白銀色の中で

わだすう

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22,連れ戻す

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「…っ陛下」

 ようやく大会議場に着き、王の姿を確認してシオンは片膝をつく。

「は、はぁ…っ!陛下…!」

 クラウドも大きく息を乱しながら、王の前で片膝をついた。

「シオン、クラウド」

 ふたりの姿に、王の金眼の輝きが少し落ち着く。

「良いところに来た。今、そちらの元に行こうと思っていたのだ」

 王は幼い頃から身近にいるふたりを大臣たちより、参謀としても信頼していた。覇気はまだいつ暴発してもおかしくない状態だが、声は届くようでシオンは安堵する。

「レンは自室か?アラシは話が出来る状態か?詳しく聞きたいことがある」

 と、王は話しながら大会議場を出る。

「レン様は城内におられません」
「…え?」

 頭を下げて話すシオンの前で、足を止める。

「先ほど、城を出られました。国境の森へ向かわれたと思います」

 シオンは暴走を誘発しないよう言葉を選び、冷静に話を続ける。

「何で…?」

 蓮自ら、外国人らの要求に従ったというのか。王は訳がわからなくて、金眼の輝きが虚ろになり、覇気が弱まっていく。

「陛下、あなたとの約束を守るためです」
「約束…?約束って、レンは死なないって…ずっと、僕のそばにいるって…」

 蓮は王のそばで、生きて、守ると約束してくれた。その身を犠牲にしろなどと言った覚えはない。

「レン様は我々と共に、あなたからヒナタを託されました」
「あ…」

 ヒナタが城に保護された日のことを思い出す。確かに、ヒナタの世話を蓮を含めた3人に託した。

「あなたとの約束を違えたくない一心で、飛び出されてしまったのです」
「じゃあ…レンは、僕の…せいで…?」

 金眼の輝きは失せ、覇気もなくなり、がくんと床に座り込む。

「陛下…」

 クラウドはそんな王の姿が心苦しく、悲しげな顔で見つめる。

「レン様は大きな怪我を負っておられます。このままではお命に関わるかもしれません」
「レン…怪我、しているの…?」
「陛下、どうか我々と動ける護衛たちでレン様を捜索する許可をいただけますか」
「…うん」

 王は弱々しく、うなずいた。シオンが目配せすると、クラウドはうなずき、手の空いている護衛たちを集めるべくその場を離れる。

「レン…っうぅ…」

 王はなおも美しい金色の瞳から、ぽろぽろ涙をこぼし嗚咽する。
 シオンは王を見つめ、やはりこの方を止められるのは蓮だけだと思っていた。








「はぁ…っはぁ…」

 蓮は雪の残る道を、身体を引きずるように歩いていた。城周りの森はなんとか抜けたが、シューカ街にも向かわず、国境の森とは反対方向へ向かってしまったため、シオンとクラウドに発見されなかったのだ。
 足をとられて何度も転び、骨折している右腕はもう感覚すらなく、左腕からは新たな血が滴って雪に点々と赤い跡を残していた。
 雲が満月を隠し、さっきまで月明かりに照らされていた道も暗闇に包まれる。国境どころか、今、自分がどこにいるのかさえわからなかった。

「ぐ…っ!」

 蓮はまた足元がふらつき、転倒する。力が入らず、冷たい雪の上で震えながらもがく。
 ヒナタが外国人たちに捕らわれ、自分と引き換えに返されると知り、のんきに寝ているわけにはいかなかった。自分が彼らの元に行けば、ヒナタは助かる。いつも腕につかまってくる小さな手を、王から託された大切な命を取り戻したい。

「…ク、ソ…っ」

 それなのに、身体が動かない。視界も暗くなっていく。意識を失う寸前、ふわっとあたたかいものに抱き上げられるような感覚に少し安堵し、意識を手放した。








 夜の明けたウェア王国は、再び降り始めた雪で白く染まっていた。
 国境の森の奥深く、クラウドは数人の護衛たちを従え、アラシの言っていたテントを発見した。わずかに人の気配を感じるが、外国人らのものではないようだ。だが、彼らは気配を消すことが出来るので、いないと確定は出来ない。

「行くぞ。油断するな」
「はいっ」

 護衛たちに命じ、クラウドはテントに近づく。


 昨夜、彼らは夜通し蓮を探したが、見つけることは出来なかった。その上、シオンから、もうすでに外国人らも蓮もウェア王国を出ているだろうと知らされた。森に張ってある結界を夜間のうちに数人、越えたという。それでも、少しでも国内にいる可能性があるなら諦めたくなかった。


 クラウドは蓮もヒナタもいると願い、テントの入り口を勢いよくめくる。

「…ヒナタ!!」

 その中にいたのは手足を縛られ、毛布をおざなりにかけられた小さな少年だけだった。

「ヒナタ!しっかりしろ!!」
「…ん…クラ…ウド…?」

 冷えた身体を抱き上げると、ヒナタは目を開けて弱々しい声を出す。

「ああ…良かった…っ!ヒナタ…!」

 クラウドは込み上げる涙を我慢出来ず、ヒナタを抱きしめて泣いた。

「クラウドさん!こちらへ!!」

 テントの周りを調べていた護衛が、血相を変えてクラウドを呼びに来る。

「…っどうした?」

 涙を拭き、ヒナタを他の護衛に預けてテントの裏側に回ったクラウドは、そこに広がる光景に言葉を失った。









 蓮は目を覚ました。ぼやける視界にうつるのは見慣れない天井。寝ているベッドも城の自室のものと違う。
 そして、そばにいるのは温かいお茶を淹れる穏やかな微笑みではなく、軽口を叩く幸せそうな笑顔でもなく、美しい金色のかわいらしい寝顔でもなかった。

「あ、ヨイチー!レン君起きたよー!」

 赤縁のメガネをかけたイールが顔をのぞきこみ、開いているドアの向こうに声をかける。

「レン」

 足早にベッドの横にやってきたのは、左目に眼帯をつけたヨイチ。ウェーブした青い長髪をポニーテールに結い、また印象が違って見えた。その後ろには、右目を閉じた体格の良いワンスが立っている。

「腕は痛むか?」

 ヨイチは蓮の前髪をすき、そっとほほに触れる。
 悪化していたであろう両腕の怪我は、きちんと治療し直してあった。それでも身体中が痛み、腕はまったく動かせない。

「…超、痛ぇ」
「そうか。これを飲め」

 ヨイチはベッド脇のテーブルに置いてあった小瓶を手に取ると、自らの口に含んだ。

「あ…?ん、ん…っ」

 それが何かを問う前に唇をふさがれ、舌を差し込まれ、それを伝って苦味のある液体がのどに流れてくる。

「ぅ…え…っ」

 蓮は強制的に飲み込まされた、それの苦さにえずく。

「水も飲め」
「んー…っ」

 ヨイチは水のボトルを開け、また口うつしで蓮に与える。

「ヨイチ、ここぞとばかりにちゅーしまくりだね」
「…」

 見られていることをまったく気にしていないヨイチに、イールとワンスは半分呆れていた。

「…っ」

 蓮は口端からこぼれた水をぬぐうヨイチを見つめ、口を開くが声は出ない。

「眠れ、レン。何も考えなくていい」

 ヨイチはそんな蓮の黒髪をなで、ほほと唇にキスをする。
 だんだんと強くなる抗えない眠気に、まぶたが自然に下がっていく。蓮は再び眠りに落ちた。










 ウェア城、王の自室前。

「陛下」

 閉ざされたままの扉前で、シオンは片膝をつき、君主を呼ぶ。
 王はあれからまた自室にこもってしまい、食事も取らず、呼びかけにも応じなくなってしまった。やはり何の反応もないが、扉の向こうでこちらに気を向けている気配は感じる。

「ご報告がございます。そのままでかまいませんので、お聞きください」

 シオンは聞いてくれると信じ、話し始める。その後ろでは国境の森から戻ったクラウドも片膝をつき、頭を下げている。

「先ほど、クラウドらが国境の森を捜索し、ヒナタを発見、保護しました。衰弱はしておりますが、命に別状はありません。同時に金眼保有者と見られる多数の遺体を発見しました。1名のみ、意識不明の状態で保護されています」

 クラウドは森の中での惨状を思い出し、ぐっと唇を噛む。
 テントの裏側の浅く掘られた穴に、何十人もの遺体が積み重なって放置してあったのだ。まだ全ての確認は出来ていないが、おそらく全員行方不明となっていた金眼保有者と思われた。意識不明のひとりはアラシが発見したシューカ街の保有者で、他の者より発見が早かったため、かろうじて命があったようだ。
 ほとんどの遺体に外傷はなく、死因はまだ不明だが、男女関係なく性的暴行された形跡があった。

「それから、レン様ですが、発見に至っておりません。昨夜、国境に張った私の結界に反応があり、数人がそれを越えています。おそらく、外国人らは宣言通りヒナタを解放し、レン様を連れて出国したと思われます」

 結局、外国人らの要求通りになってしまった。国務大臣たちは多数の金眼保有者を失い、悔やむ言葉を発しながらも、内心ほっとしている者が多い。護衛たちも国のために蓮が犠牲になったのだと、英雄視してしまっている。

「そこで、ご提案がございます。私とクラウドに国を出る許可をいただきたいのです」

 何の相談もなかったことで、クラウドは顔を上げて驚く。

「レン様を探しだし、必ず、無事にこの国へ連れ戻します」

 シオンは他の者と違った。蓮をこのまま外国人らの元に置き、犠牲になった英雄だと崇める気などさらさらなかった。

「私も、陛下とレン様とのお約束を違えたくありません。どうか、出国の許可をいただけますか」
「陛下…っ!必ず、連れ戻すと誓います!お願いします!!」

 諦めかけていたクラウドもシオンの言葉に奮い立ち、ばっと頭を下げる。

「…シオン、クラウド」

 かすかに聴こえた、王の声。

「はい」
「…っはい!!」

 反応があったことに、ふたりは歓喜して顔を上げる。

「レンを、連れ戻してね…!絶対、に…っ」

 かすれた、聴くのも悲痛な涙声に、クラウドは涙が込み上げる。

「はい、必ず」

 シオンは深く頭を下げ

「はい…っ!ありがとうございます!!」

 クラウドも勢いよく頭を下げた。
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