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6.侯爵令嬢のお見舞い
しおりを挟む騎士たちが、王子妃の温室から薬草を採って行ってから、一週間後――
「なに!?毒が出てこないだと!?」
王宮に居る薬師からの報告に、第一王子は目くじらを立てていた。
「も、申し訳ありません。そればかりか、薬草の中には、解毒の効果のあるものがありまして……。」
報告に来た薬師は、冷や汗をだらだら流しながら、検査結果を包み隠さず報告していた。
「なに、解毒薬だと!?それなら、それを解毒する毒もあるということだ。衛兵、騎士団長を呼べ!!」
第一王子は薬師の報告に、勝機を得たりとにやりと笑うと、騎士団長を呼んだ。
すぐさま騎士団長が王子の元へやってきた。
「王妃の温室から解毒の薬草が出たそうだ。それこそ確かな証拠だ!第一王子妃を捕らえろ!!」
「し、しかし、解毒薬が出ただけでは証拠になりませぬ。」
性急に第一王子妃を捕まえようとする王子に、騎士団長は慌てた様子で止めに入った。
「く……そうか。では、騎士団の総力を挙げて、その毒を探し出せ!そうだ、毒は出なかったことにして内密に探し出すことにしよう。王子妃に逃げられては事だからな。いいな、王子妃には決して悟られるなよ!」
第一王子は、名案だと笑いながら騎士団長に命令する。
騎士団長は、若干引き攣った顔で一礼すると、第一王子の部屋を後にしたのだった。
「くくく、今に見てろよ。お前を完膚なきまでに叩きのめし、罪人として国に送り返してやる。」
第一王子は、悪役も真っ青な悪人顔になりながら、高らかに笑うのであった。
一方その頃――
国王陛下の寝室に、侯爵令嬢がお見舞いに来ていた。
「陛下、滋養強壮に良いというお茶が手に入りましたの。私が淹れましたので、どうぞ飲んでくださいまし。」
「いや、せっかくだが予には第一王子妃が淹れてくれた茶があるからな、遠慮しておこう。」
「そうおっしゃらずに、一口だけでも。」
しかし、国王は頑なにお茶を飲もうとしなかった。
それでも侯爵令嬢は、にこにこと笑顔を作ったまま、どうぞどうぞと国王にお茶を進めてきた。
「そう無理に勧められては、何か毒でも入っているのかと懸念してしまうのう。」
あまりの勧めっぷりに、国王が思わずそう漏らすと、侯爵令嬢は傷ついた表情を浮かべて両手で顔を覆ってしまった。
「そんな、酷いですわ!毒なんて……毒が入っているとすれば第一王子妃様の……。」
「……第一王子妃が、どうしたというのじゃ?」
侯爵令嬢が思わず言いかけた言葉に、国王の瞳に剣呑な光が宿る。
その光を見過ごさなかった侯爵令嬢は、おずおずとした様子で「恐れながら申し上げます。」と言って、話し出したのだった。
その日の夜。
第一王子妃が、国王の部屋への出入りを禁止されたという報告が上がってきた。
「父上もようやく目が覚めたようだな。」
「はい。国王様に、ご理解頂けたようで良かったですわ。」
第一王子の寝室で、侯爵令嬢を横に抱きながら王子は先程あがってきた報告に、ほくそ笑んでいた。
昼間、侯爵令嬢が「第一王子妃が怪しい薬草で命を狙っているかもしれない。」と国王に直々に話したところ、その話を国王が信じてくれたようだ。
その為、第一王子妃は自室で謹慎を余儀なくされていた。
「あとは毒が発見されれば、あの女を追い出すことができるな。」
第一王子は、侯爵令嬢を抱き寄せながらそう言ってきた。
「それなら、いい案がありますわ。」
侯爵令嬢は口の端を吊り上げると、王子の耳元にそう囁いてきたのだった。
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