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第一章【出会い編】
2.おつかいの途中で拾い物をする1
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「いや~助かったよ~。」
そう言いながら目の前の男は、食べ物を頬張りながら、にこやかに話しかけてきた。
しかも喋っている間も手は忙しなく動き、テーブルに並べられた食事を次々と口の中へと詰め込んでいく。
「……いえ。」
マクレーンは、そう言うと小さく溜息を吐いた。
あれから半刻、森を抜けてすぐ近くにある小さな町にマクレーン達はいた。
目の前で豪快に食事をする相手は、先程泉の所で倒れていた相手だ。
あの後、「腹が空いて動けない」と言って来たこの男を、ここまで連れて来てあげたのだが……。
リスのように左右の頬に食べ物を目一杯詰め込む姿は、さっきまで本当に瀕死の相手だったのかと疑いたくなってしまう。
ジト目で見つめてくるマクレーンに気づいたのか、目の前の男はごっくんと口の中の物を勢い良く飲み込むと爽やかな笑顔を向けてきた。
「あ、俺アラン、アラン・バッシュフォードっていうんだ、よろしく!」
そう言ってアランと名乗った男は、握手を求めてきた。
端正な顔立ちに優しそうな赤茶の瞳で微笑む姿は、どこからどうみても好青年に見える。
マクレーンは少しの間躊躇ったが、無視をするわけにもいかず握手をして返した。
「いや~本当助かった。あの森に入るまでは良かったんだが、道に迷ってしまってね。食料も無くなっちゃって餓死寸前だったんだよ。」
そう言って、ははははと豪快に笑う相手をマクレーンは無言のまま見据えていた。
あの森とは、あの森である。
彼が倒れていた森は、この辺りでは有名な森だった。
『クリムゾンフォレスト。』
深紅の森と呼ばれているそこは、この大陸ウェストブレイの最東端にあり、この地の統治者、赤の魔女が住まうと言われている森だ。
しかもこの森は『迷いの森』とも言われ、ある目的で入ってきた者はいつの間にか入り口まで戻されてしまうという、なんとも不思議な森であった。
「あの森に、何か用があったんですか?」
マクレーンは未だに目の前で笑う男を神妙な顔で見上げながら、少しだけ硬い声音で聞いてみた。
「ん?何かって?」
対するアランは、チキンの丸焼きを頬張りながら首を傾げて聞き返してくる。
「その・・・あそこには・・・・。」
「ああ、もちろん赤の魔女に会いに来たのさ。」
言い辛そうに口篭るマクレーンに、アランはさも当たり前の事のように答えてきた。
その答えに、マクレーンは軽く目を瞠る。
「あ、あの・・・。」
知らないのだろうか?
マクレーンは、目の前の男を見ながら胸中で呟いた。
赤の魔女――東の大地ウェストブレイを統括する魔女は人間嫌いで有名だった。
自らが住まう塔はもちろん、その周辺に人が訪れる事を酷く嫌っていた。
それ故、彼女の住む森には魔法がかけられており、『魔女に会いたい』と思う人間は、この森には入れないようになっていた。
入れるのは動物や、魔女に管理を任されている木こりか、あるいは魔女になんの興味も示さない人間だけ。
この大陸に住むものなら、誰でも知っている事だった。
しかし、この目の前の男は『彼女に会いたい』と思いながら森に入った。
そして何日も森の入り口を、うろうろしていたと言う。
マクレーンは彼を見ながら、なんとも不可思議だと首を傾げた。
彼――アランの腰に帯刀している剣の鞘は深紅のそれである。
それは、この大陸に住まう者を意味していた。
世界を統治する魔女を崇め、各大陸ではそれぞれ魔女のイメージカラーを身に付けるのが風習だった。
東の大地ウェストブレイでは、赤がそのイメージカラーだ。
その色を身に付けているという事は、彼もまたウェストブレイ出身者。
なら知っていて当然のはず、なのだが……。
しかしマクレーンの危惧も、この男の次の発言で意味を無くしたのだった。
「しっかし、噂は本当だったんだな~、あの森。」
アランの呟きに、マクレーンの瞳が見開かれる。
