黄金色の君へ

わだすう

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16,捜査

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 もう会議場にいる必要はないと思い始めた蓮はふと、半年前のことを思い出す。

「なぁ」
「はい?」

 隣に座っているザイル大臣に聞いてみる。

「半年前のアイツら、どこにいるんだ?」








 薄暗い階段をひたすら下って行き、やがて鉄格子の扉が見えてくる。ウェア城の地下牢だ。地下牢自体はそれなりに明かりがあり、映画などで見るような陰湿さはない。

「おっ、王子?!何故こんなところに…っ?!」

 扉前に立つ、見張りの護衛ふたりは突然現れた蓮の姿に驚くが

「は!失礼しました、レン様!」

 すぐに王子ではないと気づき、片膝を着いて頭を下げる。

「ここ、入りてーんだけど」

 やはり早々に気づかれてイラッとしつつ、蓮は鉄格子の先を指す。

「は?!何故ですか!」

 用件のわからぬ要望に、護衛は思わず語気を強くして聞く。

「あ?何だっていーだろ」

 それにやり返すように蓮は覇気を高めて彼らをにらむ。理由を話せばいいのだが、コミュニケーション下手ゆえである。

「しっ、承知しました!」

 護衛たちはさっと青ざめ、あわてて鍵を取り出して鉄格子の扉を開けた。
 扉をくぐり、少し進むと明かりのついている牢が3部屋ある。そのひとつをのぞきこみ、蓮は扉を叩いた。

「!!あ、お前…っ!」

 蓮に気づき、顔を上げたのは半年前、継承式(仮)のパレードで馬車上の王子…に扮した蓮を強奪した男。そして、仲間ふたりと共に蓮に重傷を負わされたうえ、捕まった。傷は癒えたが、まだ投獄中である。

「元気そうだな」
「そんなワケねえだろ!クソ…っ騙しやがって…!」

 扉ののぞき窓から見える蓮をにらみつけ、ドンっと扉を叩く。

「お前!何だその口の聞き方は!!」
「座れ!!」

 ついてきていた護衛たちがかっとして怒鳴る。

「あぁー!!アイツあの時の…っ」
「王子のニセモノだ!!」

 騒ぎに気づいた他2部屋にいる仲間ふたりがのぞき窓から廊下を見、蓮の姿に大声を上げる。

「黙れ!下がって座れ!!」

 護衛たちは彼らにも怒鳴りつける。

「…お前ら、向こう行ってろ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼らにイラつき、蓮は護衛たちに鉄格子を指して言う。

「それは出来ません!」
「そうです!この者たちは罪人で…!」

 罪人をおとなしくさせる、という任務を遂行したい彼らは拒否するが

「ウゼーよ、行け」
「…っ!!」

 蓮の先ほどよりも強い殺気に近い覇気を向けられ、また青ざめて言葉を失う。

「は…はいっ!失礼しました!」

 ふたりは顔を見合わせ、あわてて片膝を着いてから足早に鉄格子の扉をくぐって行った。

「お前…何なんだ?」

 強靭な王室護衛ふたりを簡単に黙らせ、追い払うとは。牢の男はあっけにとられて聞く。

「さぁな」

 蓮は不機嫌そうに目を反らした。

「お前ら、3日前の事件知ってるのか?」

 この城にいる外国人は自分が捕らえた彼らしかいないはず。念のため聞いておきたかった。

「ああ…!散々疑われて何時間も尋問されたさ」

 隣の牢の男が言う。大臣たちもまず彼らを疑ったのだろう。

「で?」
「俺たちが出来るワケねえだろ!ずっとここにいたんだ。他に仲間もいねえし、国に連絡すら出来ねえから、情報も仕入れられねえし!いくら叩かれても何も出ねえよ…!」

 よほど尋問が厳しかったのか、最後の方は涙声になっていた。

「ふーん…なら、いい」
「ん、え?!終わり?」

 予想はしていたが、彼らは関係ないとわかり、蓮は興味が失せて牢から離れる。

「…何なんだ、アイツ」
「さぁ…」
「…」

 彼らは鉄格子の扉を出ていく蓮を呆然と見送っていた。





 その足で蓮は中庭にやって来ていた。傾きかけた太陽の光が照らす、きれいに手入れをされた芝生や植木、花壇には美しい花が咲きほこり、豊かに水をたたえた噴水もある。
 その一角に白い花輪が置いてあった。殺された護衛が横たわっていたところだろう。もう何の跡もないが王子の無残な姿を想像してしまい、背筋がぞわっと粟立つ。蓮はぐっと拳を握り、振り払うように周りを見渡した。
 中庭はかなりの広さがあるが四方を高い城壁が囲んでおり、城内からしか出入りが出来なくなっている。ならば、上から。スカイダイビングでもすれば入れるかもしれないが、どうやって出るのか。いくら考えても、外部の犯行とは思えない。

「ここにいらしたのですか」

 中庭に続く外階段を薄紫色の髪をなびかせ、シオンが降りてくる。勤務は終わったのか、黒コート姿だが青布は着けていない。

「遠目からだと、王子ですね」
「るせー、もういい」

 からかうように言われ、蓮はぶすっとして顔を反らす。

「何かお気づきになりましたか」
「身内だろ、殺ったの」

 ここに来て数時間見て回っただけで、事件捜査などド素人の蓮でさえその結論になった。

「はい」

 シオンはあっさり肯定する。

「何で言わねーの」
「『金眼』を狙う者は外国人だけだと我々は教育されてきました。なので、この事件が王子への殺害予告と捉えられてから、犯人は外国人以外考えられなくなったのです」
「頭ワリーな」

 辛辣な意見にシオンは苦笑いする。

「ただでさえ、この国は滅多に凶悪な事件が起こりません。それがよりによって城内で起こったことで皆冷静さを失い、混乱しているのです。私が否定したところで聞いていただけないでしょう」
「ふーん…いいのか、それで」
「良くはありません。ただ…」
「ただ?」
「いえ…すみません。私も冷静でいられなくなっているようです」

 いつも断定口調のシオンらしくない、歯切れの悪さ。

「お前、犯人知ってんじゃねーの」
「いいえ」

 蓮は試しに吹っ掛けてみるが、きっぱり否定される。

「あ、そ」

 つまんねーと思いながら、城内に戻ろうとシオンに背を向ける。

「レン」
「あ?」

 引き留められ、振り返る。

「お部屋に戻るのですか」
「ああ」
「私の自室に来ていただけませんか」

 シオンの自室に行くということは。

「…断る」

 今朝、犯されたことを思い出し、心底嫌な顔をして拒否する。

「そういった意味ではありません。おひとりにならないでいただきたいのです」

 蓮の考えていることに気づき、シオンは理由を話す。

「何でだよ」
「あなたを、守りたいのです」

 シオンの表情も考えもわからないが、切羽詰まった感と真剣な願いであることはわかった。蓮はふっとため息をつく。

「やっぱお前犯人わかってんだろ」
「…そう思われるのなら、従っていただけますか」

 再びの吹っ掛けにシオンの口調が強くなり、しぶしぶ妥協するかと思う。

「じゃあ、ひとつ教えろ」

 特に蓮には教えられないであろう質問をした。









「それを知ってどうなさるのですか」

 と、シオンは口にしたお茶のカップをテーブルに置く。
 シオンの自室。4階にあり、造りは蓮の自室とほぼ同じだが、本棚があるくらいで何年もここで過ごしているとは思えないほど生活感がない。
 ちなみに、城の4階は住み込みの王室護衛たちの部屋で占められている。

「行くに決まってんだろ」

 シオンが用意した夕食を食べながら、蓮は不機嫌な顔で答える。王子の衣装は脱ぎ、いつもの黒髪、黒い瞳、ラフな服装でシオンの向かいに座っていた。
 蓮が知りたいのは王子の自室。王子から来てもらわないと会うことが出来ないのはわずらわしい。きっともう部屋から出ることが難しいであろう王子に、好きな時に会いに行きたいのだ。

「レン、あなたではドアすら開けられませんよ」
「…何だそれ」
「言葉のままです」

 厳重な鍵でもついていて、知って行っても無駄だということか。

「お前は?」
「開けられます」
「はぁー…っも、いい。ついてくりゃいいだろ」

 意地でも蓮の単独行動を許さないらしい。蓮は盛大にため息をつく。

「ありがとうございます」

 シオンは口角を上げ、頭を下げる。

「やってやりたいことがあんだよ」
「何をですか」
「今日、お前のせいで出来なかったんだからな。ジャマすんなよ」

 乱暴に肉にフォークを刺し、口に入れた。










 翌日。蓮は約束どおりシオンと共に王子の自室へ向かっていた。迷路のようにジグザグと廊下を歩いたり、階段を上ったり。迷わないで行けるようになるにはしばらくかかるなと思いながら、シオンについて行く。

「こちらの階段の上です」

 と、シオンは人ふたりがやっとすれ違えるくらいの幅の階段を指す。

「この部屋は護衛の待機室になります」

 階段の中ほどまで上ると踊り場の横にドアがあり、ノックをして開ける。

「護衛長、レン様。おはようございます!」

 王子付きの護衛がふたりおり、身体を直角に曲げてあいさつをする。ドアには大きなのぞき窓があって、前を通れば彼らに気づかれそうである。

「おはようございます。昨夜お話ししたとおりです。終わりましたらまた声をかけます」
「はい!」

 話は通っているらしく、すんなり王子の自室を訪問出来るようだ。階段の突き当たりに重厚な扉がある。立派だが特に厳重な鍵などはないように見える。

「王子、シオンです。失礼します」

 シオンは丁寧にノックをし、取っ手を握るとガチャリとあっけなく扉が開いた。場所は複雑だが、それ以外は特に難解なことはない。

「別に俺でも良くね?」

 シオンにいいように担がれたなと蓮は思う。

「いいえ、あなたでは開けられません」
「何でだよ」
「今はお答え出来ません」
「ああ?」

 話しながら、シオンに続いて蓮も部屋の中に入る。

「シオン…?」

 部屋の奥から、おそるおそる王子が出てくる。

「おはようございます、王子」

 シオンは片膝を着き、頭を下げる。

「おはよう。シオンはそれやらなくていいよ…っあ!レン?!」

 王子はシオンに苦笑いした後、蓮の姿が目に入り驚く。

「はよ、ティル」
「おはよう!どうしたの?!ここ来ても良いのっ?!」
「ああ」
「嬉しい!来てくれてありがとうっ!」

 興奮して金色の瞳を輝かせて喜ぶ王子と、にっと笑って差し出された手を自然に握る蓮。ふたりとも普段は決して他人に見せない表情で。

「…」

 シオンは表情を変えず片膝を着いたまま、ふたりを見ていた。
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