黄金色の君へ

わだすう

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46,一歩手前

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 腕にチクリとした痛みを感じ、蓮は意識を引き戻された。しかし、ひどい頭痛と吐き気で身体が異常にダルく、目を開ける気にもならない。

「…死んではおらんのだな?」
「はい、解毒剤を打ちました」

 ぐわんぐわんとこもって聴こえるが、すぐ近くで何者かが会話していることはわかる。

「全く、すぐに王子だけは部屋から出すよう言っておいたのに…!」
「申し訳ありません。普通、1分ともたずに絶命するのですが、護衛どもがどうもしぶとく…」
「奴らは常人ではない!本当に死んでいるか、再度確認しろ!ウェア王があんな手薄な護衛だけで動く機会など、もうないのだぞ?王子の意識が戻ったらすぐに始めろ」
「はい、イレグー様」

 ドタドタと複数の重い足音と扉の閉まる音。何人か出て行ったようだが、まだ複数人がこの場にいるらしく、こそこそと話し声が聴こえる。

 イレグー…。ああ、あの成金か。

 蓮は解毒剤が効いてきたのかだんだんとはっきりしてくる意識の中、声を荒らげて命令し、出て行った者がイレグー大臣だと気づいた。そして、彼らの会話を聞いて、なんとなく自分の置かれた状況もわかってくる。おそらく、最悪な事態の一歩手前だ。

「おい、起きろよ。王子様」

 軽くほほを叩かれ、ノロノロと顔を上げて目を開ける。まだぼやける視界で確認出来たのは、4人の男たちに囲まれていること。扉がひとつあるだけで、窓も調度品もないコンクリートの壁の殺風景な部屋の中。
 蓮は天井から伸びた鎖の手枷に両腕を繋がれて吊るされ、足はコンクリートの床に固定された鎖の足枷に繋がれていた。鎖は太く頑丈で、そう簡単には外せそうにない。気を失っている間、全体重をかけていた手首が痛む。

「おお…!」
「これが『金眼』か…」

 彼らは蓮のかわいらしさと金色の瞳の美しさに思わず息を飲み、目を奪われる。

「…」

 やはり彼らの目的は王子の『金眼』で、他の者は暗殺して王子だけをここに連れ出した気でいるのだと、蓮は思う。だが、王子も金眼も写真くらいでしか見たことがないのだろう。今はまだ『身代わり』だと気づく様子はなさそうだ。これから『金眼』の力を強くさせようとしてくるはず。もちろん、性的な快感を与えて。覚悟していたことだが、まさか自ら訪れたこの国でそんな事態になるとは思わなかった。

「で、では…っ早いとこやろうか」
「手袋を忘れるな。狂いたくないだろ?」

 蓮に見とれていた男たちははっとして、手術で使うような薄いゴム手袋を両手にはめる。

『金眼保有者との性交は狂うほど快感』

 それを恐れているのだろうが、直接触らなければいいと思っているのか。

「王子様、起きたばかりで悪いですが、その金眼の力を強くさせてもらいますよ?」
「このままでも十分美しいが…どのくらい輝くのか楽しみだな」
「まずはお身体を見せてもらいましょう」
「…っ」

 華やかな衣装の合わせをつかみ、左右にはだけさせる。取り出したハサミで下着を切り、蓮の引き締まった上半身があらわになる。

「へぇ…さすが世界最強ウェア王国の王子。鍛えているね」

 男たちは感心しながら、ズボンと下着も膝下まで下ろす。

「…」
「やけに反応が薄いな。まだ毒が抜けていないのか、もう覚悟を決めているのか…」

 裸にむかれても恥じらいも恐れもせず、目を伏せて口を結んだままでいる蓮を男のひとりが不思議がる。

「どんなに澄ました王子様でも、この薬を塗れば泣いて悦びますよ」

 陶器の入れ物を取り出し、ふたを開けると中の軟膏を手のひらにたっぷりと取る。

「…っ!」

 そして、萎えている蓮の下半身のものに触れ、竿部分をしごくように軟膏を塗りつける。軟膏もゴム手袋の感触も冷たく気持ち悪いが、過敏な場所にしつこく触られれば、嫌でもそこは反応してくる。

