2 / 6
2話「黒い霧の魔物と特製ベーコンII」
しおりを挟む
夕闇が降りるまでに一行は何度となく襲撃を凌いできた。街道沿いの廃屋を仮の宿と決めた頃、誰もが疲労の色を濃くしている。
「みんな、今日はよく戦った。早めに休もう」
四人の中でリーダー格である剣士エレナが口火を切った。
「賛成です。アキラさんもお疲れでしょうし」
ミリアが微笑む。その優しさに胸が温かくなる反面、自分が足手纏いになっているのではないかという思いも消えない。
「じゃあ私は薪になるものを探してくるよ」
セシリアが外套を翻して外へ出て行く。その後ろ姿はいつも通り冷静沈着だが、少しだけ疲労が滲んでいるようにも見えた。
「私も周囲を見回ってくる。夜行性の魔物もいるからね」
エレナは壁際に立てかけた愛剣に手を掛ける。
「俺たちは食事の準備をしようか」
アキラがミリアに声を掛けると、彼女は嬉しそうに頷いた。
ジャガイモの皮をナイフで剥き、適当な大きさでカットして鍋に入れていく。水を入れた鍋が煮え立つと、干し肉を加えて塩胡椒で味を調えるだけの簡単なスープだ。
「おいしそうな匂いですね」
ミリアが木製の器を用意しながら言った。その言葉に救われる気がして、アキラは自然と笑顔になれる。
「トマトでもあればちゃんとしたシチューにでもなるんだろうなぁ……市販のルーを溶かすだけの身としてはこの世界の料理は最低限のレベルが高すぎる」
「……アキラさんの故郷の食べ物も、きっと美味しいのでしょうね」
そう言って彼女は遠くを見るような目をした。
「歴史を重ねてるからね。最終的に美味しいものだけが残った」
「こちらも負けてはいませんよ?明日の朝は美味しいベーコンとスクランブルエッグを作ります!」
「楽しみにしてるよ……」
(ベーコンもスクランブルエッグもあるんだよなぁ……)
他愛もない会話。こうした時間がどれほど貴重なものか、少年は既に身に沁みて理解していた。
■
就寝前、エレナは一人で夜空を見上げていた。星空に浮かぶ双子の月。それを見つめる瞳には憂いの色が揺れている。
「……あの日と同じ」
その呟きは風に掻き消えたが、確かに苦渋の記憶を呼び覚ましている証だった。
エレナの故郷――辺境の小村はかつて平和で豊かだった。畑には作物が実り、牛や鶏の鳴き声が響き、子供達の笑い声が絶えることのない幸せな日々。だがそれも魔王軍の侵攻によって終わりを告げる。
炎に包まれた家屋、泣き叫ぶ村人の姿、血に染まった夕焼け。その地獄絵図の中で彼女はただ一人生き残った。家族を失い、友を失い、全てを奪われたあの日。
剣を取り戦うと誓ったのも、全ては平和を取り戻すため。大切な人々を守るために。
(私はもう……何も失いたくない)
強く拳を握りしめると、小刻みに震えが伝わってきた。それを抑え込むように深く息を吸い込んでから、彼女はゆっくりと仲間たちの眠る小屋へと戻っていった。
■
同じ頃、アキラもまた寝付けずに外へ出ていた。異世界の空は美しく壮大で、そこにあるはずの人工的な光害のない星々は圧倒的な輝きを放っている。
「こんばんは」
背後から掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには銀髪の少女――セシリアの姿があった。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「ううん、私も寝付けなかっただけ。エレナも起きていましたし」
「早めに休むって言ったじゃん……」
彼女は少年の隣に立った。
「星空、綺麗だね」
「うん……俺のところと違って他の明かりが少ない分、もっとずっと」
しばし沈黙が流れる。虫の声だけが静かに響いていた。
「怖かった?今日の戦い」
突然の問いにアキラは少し戸惑った様子を見せた。
「……怖かったよ。たぶんいくら経験しても変わらないと思う」
正直な答えだった。現代日本で平凡な高校生活を送っていた彼にとって、人を傷つけるということ自体が遥か遠い世界の出来事だった。それが今では命を奪い合う日常になってしまっている。
「それでいいんだよ」
セシリアは微笑みながら言った。
「生きている以上、死と隣り合わせだ。それを忘れた時こそ本当に恐ろしいことになる」
「……哲学者みたいなこと言うな」
「魔法使いだからね。学問の方には精通してるよ」
二人で小さな笑い声を交わす。その穏やかな時間はアキラの心を幾分か軽くしてくれたようだった。
「ありがとう。少し楽になった」
「どういたしまして。じゃあそろそろ戻ろうか、ミリアまで起きて誰も居なかったら心配する」
そう言って踵を返す銀髪の少女。
「みんな、今日はよく戦った。早めに休もう」
四人の中でリーダー格である剣士エレナが口火を切った。
「賛成です。アキラさんもお疲れでしょうし」
ミリアが微笑む。その優しさに胸が温かくなる反面、自分が足手纏いになっているのではないかという思いも消えない。
