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本編
5. 悪役令嬢を庇うつもりですかぁ?
しおりを挟むしかし、そんな予定通りの盛り上がりとは反対に、主張を聞かされていた卒業生達の雰囲気はますます冷えていっている。
王子達もぐるりと囲まれていれば、凍える寒さを感じ取れていたはず。おそらく、そこまで鈍くはないはずだから。
「なぁ、本当に知らないのかな?」
「王子も三金も、成績が成績だったからな」
「あの男狂いも軽いからなー」
身分差を恐れず、嘲笑する会話を交わす令息達がいれば、吊し上げている現状こそあり得ないと憤っている令嬢達も見える。
「どちらが非難されるべきか、お分かりになっていないみたい」
「仕方ありませんわ、あの王子殿下なのですもの」
「うふふ、成り上がりも落ちぶれていくのは決定ですわね」
だが、直接的な動きを見せる者はおらず、決められていた筋書きは止まらない。
「よって、ここにスティーブ・ステファントの名を以て、オリヴィア・マークシアと結ばれている婚約を破棄し、新たに気高く、信頼を寄せている美しきカトレア・ネモフィラ子爵令嬢と婚約を結ぶことを宣言する!」
決まったと目を閉じたスティーブ王子、王妃になれることを喜ぶカトレア、相変わらず拍手することに忙しい取り巻き達は気が付かない。自分達にほぼ全ての卒業生から侮蔑の視線が向けられていることに。
「最後まで隠れていたオリヴィアがカトレアに直接謝罪するなら減刑を考えても良いかもしれぬ。だが、もし拒否するというならば、王族の一員となる者を害したとして国外追放としてやろう」
ステファント王国の制度上、そのような権利があるはずもないのに、悪を裁くことが当然という様子で言い放った。
クツクツと笑うスティーブ王子と、胸を押し付けて醜悪な笑みを見せるカトレアは別にして、宰相令孫や魔術師団長令孫は予定外の言動に困り顔を見せ合っている。
彼等もまた、状況を把握できていないというのに、聞こえていても問題には気付かないだろうと通じ合う。
☆ ☆ ☆
卒業生達から集まる期待の眼差しを感じて、ぼんやりと中央やや後方から眺めていたアルバートが、婚約者エミリアの予言通りになってしまったと重い息を吐いた。
「行きますわよ」
「へい」
左腕に手を回したエミリアに促されて、姿勢を正して歩き出す。
卒業生達が距離を取り綺麗に空いていた半円状の舞台へ、そこだけスポットライトが降り注ぐような花道が出来上がっていく。
「やあやあ、スティーブ殿下、あなた方が仰りたいことは聞かせてもらったよ」
進み出てきたアルバートとエミリアに気付き、上段からスティーブ王子が部外者は出て来るなと睨む。
「何か用でしょうか、アルバート殿下」
敬称は忘れないが、用はないだろうと態度で突き放した。
「いやね、君達の邪魔をしたいわけじゃあなかったんだけどね、いくつか訂正をしておかないといけないことがあるから――」
「悪役令嬢を庇うつもりですかぁ?」
お呼びじゃないのよと馬鹿にした様子で、話を遮りカトレアが口を挟んだ。
隣国の皇太子に対して、子爵令嬢如きが許される態度ではない。スティーブ王子ですら、嫌でも敬称を付けている相手だぞと驚きを顔に出しているくらいに。
「庇うも何も、悪役令嬢が誰か分かっていないじゃない」
言葉尻を不快に感じたのか、礼儀のない相手なら気にするつもりもないのか、馬鹿にしていることが伝わる口調で、ぷふふとエミリアが言い返した。
「何様よ、あんた!」
「おい」
同性相手だからか、自分より高価そうな宝飾品を身に付けているからか、いつもの媚びを売る甘えた口調を忘れたカトレアの言葉に、スティーブ王子が慌てて口を押さえる。
「むぅっ!」
王妃となる自分が令嬢として一番偉いのに、何でよと瞳が訴えている。
しかし、本当に計画通りそうなれた場合でも、敬意を示さなければならない相手はいる。しかも、現状はそれなりに金回りの良い子爵家の令嬢という立場しかないわけだし。
「同じ高等学院で学んでいたのだ、隣国アリストラス王国皇太子の婚約者であるエミリア・ジルザンクト侯爵令嬢のことは認知されていると思っていたよ」
「も、もちろんだとも。そうだよなぁ?」
いや驚いたというアルバートの紹介の仕方に、慌てたスティーブ王子は取り巻き達を振り返り、知っていることだと同意するように圧を掛けた。
慌てて愛想笑いを浮かべて頷いているが、知っていれば許されるわけでもない。
「しかし、卒業後には皇太子妃となる彼女に対する侮辱は、未来の王妃を、さらには王国そのものを侮辱していると受け取られかねない行為だ」
成績に合わせて学ぶため講堂が違っていたというのも、意味のない言い訳にしかならないだろう。
「むーーー」
しかし、ヒロインの自分が主役の世界で、恋愛小説の舞台だった学び舎に存在していただけのモブキャラの中に、そんな大物が潜んでいると思いもしなかったらしい。
普通なら、同じ教室にいて目立つキャラでしょうとカトレアには苛立ちだけが積み重なる。
だんだん、実はこいつが懲らしめるべきだった悪役令嬢なのではと疑いが持ち上がっていくほどに。
「理解しているというのなら、多少は言葉遣いを改めてほしいものだね」
何を学んでいたのだという呆れた視線はカトレアに、しかし、変わらずはっきりと伝わる身体の震え方に、目付きの悪さに、返答は口を押さえたままスティーブ王子がする。
「それは当然のことだ……、し、しかしだな、我が国のことに、わざわざアルバート殿下が口を挟まれることも――」
自分も王子として偉いことは分かっているが、どうしても口調が弱々しくなってしまう。
本物の王子然と向けられるアルバートの威厳に、いつもスティーブ王子はどこかで気圧されている。成績を比べられてしまう優秀さに、反抗心と苦手意識を複雑に持ち続けているから。
ちなみに、南下する異教徒の脅威を退けるため、同盟関係にある大陸南東部の諸国にあって、ステファント王国とアリストラス王国の規模は抜けている。二カ国が支えていると言っても過言ではないだろう。
それでも、大国と恐れられる両国を比べるとすれば、まず間違いなくアリストラス王国の影響力が勝っていると判断されるはずだ。
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