白銀色の中で

わだすう

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36,かばう

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「レンもそうだ…っ。あんな傷が身体に残るようなことを、あんたの保身のためだけにさせたのだろう?!それは罪ではないのか!!」

 ヨイチは叫ぶ。

「…」

 蓮はヨイチが胸の銃創と左手首の傷を、やけに気にしていたことを思い出す。

「我と我が国を…レンまでも愚弄するか、まがい物が!!」
「!!」

 王が怒鳴り、その迫力と強大な覇気にヨイチも蓮も驚愕する。

「先代は国民の平和を願い、国を閉じた。我はそれを引き継ぎ、国民皆の幸せを願っているのだ。レンは自らの意志で我を思い、身をていして守ってくれた…!貴様らの元に行ったのも、我を思っての行動だ!それらの何が罪だと言うのか!!」

 声を発するだけで、空気が、地が震える。

「れ…レンを…っこれ以上傷つけさせないと言っているのだ!!レンは俺のもの…あんたの身代わりなど二度とさせるか!!」

 ヨイチは王の怒りに怯みながらも、わずかに残る力を振り絞り、金色の目が鈍く光を帯びる。

「やはり、愚弄するか…」

 王の表情が更なる怒りで歪む。

「望みどおり、我直々に罰を与えてやらねばならぬな…!!」

 両の金眼がいっそう光ったかと思うと、一瞬で王はヨイチの目の前にいた。

「…っ!?」

 何も見えないヨイチがその気配を感じると同時に、王の手が彼の身体を直撃する。

「!!」

 蓮は王の動きを目で追うことも出来ず、気づいた時には振り上げた王の手でヨイチが宙に浮いていた。ヨイチは森の木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいき、太い幹の木に背を叩きつけられて根元に転がる。

「ぐふ…っう、ぁ…」

 身体がバラバラになったかのような衝撃と激痛。即死しなかったのが不思議なくらいだった。吐血し、わずかにあった目の光が消える。たとえ目の力が万全で受け身がとれたとしても、きっと同じ状態になっただろう。
 生来の金眼と造られた金眼。こんなに差があるのかと思い知る。

「まだ、息があるのか」

 何百メートルか飛ばされたはずだが、王の声が耳元で聴こえ、ヨイチは息を飲む。

「死をもって、我が国を貶めたことを後悔するがいい」

 とどめを刺されるとわかっても、指一本動かせない。このまま心臓を貫かれる覚悟をした。








「今の、何…っ?」

 イールは今まで感じたことのない、森の奥からの桁違いな覇気に恐怖する。先ほどミカビリエ側の森の入り口にたどり着き、転がっている多数の負傷者を見て何があったのかとワンスと話していた時だった。

「まさか、この覇気は…」
「ええ、陛下のものですね」

 おそるおそる聞くクラウドに、シオンはうなずく。ここまで強大な覇気を発するのは、ウェア王以外あり得ない。

「何で陛下が?!」
「わかりませんが、急いだ方がいいのは確かです」

 シオンとクラウドは話しながら、暗闇の国境の森へと入って行く。

「…っ」
「ワンス…っ!ヨイチが…!」

 ワンスは最悪な事態が頭をよぎり、青ざめた顔で見上げてくるイールに何も言えなかった。









「一体、何が起こっているんだ…っ?」

 王を追うアラシとライカも王の強大な覇気を感じ、戸惑いながら走っていた。

「あ!護衛長!あそこを見てください!!」

 ライカが何かに気づいて指を差す。

「ん?人か?!」

 先にある木の根元に汚れたマントをまとった者が倒れていることに、アラシも気づく。

「あ…ノーム!ノームです!」

 それが行方不明になっていたノームだとわかり、ライカはかけ寄る。

「何?!」
「息はあります。でも、ひどい出血が…!」

 ぐったりと動かない彼の顔に耳を近づけ、呼吸があるのを確認するが、脇腹から下半身を染める多量の血に青ざめる。

「ライカ、君は彼を城まで運んで手当てを頼む。陛下は私が追う」
「はい!」

 一刻を争うとアラシは判断し、ライカに指示する。

「ぅ…僕は、いいから…レン、を…」

 ライカが腕を取って背に担ごうとすると、ノームはかろうじて意識があったのかうめきながら訴える。

「やはり、レン様もこの森にいるのか…!頼んだぞ、ライカ!」

 ノームの口から出た蓮の名にアラシはそう確信し、再び走り出す。

「はい!さぁノーム、つかまって」
「レン…」

 ライカに背負われ、ノームはうわごとのように蓮の名を呼んだ。










 深い森の奥。衝撃音はしたが、ヨイチの胸に王の手は触れもしなかった。

「あ、がは…っ!ぐうぅ…!!」

 そして、聴こえたのは誰かがうめく声。

「レン!?」
「…レン?」

 王が叫び、うめき声をあげるのは蓮だと気づく。蓮が王とヨイチの間に滑り込み、代わりに王の攻撃を受けたのだ。王は寸前に気づいたが、さすがに止められなかった。
 両腕での必死のガードもむなしく、蓮の身体はその衝撃に耐えられず、ふっ飛んで地に叩きつけられた。左腕の骨は折れ、内臓も損傷したのか吐血する。左手首のブレスレットも砕けて取れ、そばに転がっていた。

「レン!何故だ?!何故このまがい物をかばう?!」

 王は蓮の行動に混乱し、わめくように怒鳴る。

「レン…っ!どこにいる…?!」

 ヨイチは這いずって震える手を伸ばし、近くにいるはずの蓮を探す。

「ヨイチ…」
「レン…っ」

 蓮の弱々しい声が聴こえ、その方に顔を向ける。

「俺を…食え」

 耳を疑う言葉と同時に、唇に柔らかな感触。血の味をかき消すほど甘い唇に、キスをされていた。

 食いたくないのに。蓮とのキスは力を奪う手段であってはならなかったのに。

 渇ききり、限界まで飢えたヨイチの身体には嫌でも蓮の力が流れこんでくる。気持ちとは裏腹に身体に満ちていく蓮の力はたまらなく甘美で、快感で、拒むことが出来ない。傷ついた身体も次第に回復していく。

「はぁ…っ」

 これ以上は死なせてしまうと欲をこらえ、ヨイチは覆いかぶさっている蓮の身体を押して唇を離す。

「…っ!」

 そして、取り戻した視力で見えた蓮の姿にがく然とした。蓮は身体中が血と土埃にまみれ、左腕は曲がり、体力も失って今にも倒れそうなほどボロボロで。

「レン…何故、お前は…っ」

 ヨイチは顔を歪めて立ち上がり、やっと意識を保っているであろう蓮に手を伸ばす。

「触るな」
「!」

 はっきりとした拒絶に、びくっと手を止める。

「レン!そこをどけ!!」

 王が怒鳴る。動揺はしているが恐ろしい覇気は変わらず、間にいる蓮が避ければ再びヨイチに攻撃するだろう。蓮はよろよろと立ち上がり、王を見つめる。

「アイツは俺が…なんとか、してやるから…お前は帰れ」

 と、背後のヨイチに言う。

「お前を置いて、行ける訳が…っ」

 ヨイチは蓮に触れられない手を握りしめ、首を振る。

「絶対ぇ…あとで、行くから…早く…」

 蓮は痛む腹を右手で押さえ、左腕をだらんと垂らして引きずるように王へ歩み寄る。王からヨイチを隠すように。

「レン!!我の言うことが…っ!?」

 そして、金眼を光らせ怒鳴る王に右手を伸ばし、ぐっと抱き寄せた。

「ティル」

 激痛をこらえ、左手も王の背に添える。

「バーカ…俺は、お前をかばったんだ…」
「…え?」

 蓮の言葉に、王の覇気が揺らぐ。

「お前は王だろ。みんなを幸せにすんだろ…?人殺したら、んなこと出来なくなんだろが…」
「あ…」

 王は失いかけていた理性が戻り、自分が何をしようとしていたのか気づいて、血の気が引きそうになる。

「レ、ン…っ僕…は、何を…っ」
「ふー…」

 すっかり覇気は消えてうろたえる王に、蓮はほっとして息を吐く。

「けど…悪ぃのは俺だな。ごめんな、黙って出ていって…」

 王がこのような行動に出たのは、自分の勝手な行動のせい。蓮は謝り、王の背を優しく叩く。
 王はふっと気持ちが落ち着き、蓮の背に手を回す。

「うん…っすっごく、心配したよ…?」

 久しぶりに触れた、あたたかくて安心する蓮の肩に頭を預ける。

「でも、レンは僕との約束のために…っ!謝らなくちゃならないのは、僕だよ…!ごめんね、レン!ありがとう…!!」

 王は身体を震わせ、金色の瞳からぼろぼろと涙をこぼす。

「ん…」

 やっと、会えた。

 この素直で泣き虫でかわいらしい、唯一無二の友達にずっと会いたかったのだ。生きて守ると誓った、美しい金色に。

「帰ろう、レン。一緒にごはん食べて、一緒に寝よ」

 少し身体を離し、王は流れる涙をそのままににっこりと笑う。

「ああ…」

 まぶしい笑顔に目を細め、蓮もにっと笑った。
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