僕のおつかい

麻竹

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第一章【出会い編】

55.大地の割れ目

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ヒョオオオオオオオ。

目の前に土埃を巻き上げながら風が通り過ぎていく。

埃っぽい空気に。

乾いた大地。

目の前には断崖絶壁。

行く手を阻むその断崖は、地平線のどこまでも続いていた。



大地の割れ目――ウイッチブレイク。



マクレーン達が次に降り立ったそこは、そんな名前で呼ばれる場所だった。

「すごいですねぇ。」

谷間から吹き上げてくる風に髪を靡かせながら、ニコルは目の前の大きな穴を見下ろしながら呟いた。
大きな穴というが、実は丸く空いているわけではない。
穴に見えていたそれは、大昔に魔女がつけたと言われる大地の傷跡だった。
その傷跡は、世界を分断するほどに巨大な亀裂のため、人がその姿を見ようとすれば果ての見えない大穴にしか見えない。
遥か上空から見下ろすと、きっちり十時の形に分断されているらしい。
しかも、そのあまりの広さと底の見えない深さと、時々起こる地殻変動のせいで橋を通すこともできないのだ。
まさに神の御業ならぬ、魔女の御業である。

「すごいな、俺初めて見たよ。」

「ええ、僕もです。」

「そんな事より早く行きましょう。」

強大な力の痕跡を目の当たりにし感動しているアラン達に、マクレーンはさして興味もなさそうに催促してきた。

「なんだよ、もう少しいいだろう?」

マクレーンの言葉に、アランが詰まらなさそうに振り返る。

「割れ目なら他の転柱門の所でも見たでしょうが。」

もう少し見ていたいと目で訴えてくるアランに、マクレーンはそう言いながら嘆息した。
アランの気持ちも、わからない訳ではなかった。
なにせここは他の転柱門とは訳が違った。
亀裂の中心に、ぽっかり残った大地。
そこに、この転柱門はあった。
そして、こここそが世界を分断した魔女の奇跡が振るわれた場所であった。
遥か昔、魔女はこの地を中心に世界を分断した。
その時魔女が立っていた場所は小さな浮き島の様に残ったそうだ。

この大地こそが、魔女暦666年の始まりの場所――魔女を信仰する人々にとって、まさに聖地なのである。

そんな場所に、魔女を崇拝する者が来たら多少はしゃいでしまうのは仕方が無いだろう。

だが――。

「そんな事していたら、日が暮れちゃいますよ!ここは治安が悪いんですから、早く行かないと危険なんです!」

状況わかってんのかお前ら!!と米神に怒りマークを露にして、マクレーンはアランを睨みながら言った。
そうここは聖地、しかし悲しいかな世界で一番治安が悪い場所なのである。
マクレーンは、数日前の姉とのやり取りを思い出しながら溜息を吐くのだった 。



「そういえば、お婆様の所にも行くのでしょう?」

「ええ、もちろん。」

5日前、姉であるイレーニアの屋敷で寛いでいると、ふとそんな事を聞かれた。

「お婆様の所に行くなら、あそこを通らないといけないのよねぇ。」

何か含みを持たせた姉の言い方に、マクレーンは首を傾げる。

「あそこと言うと……バラックの事ですか?」

「ええそう、あそこは今ちょっと治安が悪いみたいなのよ、なんでも盗賊が出るらしいわよ。」

「盗賊……ですか?」

マクレーンは姉の話を聞きながら首を傾げた。
大地の割れ目は魔女が大地を分断させた影響からか当初から作物の育たない荒れた土地だった。
しかしその逆に割れた大地の下には豊富な資源が眠っていたのだ。
世界共通で流通されている宝石と呼ばれる鉱石が地中深くに埋まっているのだそうだ。
その宝石の種類はさまざまで黄金色のものから透明なものまでいろいろある。
その宝石を求めて世界中の人々が一攫千金を狙って集まってくるのが先程マクレーンが言ったバラックだった。

鉱夫の街バラック ―― 一攫千金を狙うだけあって集まってくる輩は荒くれ者達が多いその村では盗賊が出るなど珍しくも無い日常茶飯事のことだ。

それ故姉の言った言葉にマクレーンは首を傾げたのだった。

「そう、でもいつもより頻繁に出るらしいわ、しかも数も増えているそうよ。」

「また新しい鉱石でも出たのでしょうか?」

姉の言葉に首を傾げつつよくある仮定を挙げてみた。

たまに今まで発見された事が無い宝石が出る事があるらしい。
そういう類はまずその希少性から高値がつく。
しかも美しければ美しいほどだ。
発見された宝石類は聖教会が管理しているのだが、その管理の目を盗んで密輸や窃盗を働く不届きものが後を絶たない。
その大半は盗賊達が絡んでいる事が多いのだが。

「私も詳しくはわからないのよ、でも気をつけるに越したことは無いわ。」

「……そう、ですね。」

心配そうな顔をしながらこちらを見て微笑む姉に、なんとなく引っかかるものを感じながらマクレーンは頷くのだった。
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