「若いですねぇ。もう起ってきましたよ」

 男はニヤニヤと笑み、先端と陰嚢にも軟膏を塗る。

「こっちはどうだ?」
「!」

 背に回った男がしゃがみ、尻たぶをつかむとぐいっと割れ目を拡げる。

「きれいだな。初めてか?」

 言いながら軟膏を指先に取り、小さくすぼまったそこに塗りつける。その冷たさで身体を強ばらせる蓮に、2本の指を遠慮なしにねじ込んだ。

「ぃぎ…っ!」

 痛みで声が出てしまい、びくんと大きく腰が跳ねる。

「痛いか。なぁに、すぐもっと太いものを突っ込んで欲しくなる」

 ぐりぐりと指でかき回し、中の粘膜に軟膏を塗りこめていく。何の労りもない乱暴な施しは痛いだけで、蓮は歯を食いしばって耐える。

「ここにも塗っておくか」
「ああ」

 ふたりの男が双方の胸の突起にそれぞれ触れ、軟膏を塗りつける。

「ん…っ」

 先端から乳輪まで指先が這い、刺激と冷たさで肌が粟立つ。

 今、蓮に出来るのは何をされようと耐えることだけ。そして

 アイツらが死ぬはずねー…。

 痛みと気持ち悪さに身体を震わせながら、必ず守ると誓っていた者たちを思っていた。








「ぅえ…っく、クソ…!馬鹿みたいに強力な毒を垂れ流しやがって…っ」

 応接室では割れた窓際にもたれ、クラウドが青ざめた顔で頭痛と吐き気に悶えていた。

「数千人規模を全滅させられるような毒ガスでしょうね。私もまだ頭痛が治まりません」

 シオンも窓際に立ち、優れない顔色で頭上を見上げる。装飾された天井の一角に隙間が出来ており、そこから強力な毒ガスを撒かれたようだ。

「あなたが窓を割ってくれたおかげで我々は助かりましたが、このお三方はもう…」

 部屋の中央には絶命した大臣、補佐官、護衛が横たわっていた。シオンは元金眼の保有者、クラウドは金眼保有者の血縁であるため、毒物等に強い耐性を持っている。意識は一時失ったが、割った窓からの空気でかろうじて死には至らずに済んだのだ。クラウドは苦しんだであろう彼らを見てぐっと顔をゆがめ、目を伏せる。

「チッ…完全にハメられたな…!王子もろとも全滅させる気だったのか…!?」
「レン様がおられないということは、王子の『金眼』が彼らの目的だと考えるのが普通です。我々だけを毒殺する計画だったと思いますよ。王子まで死んでしまっては意味がないのは承知のことでしょうから」

 金眼保有者が死ぬと、その眼の力も失われる。金眼の力を保ったまま奪うには、生きながらにしてえぐり取るしかないのだ。

「しかし、我々が中々意識を失わないために、レン様をすぐここから出せなかったことは想定外だったでしょうね」
「レンも毒ガスにやられたってことはないよな…?!」

 シオンの話に、クラウドは最悪の事態が頭をよぎる。

「いいえ。レン様も毒物への耐性を持っておられますし、それなりの処置を施されていると思います。まだ、生きておられるのは間違いありません」
「まだ…?」
「はい。『金眼』の力を上げるべく、どこかに監禁されているはずです」
「…っ!!」

 シオンの言いたいことがわかり、クラウドはぞわっと頭に血がのぼる。

「こ…っこんなところでおしゃべりしている場合じゃないだろが!!行くぞ!!」

 と、頭痛も吐き気も吹き飛んで立ち上がった。考えるのもおぞましい凌辱を受けた上、もし『身代わり』だとバレてしまったら。蓮はどれだけむごい殺され方をするのか。

「待ってください!確かに一刻を争いますが、どこにいるのかもわかりませんし、広い城内をやみくもに探すのは時間の無駄です」

 シオンは今にも部屋から飛び出しそうなクラウドを制し、冷静に最善の方法を模索する。

「なら、どうしろって…っ!?」
「お静かに」
「!」

 クラウドはふと動きを止めると、この応接室に近づくふたりの気配に気づいた。

「ここの方にお聞きするのが最善だと思いませんか」
「…だな」

 くっと口角を上げたシオンに、にっと笑んで同意した。

「あの毒吸って生きているわけないのにな」
「仕方ない、イレグー様のご命令だ」

 と、話をしながら、槍を持った兵士がふたり応接室に向かっていた。シオンたち護衛が全員死んでいるか、確認しに来たのだ。

「一応、着けた方がいいぞ」
「ああ」

 応接室前に着き、ガスマスクを装着する。ひとりが扉をそっと開けたとたん、腕をつかまれたかと思うと強い力で部屋の中に引っ張り込まれた。

「なっ?!…ぅぐ!!」

 もうひとりも何が起こったのか理解する前に首をつかまれ、引き込まれる。ふたりとも待ち構えていたシオンとクラウドに、それぞれ背後から腕で首を絞められていた。

「うぅ…っ!?」
「ぐ、う…!」

 もがいても全く動かず、余計に首が絞まっていく。持っている槍など、何の役にも立たない。

「おたずねします。我々の国王陛下はどこにおられますか」
「答えないと、このまま首を折るぞ」

 静かに聞かれ、おどされて、ふたりは失禁しそうなほど青ざめる。

「ひぃ…っ!こ、殺さないでくれっ!!」
「し、知らない…っ俺たちは何も聞かされていない…!!」

 命ごいしながら、必死にじたばたもがく。知っていれば何のためらいもなく答えていただろうが、知らないのだからそうするしかない。

「本当だな…?」

 クラウドが疑って、ぐっと腕の力を入れる。

「うぅぐ…っ?!ほん…っ本当、だ…!」
「い、イレグー様、の側近しか知らないはずだ…っ!」

 恐怖と苦しさで泣きながら、彼らは背後のふたりに訴える。

「…」

 クラウドが『信じるか?』と無言でシオンに目配せすると、シオンはうなずく。

「そうか。お疲れさん」
「ぐが…っ?!」
「うぐぅっ?!」

 もう用はないと、ふたりは同時に彼らの首を締め上げて失神させた。
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