぐいと押す。蓮とノームの関係などわからなくても、本能で敵だと感じているようだ。

「金眼保有者…にしては口の悪い子ですね」

 ノームは全く動じず、呆れてヒナタを見下ろす。

「ヒナタ」

 蓮は息をまくヒナタに、背後から近づく。

「レン!大丈夫だからなっ!おれが守って…っ?!」
「ワリ」

 耳元で謝ると首に腕をかけて締め上げ、気絶させた。

「ふふ、優しいですね。これからすることはお子さまには見せられないですもんね」

 ヒナタを床に寝かせる蓮を見ながら、ノームは楽しげに笑う。

「お前、どこ行ってたんだ」
「実家ですよ?」

 言ったでしょと、立ち上がった蓮のほほに触れ、首筋に唇を寄せる。

「実家で何した。血の匂い、スゲーぞ」

 その言葉に、ピタッと動きを止める。他人の血を浴びた者は、どんなに洗い流そうと蓮は匂いでわかる。

「…わかりますか」

 ノームの顔から、はにかみが消えた。
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