「え、じゃ、じゃあ知ってて・・・・。」
「ん?ああ、気合で行けば何とかなるかな~と思ってさ。」
慌てて聞き返すマクレーンにアランは、にかっと眩しいくらいの笑顔を向けてそう言ってきた。
その途端マクレーンは大袈裟なほど、がくっと項垂れたのだった。
気合って……。
言葉の通りなのであろう。
目の前の男は、あの森を気合で抜けようとしたのだ。
なんと強引で無鉄砲なんだと、マクレーンは眩暈さえ覚えた。
「そうですか・・・それはご愁傷様でしたね。」
目の前でにこにこと微笑む無鉄砲男に、マクレーンはジト目になった。
「そういえばさ!」
しかし、そんなマクレーンの反応を気にする風でもなくアランは突然思い出したとばかりに話しかけてきた。
「え?」
先程よりも大きい声に、マクレーンは何事かとアランの顔を見上げる。
「あんた、あの森から来ただろ?あそこに住んでるのか?」
アランは上半身をテーブルへ乗り出すと、驚いた顔で自分を見つめるマクレーンに向かって、瞳をキラキラさせながら詰め寄ってきた。
う・・・嫌な予感がする。
突然目の前に迫ってきたアランに、マクレーンは仰け反りながら冷や汗を流した。
「え、ええ、あの森を反対側に抜けた所にある、小さな村に住んでます。」
「やっぱり!それで、助けてくれたついでにお願いがあるんだが……。」
アランはマクレーンの返事を聞くや、嬉しそうに顔を綻ばせながら、そう言ってきた。
その言葉に、何が助けてくれたついでなのだろうと、マクレーンはまたジト目になった。
そして――。
「赤の魔女の塔まで案内してくれよ。」
彼――アラン・バッシュフォードの言葉にマクレーンは「やっぱり」と、盛大な溜息を零すのであった。
そう言いながら目の前の男は、食べ物を頬張りながら、にこやかに話しかけてきた。
しかも喋っている間も手は忙しなく動き、テーブルに並べられた食事を次々と口の中へと詰め込んでいく。
「……いえ。」
マクレーンは、そう言うと小さく溜息を吐いた。
あれから半刻、森を抜けてすぐ近くにある小さな町にマクレーン達はいた。
目の前で豪快に食事をする相手は、先程泉の所で倒れていた相手だ。
あの後、「腹が空いて動けない」と言って来たこの男を、ここまで連れて来てあげたのだが……。
リスのように左右の頬に食べ物を目一杯詰め込む姿は、さっきまで本当に瀕死の相手だったのかと疑いたくなってしまう。
ジト目で見つめてくるマクレーンに気づいたのか、目の前の男はごっくんと口の中の物を勢い良く飲み込むと爽やかな笑顔を向けてきた。
「あ、俺アラン、アラン・バッシュフォードっていうんだ、よろしく!」
そう言ってアランと名乗った男は、握手を求めてきた。
端正な顔立ちに優しそうな赤茶の瞳で微笑む姿は、どこからどうみても好青年に見える。
マクレーンは少しの間躊躇ったが、無視をするわけにもいかず握手をして返した。
「いや~本当助かった。あの森に入るまでは良かったんだが、道に迷ってしまってね。食料も無くなっちゃって餓死寸前だったんだよ。」
そう言って、ははははと豪快に笑う相手をマクレーンは無言のまま見据えていた。
あの森とは、あの森である。
彼が倒れていた森は、この辺りでは有名な森だった。
『クリムゾンフォレスト。』
深紅の森と呼ばれているそこは、この大陸ウェストブレイの最東端にあり、この地の統治者、赤の魔女が住まうと言われている森だ。
しかもこの森は『迷いの森』とも言われ、ある目的で入ってきた者はいつの間にか入り口まで戻されてしまうという、なんとも不思議な森であった。
「あの森に、何か用があったんですか?」
マクレーンは未だに目の前で笑う男を神妙な顔で見上げながら、少しだけ硬い声音で聞いてみた。
「ん?何かって?」
対するアランは、チキンの丸焼きを頬張りながら首を傾げて聞き返してくる。
「その・・・あそこには・・・・。」
「ああ、もちろん赤の魔女に会いに来たのさ。」
言い辛そうに口篭るマクレーンに、アランはさも当たり前の事のように答えてきた。
その答えに、マクレーンは軽く目を瞠る。
「あ、あの・・・。」
知らないのだろうか?
