異世界転移したので、帰還方法を探しながら魔王倒します

こうたろ

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2話「黒い霧の魔物と特製ベーコンII」

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 夕闇が降りるまでに一行は何度となく襲撃を凌いできた。街道沿いの廃屋を仮の宿と決めた頃、誰もが疲労の色を濃くしている。

「みんな、今日はよく戦った。早めに休もう」

 四人の中でリーダー格である剣士エレナが口火を切った。

「賛成です。アキラさんもお疲れでしょうし」

 ミリアが微笑む。その優しさに胸が温かくなる反面、自分が足手纏いになっているのではないかという思いも消えない。

「じゃあ私は薪になるものを探してくるよ」

 セシリアが外套を翻して外へ出て行く。その後ろ姿はいつも通り冷静沈着だが、少しだけ疲労が滲んでいるようにも見えた。

「私も周囲を見回ってくる。夜行性の魔物もいるからね」

 エレナは壁際に立てかけた愛剣に手を掛ける。

「俺たちは食事の準備をしようか」

 アキラがミリアに声を掛けると、彼女は嬉しそうに頷いた。

 ジャガイモの皮をナイフで剥き、適当な大きさでカットして鍋に入れていく。水を入れた鍋が煮え立つと、干し肉を加えて塩胡椒で味を調えるだけの簡単なスープだ。

「おいしそうな匂いですね」

 ミリアが木製の器を用意しながら言った。その言葉に救われる気がして、アキラは自然と笑顔になれる。

「トマトでもあればちゃんとしたシチューにでもなるんだろうなぁ……市販のルーを溶かすだけの身としてはこの世界の料理は最低限のレベルが高すぎる」

「……アキラさんの故郷の食べ物も、きっと美味しいのでしょうね」

 そう言って彼女は遠くを見るような目をした。

「歴史を重ねてるからね。最終的に美味しいものだけが残った」

「こちらも負けてはいませんよ?明日の朝は美味しいベーコンとスクランブルエッグを作ります!」

「楽しみにしてるよ……」

(ベーコンもスクランブルエッグもあるんだよなぁ……)

 他愛もない会話。こうした時間がどれほど貴重なものか、少年は既に身に沁みて理解していた。



 就寝前、エレナは一人で夜空を見上げていた。星空に浮かぶ双子の月。それを見つめる瞳には憂いの色が揺れている。

「……あの日と同じ」

 その呟きは風に掻き消えたが、確かに苦渋の記憶を呼び覚ましている証だった。

 エレナの故郷――辺境の小村はかつて平和で豊かだった。畑には作物が実り、牛や鶏の鳴き声が響き、子供達の笑い声が絶えることのない幸せな日々。だがそれも魔王軍の侵攻によって終わりを告げる。

 炎に包まれた家屋、泣き叫ぶ村人の姿、血に染まった夕焼け。その地獄絵図の中で彼女はただ一人生き残った。家族を失い、友を失い、全てを奪われたあの日。

 剣を取り戦うと誓ったのも、全ては平和を取り戻すため。大切な人々を守るために。

(私はもう……何も失いたくない)

 強く拳を握りしめると、小刻みに震えが伝わってきた。それを抑え込むように深く息を吸い込んでから、彼女はゆっくりと仲間たちの眠る小屋へと戻っていった。



 同じ頃、アキラもまた寝付けずに外へ出ていた。異世界の空は美しく壮大で、そこにあるはずの人工的な光害のない星々は圧倒的な輝きを放っている。

「こんばんは」

 背後から掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには銀髪の少女――セシリアの姿があった。

「ごめん、起こしちゃったかな」

「ううん、私も寝付けなかっただけ。エレナも起きていましたし」

「早めに休むって言ったじゃん……」

 彼女は少年の隣に立った。

「星空、綺麗だね」

「うん……俺のところと違って他の明かりが少ない分、もっとずっと」

 しばし沈黙が流れる。虫の声だけが静かに響いていた。

「怖かった?今日の戦い」

 突然の問いにアキラは少し戸惑った様子を見せた。

「……怖かったよ。たぶんいくら経験しても変わらないと思う」

 正直な答えだった。現代日本で平凡な高校生活を送っていた彼にとって、人を傷つけるということ自体が遥か遠い世界の出来事だった。それが今では命を奪い合う日常になってしまっている。

「それでいいんだよ」

 セシリアは微笑みながら言った。

「生きている以上、死と隣り合わせだ。それを忘れた時こそ本当に恐ろしいことになる」

「……哲学者みたいなこと言うな」

「魔法使いだからね。学問の方には精通してるよ」

 二人で小さな笑い声を交わす。その穏やかな時間はアキラの心を幾分か軽くしてくれたようだった。

「ありがとう。少し楽になった」

「どういたしまして。じゃあそろそろ戻ろうか、ミリアまで起きて誰も居なかったら心配する」

 そう言って踵を返す銀髪の少女。
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