「じゃあ私は薪になるものを探してくるよ」
セシリアが外套を翻して外へ出て行く。その後ろ姿はいつも通り冷静沈着だが、少しだけ疲労が滲んでいるようにも見えた。
「私も周囲を見回ってくる。夜行性の魔物もいるからね」
エレナは壁際に立てかけた愛剣に手を掛ける。
「俺たちは食事の準備をしようか」
アキラがミリアに声を掛けると、彼女は嬉しそうに頷いた。
ジャガイモの皮をナイフで剥き、適当な大きさでカットして鍋に入れていく。水を入れた鍋が煮え立つと、干し肉を加えて塩胡椒で味を調えるだけの簡単なスープだ。
「おいしそうな匂いですね」
ミリアが木製の器を用意しながら言った。その言葉に救われる気がして、アキラは自然と笑顔になれる。
「トマトでもあればちゃんとしたシチューにでもなるんだろうなぁ……市販のルーを溶かすだけの身としてはこの世界の料理は最低限のレベルが高すぎる」
「……アキラさんの故郷の食べ物も、きっと美味しいのでしょうね」
そう言って彼女は遠くを見るような目をした。
「歴史を重ねてるからね。最終的に美味しいものだけが残った」
「こちらも負けてはいませんよ?明日の朝は美味しいベーコンとスクランブルエッグを作ります!」
「楽しみにしてるよ……」
(ベーコンもスクランブルエッグもあるんだよなぁ……)
他愛もない会話。こうした時間がどれほど貴重なものか、少年は既に身に沁みて理解していた。
■
就寝前、エレナは一人で夜空を見上げていた。星空に浮かぶ双子の月。それを見つめる瞳には憂いの色が揺れている。
「……あの日と同じ」
その呟きは風に掻き消えたが、確かに苦渋の記憶を呼び覚ましている証だった。
エレナの故郷――辺境の小村はかつて平和で豊かだった。畑には作物が実り、牛や鶏の鳴き声が響き、子供達の笑い声が絶えることのない幸せな日々。だがそれも魔王軍の侵攻によって終わりを告げる。
炎に包まれた家屋、泣き叫ぶ村人の姿、血に染まった夕焼け。その地獄絵図の中で彼女はただ一人生き残った。家族を失い、友を失い、全てを奪われたあの日。
剣を取り戦うと誓ったのも、全ては平和を取り戻すため。大切な人々を守るために。
(私はもう……何も失いたくない)
強く拳を握りしめると、小刻みに震えが伝わってきた。それを抑え込むように深く息を吸い込んでから、彼女はゆっくりと仲間たちの眠る小屋へと戻っていった。
■
同じ頃、アキラもまた寝付けずに外へ出ていた。異世界の空は美しく壮大で、そこにあるはずの人工的な光害のない星々は圧倒的な輝きを放っている。
「こんばんは」
背後から掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには銀髪の少女――セシリアの姿があった。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「ううん、私も寝付けなかっただけ。エレナも起きていましたし」
「早めに休むって言ったじゃん……」
彼女は少年の隣に立った。
「星空、綺麗だね」
「うん……俺のところと違って他の明かりが少ない分、もっとずっと」
しばし沈黙が流れる。虫の声だけが静かに響いていた。
「怖かった?今日の戦い」
突然の問いにアキラは少し戸惑った様子を見せた。
「……怖かったよ。たぶんいくら経験しても変わらないと思う」
正直な答えだった。現代日本で平凡な高校生活を送っていた彼にとって、人を傷つけるということ自体が遥か遠い世界の出来事だった。それが今では命を奪い合う日常になってしまっている。
「それでいいんだよ」
セシリアは微笑みながら言った。
「生きている以上、死と隣り合わせだ。それを忘れた時こそ本当に恐ろしいことになる」
「……哲学者みたいなこと言うな」
「魔法使いだからね。学問の方には精通してるよ」
二人で小さな笑い声を交わす。その穏やかな時間はアキラの心を幾分か軽くしてくれたようだった。
「ありがとう。少し楽になった」
「どういたしまして。じゃあそろそろ戻ろうか、ミリアまで起きて誰も居なかったら心配する」
そう言って踵を返す銀髪の少女。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界転生したら宇宙の帝王になった件~俺は今日も最強ハーレム部隊を作ってる~
こうたろ
SF
現代日本の平凡な高校生だったアヤトは、事故死後に神の手で異世界転生を果たす。目覚めるとそこは宇宙全域で戦争が繰り広げられる世界で、彼は帝国皇帝一族の10男だった。超高速思考や無限魔力といったチート能力を駆使し、個性豊かな美女たちによる秘書や艦隊を率いて銀河の危機に立ち向かう。
黒騎士団の娼婦
星森 永羽
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる