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本編
7. 国外追放の処分とする
しおりを挟む「その通りだ! 本来、聖女として崇められるべきは、侯爵家の令嬢にして神聖魔法を使い熟す彼女だったはずだ。そして、次期国王の婚約者も、お前のようなちんちくりんではなく、男なら誰もが見惚れる身体をしているスリンカだったはずなのだ!」
右の拳を振り回して、これが第一王子の主張だと熱弁する。
百七十半ばと背の高いスリンカは、男性の視線を奪う豊満な肉体美に整った顔立ちであり、夜会なら映えること間違いなしという艶やかな立ち姿だ。
昼間から、しかも厳かなはずの礼拝堂へ赴くために着用することが相応しいかどうかは抜くとして。
しかし、真面目と言われる第一王子の護衛騎士にすら、チラチラと胸元や腰回りを楽しまれていたほどの魅力はある。
(聖女に、どんな関係があるってのよ……)
騎士達は両開きの影に潜むような立ち位置で、国王陛下の跡継ぎを自称したことについて、漏れないと思うけどどうするよ、ほっとけよと視線で言葉を交わす。そして、知らぬ間に第一王子派閥だと思われていることに、面倒臭いかもと内心で思うままに溜め息を吐き出す。
だが、国王位を継ぐ王太子にそろそろ指名されるはずと楽観視しているサイバードは、自己完結の断罪を滑らかに告げ始める。
「偽物の聖女と婚約したままであるなど、権威ある王族として許されるはずがない。また、未来の国母を卑しい孤児から選んで良いはずがないのだ! 本物の聖女であるスリンカと、我が愛する者と正しい婚約を結ぶため、お前と結ばされている婚約など破棄することをここに宣言する!」
「サイバード様~」
婚約破棄だと右の人差し指を突き付けたサイバードに、感謝を伝えようとスリンカが見上げるように谷間を押し付けて抱き付く。
ちなみに、真剣な睦み合いを演じている二人は同じ身長だ。
だから、アイシス側から見てしまえば、一人がかなりお尻を突き出すような格好となり、笑いを誘う組み合わせでしかないことを付け加えておこう。
「そして、罪人という汚らわしいお前は、このポシャント神聖王国に存在することが相応しくない! よって、このまま国外追放の処分とすることに決めたぞ!」
突き付けた右手を真横に振り、華麗に断罪を決めてやったとサイバードは顔を引き締めた。
「…………、……ふ、ひ」
意気揚々の断罪者が話す台詞の途切れたタイミングで、向き合っているアイシスから微かに、我慢しきれずに漏れた小さな吐息が聞こえたような気がする。
もし、彼女の表情を気にしている者がいれば、どんどんと口角が上がっていくことに気が付けただろう。
「国外追放のために、北部の国境から放り出してやろう! そして、それ以降はこの祝福の大地を穢すことを禁ずる! 残りの人生、安らぎのない大地を彷徨い続けると良いわ!」
「……ふ、ふひひ」
サイバードが頑張って考えた嫌味を続けている間、表情を動かすことの少なかった彼女に、目に見える感情が湧き出している。
(やったわ! 最高よ!!)
それは、第一王子の婚約破棄という宣言か、国外追放という宣告か、一連の流れが契機となったのか、アイシスの白い肌へ浮かんでいた闇色の首輪がほろほろと崩れていくという変化に関係があるのだろう。
ちなみに、神聖王国の北部には、緩衝地帯を抜けていくと魔物蠢く未開の大森林が広がっている。
魔境から供給される魔物が多すぎて、ずっと開拓を進められていないほどであり、北部追放とは死神へ差し出す行為と変わらない。無様な死に様を晒したくなければ、必死で魔物から逃げ続けてみろと言いたいわけである。そして、最後は結局――
「騎士よ、こいつを縛り上げろ!」
「「――ハッ!」」
開いていた拳をギュッと握り締めたサイバードから、捕縛を命じられた騎士二人が礼拝堂へ声を張り上げた。
しかし、勝手に外へ出すなと命令されただけで、縛り上げる縄など用意していないぞと、どうするんだよという困惑を隠したまま踏み出す。
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