マクレーンは、目の前の男を見ながら胸中で呟いた。
赤の魔女――東の大地ウェストブレイを統括する魔女は人間嫌いで有名だった。
自らが住まう塔はもちろん、その周辺に人が訪れる事を酷く嫌っていた。
それ故、彼女の住む森には魔法がかけられており、『魔女に会いたい』と思う人間は、この森には入れないようになっていた。
入れるのは動物や、魔女に管理を任されている木こりか、あるいは魔女になんの興味も示さない人間だけ。
この大陸に住むものなら、誰でも知っている事だった。
しかし、この目の前の男は『彼女に会いたい』と思いながら森に入った。
そして何日も森の入り口を、うろうろしていたと言う。
マクレーンは彼を見ながら、なんとも不可思議だと首を傾げた。
彼――アランの腰に帯刀している剣の鞘は深紅のそれである。
それは、この大陸に住まう者を意味していた。
世界を統治する魔女を崇め、各大陸ではそれぞれ魔女のイメージカラーを身に付けるのが風習だった。
東の大地ウェストブレイでは、赤がそのイメージカラーだ。
その色を身に付けているという事は、彼もまたウェストブレイ出身者。
なら知っていて当然のはず、なのだが……。
しかしマクレーンの危惧も、この男の次の発言で意味を無くしたのだった。
「しっかし、噂は本当だったんだな~、あの森。」
アランの呟きに、マクレーンの瞳が見開かれる。
「え、じゃ、じゃあ知ってて・・・・。」
「ん?ああ、気合で行けば何とかなるかな~と思ってさ。」
慌てて聞き返すマクレーンにアランは、にかっと眩しいくらいの笑顔を向けてそう言ってきた。
その途端マクレーンは大袈裟なほど、がくっと項垂れたのだった。
気合って……。
言葉の通りなのであろう。
目の前の男は、あの森を気合で抜けようとしたのだ。
なんと強引で無鉄砲なんだと、マクレーンは眩暈さえ覚えた。
「そうですか・・・それはご愁傷様でしたね。」
目の前でにこにこと微笑む無鉄砲男に、マクレーンはジト目になった。
「そういえばさ!」
しかし、そんなマクレーンの反応を気にする風でもなくアランは突然思い出したとばかりに話しかけてきた。
「え?」
先程よりも大きい声に、マクレーンは何事かとアランの顔を見上げる。
「あんた、あの森から来ただろ?あそこに住んでるのか?」
アランは上半身をテーブルへ乗り出すと、驚いた顔で自分を見つめるマクレーンに向かって、瞳をキラキラさせながら詰め寄ってきた。
う・・・嫌な予感がする。
突然目の前に迫ってきたアランに、マクレーンは仰け反りながら冷や汗を流した。
「え、ええ、あの森を反対側に抜けた所にある、小さな村に住んでます。」
「やっぱり!それで、助けてくれたついでにお願いがあるんだが……。」
アランはマクレーンの返事を聞くや、嬉しそうに顔を綻ばせながら、そう言ってきた。
その言葉に、何が助けてくれたついでなのだろうと、マクレーンはまたジト目になった。
そして――。
「赤の魔女の塔まで案内してくれよ。」
彼――アラン・バッシュフォードの言葉にマクレーンは「やっぱり」と、盛大な溜息を零すのであった。
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