黄金色の君へ

わだすう

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28,会議

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 翌日。

「では、8番の方はいかがでしたか」

 昨日、無事に終了した試験を元に選考会議が小会議場で行われていた。城の3階にあり、少人数での会議等に使用されている。議長を務めるシオンが丸テーブルに着席した10名の護衛たちに問う。

「筆記試験は平均点です。面接では正義感が強いという印象でした」
「戦闘に関しては素人のようでした。訓練でののびもあまり期待出来ません」
「ありがとうございます。私は不合格と考えています。反対意見はありますか」
「いいえ」
「不合格で良いと思います」
「わかりました。では、8番は不合格とします。次、9番の方…」

 受験者ひとりひとりについて筆記試験と面接、実技試験をそれぞれ担当した護衛が意見を出して、まずシオンが合否を判断し、更なる意見を求めて異議がなければそれで決定という流れだ。

「それでは、37番の方…」
「不合格!!以上!次っ!!」

 シオンが言い終わる前にクラウドがさえぎる。

「クラウド、皆からの意見も聞かず勝手に判断しないでください」
「あんなやつが護衛なんか出来るわけないだろ!!なあ、レン!」
「…あ?」

 頬杖をついてウトウトしていた蓮は、話を振られて顔を上げる。

「あいつだよ!37番!」
「ああ…キモいな」

 隣の席のクラウドに資料を指差され、試験中に殴り倒した受験者だと気づく。

「だろ?!レンも嫌だってよ!」

 蓮の否定的な意見で、クラウドはしめたと思うが

「しかし、彼は筆記試験5位です」
「実技では荒削りですが、なかなかの腕前でした。打たれ強いですし、根性もあるようです」
「余計なこと言うな!!シメるぞ?!」

 担当した護衛の好意的な意見に、立ち上がって怒鳴る。

「そうですね。面接では熱意に少々ズレがありましたが、王室への忠誠心は強いようです。それに彼を不合格としてしまうと、ほとんどの方が合格出来ない基準になってしまいます」

 シオンは資料をめくりながら言う。

「20人でいいんだろ?その位、合格者いるだろが!」
「そうはいきません。この機に増員を考えていますから」
「はあ?!少数精鋭でこそ王室護衛だろ!!」
「しかし、今回のようにひとたび事件が起こると従来の人数では不足することがわかりましたから」
「それは今回の事件が特異だったから…っ!」
「あー…るせー」

 シオンとクラウドの言い合いを蓮が面倒くさげに止めた。

「いーんじゃね、合格で。あいつ、わりと強ぇーし」
「なっ?!あいつが護衛になったら、お前を見るたびに飛びかかってくるぞ?!」
「いい。殴るから」

 焦るクラウドにかまわず、蓮はまた頬杖をついて目を閉じてしまう。

「レン~…っ」

 クラウドはそれ以上何も言えなくなる。

「では、37番は合格でよろしいですね」

 他の護衛たちはほっとしてうなずき、シオンは口角を上げた。




「次は90番の方、いかがでしたか」

 注目されていた女性受験者である。

「彼女はいいですよ!筆記は2位ですし、とても真面目で忠誠心も強く持っているようです!」
「それに、美しい人ですよね」

 彼女の美しさを思い出し、護衛たちはぽおっとほほを赤らめる。

「容姿は関係ありませんよ」

 と、シオンは苦笑いする。

「ふん…レンの方がはるかに美人だろ」

 意見が通らず不機嫌なクラウドがつまらなそうに言う。

「お前もキモい」
「んなっ?!」

 蓮にさげすまれ、ショックを受ける。

「レン様、いかがでしょうか」

 シオンは彼女の審判だった蓮に意見を求める。

「あ?」
「90番の方です」
「ああ…あいつ、一番速ぇーんじゃね?あと打撃技にセンスある」
「その通りです」

 蓮の言う評価に、手合わせの相手をした護衛もうなずく。彼女も合格となった。





「では、194番の方」

 選考する人数はあと数人。休憩を挟みながらだが、さすがに護衛たちも集中力がなくなってくる。194番は物静かな雰囲気でグレーの髪色の受験者。彼も注目されていたので、護衛たちは姿勢を正し直す。

「筆記試験1位です。言葉少ない人ですが、受け答えはしっかりしていました」
「彼は素晴らしいと思います!態度も紳士的で、今すぐ任務についてもらいたいくらいですよ!」

