6 / 21
本編
6. 許しがたい大悪事である!
しおりを挟むだが、彼女が身に付けている闇色の首輪、魔力を高めるというマジックアイテムの影響で反応が乏しいらしいことを耳にしたことはある。
元聖女として、似たような赤黒い首輪を外さない正妃にそっくりな反応だ。挨拶をしてこないことについては、子供の頃のようにいちいち苛立っていても仕方無いことだと割り切れている。でも、しょっちゅう怒鳴り声を上げるけど。
「どんな顔をして、泣き喚くのかしら~」
第一王子へ続くように青髪を揺らして、スリンカ・オンオント侯爵令嬢が、扇子で楽しくて仕方無いという笑い顔を隠して立ち上がった。
彼女はこれから、他国なら諸手を挙げて歓迎されるミフィル教の聖女という地位を利用して、身分不相応に一目惚れしたサイバードの婚約者に収まった――と彼等の中では決め付けられている――我が儘大悪女を懲らしめられるつもりで興奮している。
平民などひれ伏すのが当然であり、聖女すら侯爵令嬢の自分を敬うべきだと考えるような女性である。同年代の侯爵家や伯爵家に令息ばかりで、ちやほやされることに慣れすぎて少々、いや、かなり世間知らずな令嬢と言えなくもない。
だが、神聖王国の貴族らしい考え方を受け継いでいるとも言えてしまえる令嬢だ。
「うふふ」
「さて、今日呼び出したのは、お前の罪状について話すためだ」
左腕に巻き付いてくるスリンカ、その胸元の柔らかさを堪能しながら、サイバードが絨毯へ足を乗せる。
「…………罪、状?」
お馬鹿王子が何か言い出したというアイシスの表情に、数歩ほどの距離を取り立ち止まったサイバードが勝ち誇る。
「ふはは、馬鹿なお前では言葉の意味が分からないかもしれないが、高価な魔道具を用いて聖女を騙り、国民を騙し、貴族を欺き、俺様の婚約者に収まったことは許しがたい大悪事である!」
「…………」
「おほほ、あなたは何も言い返せませんよね~。わたくしの名声を奪っていたのですから、当然ですよね~」
これはまさか、悪役令嬢の断罪付きの世界だったのかと驚いたアイシスの無言に、俺様格好良いと浸るサイバードと、醜く笑い妄想を披露するスリンカ。
離れたところで冷静に観察中の護衛の騎士二人は、アレって良いのか、どうなんだろうなとアイコンタクトを試みている。ただの太鼓持ちとは違ったらしい。
「侯爵令嬢であるわたくしを差し置いて、素性が分からない孤児を、しかもこんなに見窄らしいお子ちゃまを最高位の聖女として担ぎ上げているなど許されないことですよ~」
オンオント侯爵家の教えを守るスリンカは常々、聖女とは貴族令嬢から選ばれるべきだと考えていた。高貴な存在とは選ばれた血筋から現れるのが当然なのだから。
そして、身分的に最底辺な馬の骨が、この鳳凰殿へ出入りしていることも不相応だと考えていた。
(何を言ってるんだ、こいつら……)
ただし、本当に賛同する者がいるかどうかは二の次であり、本音は自分より目立つ存在が許せないだけ。
国王陛下に第一王妃、第二王妃といることは知っているが、自分はサイバードの隣で正妃と呼ばれるに相応しい女性だと自負している。だから、自分が聖女に祭り上げられて王太子と結婚、王太子妃から国一番の正妃として持て囃されるべきだと思考は続くのだ。
「こんな暴挙を許していれば、神聖なる王家や正しい聖女の権威を損なうという問題だけでなく、偉大なる神々に失礼な選択ではないかと心配をされる方がいらっしゃることも、当然ご存じないのでしょうね~」
貴族令嬢を平民より格下のように扱うこと、優秀な王子に平民の婚約者がいることを許されるべきではないと擦り寄った。そして、持ち上げられて、その身体に溺れていたサイバードはあっさりと同意した。
邪魔になるのならば、追い出してしまえば良いと。偉大なる神聖王国の後継者たる自分には、それだけの権力と権利があるからと動き出した。
10
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる