大陸を散策する聖女と滅ぶ王国~婚約破棄は引き金~

鷲原ほの

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本編

15. 美味しい食べ物を求めて

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 ちなみに、猫妖精は魔力へ変換するように取り込むので、食べられる物は何だって食べてみます。動物にゃんこには猛毒となる食材だって、美味しいならイケちゃうかもしれません。
 たまに、消化しきるまで青い顔をしてお腹を下してぎゅるぎゅる鳴らしていることもあるけど。でも、排泄されたりしないから、ばっちくないのです。
 行商人の噂だって興味津々だし、ぽつりぽつりと聞かされていた日本の料理もいつか作ってくれないかにゃと期待を持っているのです。

「何か、お馬鹿王子は北部の国境から放り出してやるとか寝言を言っていたけどさ、そこまで言われたことを聞いてあげる義理はないし、良さげなところを拠点にして、あちこち世界を見て回りたいわね~!」
「お付き合いするのにゃ~」

 かじり終えた林檎の芯はそいやーと投げられ、火属性魔法《火球》の練習台されてしまう。そして、燃え尽きたところを見届けたアイシスが、どっこいしょと声にして立ち上がる。

「それ、年寄りくさいにゃ~」
「うっさい」

 真似したコムギから追加された的を華麗に撃ち落とし、二人は王都に背を向ける。

「それじゃ、美味しい食べ物を求めて、レッツゴー!」
「仕方無いにゃ~」

 元気に右拳を突き上げたアイシスは、夕焼けに染まる銀髪を舞い踊らせて未知なる世界の冒険へ突き進む。
 本当に性格は正反対にゃのねと苦笑いを浮かべ、のんびりと右拳を伸ばしたコムギを引き連れて。


   ★   ★   ★


 聖女アイシスの定期治療会が何ら説明なく途絶えてから十日ほど。
 北部戦線激励の予定を切り上げた国王の執務室に、事情を知る王子と宰相が集められた。

「ある程度の説明は受けたが急ぎ戻ってきたからの、聖女が大聖堂から消えたという日のことを詳しく聞きたい」

 四十代半ば、馬に乗るとき少々お腹の肉が気になってきたサイアント・ジェント・ポシャントが、強行軍の疲れを押しやり質疑応答を始めた。
 険しい顔をした国王と向き合うのは、第一王子のサイバードと宰相のガルリゲスの二人。混乱の責任を感じているのかいないのか、背筋を伸ばして堂々と椅子に座っている。
 それから、第二王子のセビルンド・ビアント・ポシャントが、馬鹿あにが叱責されると聞いて護衛の騎士を引き連れて押し掛けている。彼だけは話し合いが聞こえるかどうかという少し離れた席へ座っている。
 ちなみに、第一王子と第二王子を完全に同席させないようにしている理由は、ただ単純に仲が悪いからだ。
 二十歳と十八歳という成人の儀式まで済ませた年齢になってなお、隣同士にするとすぐに小突き、罵り、殴り合うようになってしまう。
 神聖王国の重要な後継者という問題にて、国王や宰相が頭を痛めている要因でもある。競い高め合うというわけではなく、下の方で小競り合いしているのだから尚更。

「狂った聖女は、あり得ぬことにいきなり俺様の顔を殴ったのです! 捕まえて、大々的に処刑するべきです!」

 十日ばかりでは怒りが収まらないと、前のめりとなったサイバードが発言した。
 歪んだ顔に傷痕は残っていないが、あのときの痛みがぶり返してしまうような心の傷となっている。
 本日まで上手く運ばない八つ当たりをしたのだろう、第一王子の護衛として従っている騎士が、壁際に並ぶ面子が大聖堂のときから総入れ替えされている。馬鹿にしたような笑顔を浮かべる第二王子のそれと違い、歴戦の勇士という愚直な強面ばかりが揃っているのは、たまたまなのか誰かの指示なのか。
 それにしても、当人達にしてみれば外れくじを引かされたような境遇だろうか。

「確保したあとの話は、今は議題にしておらぬ。聖女が逃げ出すまでの詳しい経緯、そして、これまでの捜索の進展はどうなっているのかと聞いたのだ」

 不始末を弁明する場ですらないことを理解していない息子に頭を振り、国王は宰相ガルリゲスへ顔を向けた。

「それでは、私から確認出来ている点を」
「頼む」

 報告書を手渡した宰相が語った時系列は、大半が報せの早馬にて伝えられた内容と変わらない。
 鳳凰殿にてサイバードを殴り、護衛の騎士を魔法で攻撃して、大聖堂から忽然こつぜんと姿を消したというもの。
 当然、定期治療会は行われていないが、王都にて何かしらの騒ぎが起こったわけでもない。それが良いか悪いかは別にして、広く知られる事態とはなっていない。
 しかし、宰相直筆の危急の報せから数日経って、まだ確保済みとなっていないことも驚きを増幅させる。聞かされた情報から予想していたが、はっきりと隷属の首輪が崩壊していると念押しされたことに頭の中が支配されてしまう。

「首輪が破損する、など、……あり得ぬ」
「はい」
「解呪できるほどの者もいない……。……そう、本来ならあり得ぬはずだろう?」

 だが、使用されていた暗い宝玉の一部が損壊を免れて、形状が把握できるまま回収されている。

「そのはずでした。……そして、そのような記録もございません」
「そうだよな……、それで、そうなった原因について、何かしら見当は付いておるのか?」

 首を振った宰相に、国王が静かに問うた。

「それが……、いえ、私は鳳凰殿に居合わせておりませんので、殿下に付き添っていたオンオント侯爵家の令嬢から聞き出した話になるのですが……」
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