 彼の手合わせの相手をし、負けてしまった護衛が興奮気味に言う。

「クラウド、いかがでしたか」
「えーと…合格。以上」
「真面目にお願いいたします」

 すっかりやる気のなくなっているクラウドに、シオンが注意する。

「はいはい。こいつは実技も一番だろ。攻撃も防御も飛び抜けていい。問題なし」

 他の護衛たちもうなずき、彼も合格となりそうである。

「レン様はいかがですか」
「…」

 蓮にも話を振るが、反応がない。

「寝てるぞ」

 と、クラウドがテーブルに完全に伏せてしまっている蓮を指す。

「レン様、起きてください。まだ終わっていませんよ」
「…無理」

 蓮はシオンの声かけに少し顔を上げ、また伏せてしまう。シオンも護衛たちも苦笑いするしかなかった。







 1時間後。

「レン、そろそろ本当に起きてください」
「…あ…?」

 シオンの声に、蓮はノロノロと顔を上げる。

「会議は終了しましたよ」

 他の護衛たちはもうおらず、小会議場は閑散としていた。シオンが集めた資料をそろえる音だけが響く。ちなみにクラウドは頭を冷やしたいと、後輩護衛数人を(強制的に)連れて外へジョギングに行っていた。

「ここは閉めますので、お部屋にお戻りになってください。お疲れさまでした」
「あ、そ…」

 蓮はぐーっと伸びをする。

「…なぁ」
「はい」
「もう、やることねーの」

 立ち上がりながら、ぼそっと言う。

「そうですね。合格者は決定しましたし、あとの研修等は我々にお任せください。あなたには彼らが正式に護衛となる頃にまた…」
「そーじゃねーし。今日だよ」
「今日…?」

 蓮の言いたいことがわからず、シオンは首をかしげた。







「このような事務作業をあなたにしていただくのは心苦しいのですが」

 小会議場と同じ3階にある、護衛用の事務室にシオンと蓮はいた。シオンは合否通知書を印刷しながら、苦笑いする。蓮は無言でその通知書を封筒に入れていた。何度も断ったが、手伝ってやると言う蓮に押しきられて仕方なくやってもらっているのだ。

「何をお考えなのですか、レン」

 蓮の考えていることを読めず、シオンは聞く。普段の彼なら、こんな事務作業など土下座されてもしないだろう。

「…なんか、面倒くせーから」
「はい?」
「お前が俺のこと、どう思ってんのか知って、どうしたらいいか考えても結局わかんねーし」

 先日の告白の返事だと気づき、シオンは黙る。

「お前を避けても面倒なだけだった。こんなダセーケガしたし、考えんの疲れた」

 と、蓮は青アザになっている右腕を見る。この3日間、シオンともクラウドともずっと顔を合わせていたが、その方がよっぽど気楽だと気づいた。

「お前のツラそうな顔も見たくねーし。だから、これでいいんだよ」

 ほほを少し赤く染めて顔を反らし、封筒を閉じる。

「…レン」

 避けながらも見てくれていたのか。シオンは思わず手を止める。きっとこの手伝いは、素直ではない彼なりのお詫び。ああ、本当にこの人は。こちらが望んでいる以上のことをやってくれる。

「あなたを愛して良かったです」
「あ、そ…」

 シオンはくっと口角を上げ、蓮はますます顔を赤らめて通知書を折った。








 その翌日。右腕の痛みがひき、医師からの許しも出たので蓮は早速護衛たちと戦闘訓練をしていた。

「レン様、こちらを」
「いらねーって」

 休憩中、蓮は椅子をすすめられるが断って床に座る。彼らからの敬いはどうもうざったく、気遣いも素直に受けられない。そんな態度も自分たちに合わせてくれているのかと、彼らには好印象なのだが。

「護衛の人員が増えれば、やっと負担が軽くなるなー」

 床に座りながら、護衛のひとりがにこにこと話す。事件が起こってから1ヶ月近く、彼らは過酷な勤務を強いられていた。今まで40人以上で回していた仕事を20数人で回しているのだから当然である。その面からも人手の増員はありがたい。

「でも、決定ではないらしいですよ。研修期間にも適正を見るそうです」
「そうか。実際任務につかないとわからないもんな。まだこのままかー」

 と、ガッカリする。

「レン様はいつまでこちらにご滞在ですか?」

 蓮に水のボトルを手渡しながら、護衛が聞く。

「あ?んー…」

 滞在期間を決めていなかった蓮は答えに詰まる。

「ずっといてくださいよ!レン様がいてくださると俺たちどれだけ心強いか!」
「ずっとは無理ですよー。でも、可能な限りいてくださると私も嬉しいです」
「あ、そ…」

 蓮は素っ気なく言って水を飲む。必要とされるのは悪くない。しかし、蓮がこちらの世界に来るのは王の露出が必要な行事の際と、王の身に危険が迫るような緊急時のみ。今は減ってしまった護衛たちの補佐をするために残っているだけで、本来なら滞在している時ではない。もう帰る時ではないかと、蓮は思った。
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