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4話「黒い霧の魔物と特製ベーコンIV」
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月が昇り始めた頃。四人は松明片手に暗い杉林を進んでいた。湿った土の匂いに混ざり、焦げたような異臭が漂い始める。
それは生命が焼け付く際に生じる独特の臭気だった。
「この奥だ」
セシリアが杖先を微かに傾けた。結晶化した魔法文字が彼女の青い瞳に映り込み、神秘的な光輪が浮かび上がる。
「《索敵》の術式……かなり強い反応だな」
エレナが剣を握りしめた。
「来るぞ──!!」
黒い靄が噴出した。それは物理法則を嘲笑うように樹木をすり抜け、一行の目の前で膨張していく。粘液状の塊が蠢き、無数の触手めいた細糸を垂らしている。それぞれの先端から滴る液体は地面に落ちた途端に枯草を腐食させていた。
「なんだよ……これ」
アキラが後ずさる。現代日本の生物図鑑では決して目にすることはない異形の存在がそこにあった。
「"影蟲(シャドウワーム)"だね。対象を毒で無力化して溶解液で溶かして飲み込むんだ。二人は下がって、ミリアは防御を」
ミリアが両手を組み祈るように呪文を紡ぐ。
「聖光よ──聖女の領域≪サンクチュアリ≫」
淡い蒼光が4人を包み込んだ。それは邪悪な存在への障壁となり、瘴気の侵入を防ぐ。
「これで三十秒程度なら持ちこたえられます!早く決めてください!」
「了解」
セシリアが杖を高く掲げた。冷気が唸りを上げて凝縮されていく。
「凍てつけ──絶対零度の氷槍≪アブソリュートゼロ≫」
絶対零度の魔弾が射出された。無数の影蟲をまとめて貫き、爆ぜるように巨大な氷柱を形成していく。悲鳴とも呻きともつかぬ異音が辺りに木霊した。
氷像と化した魔物の残骸は粉雪となって消滅していく。
■
「ありがとうございます!本当にありがとうございましたぁ!」
村長宅にて抱きついてきた老体をセシリアが困ったように受け止めている。その唇の端には微かな愉悦の色が浮かんでいる。部屋中が幸福な混乱に包まれていた。
「約束のベーコンです!ぜひご賞味を!」
テーブルには山盛りの燻製ベーコン。脂身が芸術品のように艶やかに輝く。
エレナが鼻先を寄せて恍惚の表情を浮かべた。
「この香り……最高!」
「ベーコン万歳!」
ミリアまでもが拳を挙げている。彼女の意外な一面を目撃したアキラは苦笑するしかなかった。
「ところでこれって魔物肉とかじゃないよね?」
「とんでもございません!養豚業の盛んな村なので……ただし昨今は餌代がかさんで数を絞っていますが……」
村長が涙ぐみながら続けた。
「ですから皆さんが魔物を退治してくださったおかげで安心して畜産を続けられます」
その言葉にセシリアは照れくさそうに後頭部を掻いた。褒められ慣れていないのだろう、どうしても落ち着かないのだ。
「とりあえずご飯にしましょうか」
ミリアが冷静に話を切り替える。
■
その日の晩餐は至福の一言だった。
アキラが炭火でベーコンを焼き、ミリアがスクランブルエッグを作る。セシリアは魔法で焙煎したコーヒー豆を粉末にし淹れる担当。エレナはただ食べる担当だ。
ジュウジュウと音を立てる脂身が食欲をそそる香りを部屋中に満たしていく。
「いただきます!」
フォークを刺して一口。ジューシーな旨味が口内を駆け巡り、全員が無言で咀嚼した。
「……美味すぎ」
エレナが涙を浮かべる。ミリアも同意するように何度も頷いている。
アキラはそんな二人を見て少し複雑な気持ちになった。自分も満足だったが、やはり手持ちの調味料の不足を感じずにはいられない。
「やっぱり塩だけでも補充したいな」
ぽつりと漏らした言葉にセシリアが微笑んだ。
「売ってればいいね」
それは生命が焼け付く際に生じる独特の臭気だった。
「この奥だ」
セシリアが杖先を微かに傾けた。結晶化した魔法文字が彼女の青い瞳に映り込み、神秘的な光輪が浮かび上がる。
「《索敵》の術式……かなり強い反応だな」
エレナが剣を握りしめた。
「来るぞ──!!」
黒い靄が噴出した。それは物理法則を嘲笑うように樹木をすり抜け、一行の目の前で膨張していく。粘液状の塊が蠢き、無数の触手めいた細糸を垂らしている。それぞれの先端から滴る液体は地面に落ちた途端に枯草を腐食させていた。
「なんだよ……これ」
アキラが後ずさる。現代日本の生物図鑑では決して目にすることはない異形の存在がそこにあった。
「"影蟲(シャドウワーム)"だね。対象を毒で無力化して溶解液で溶かして飲み込むんだ。二人は下がって、ミリアは防御を」
ミリアが両手を組み祈るように呪文を紡ぐ。
「聖光よ──聖女の領域≪サンクチュアリ≫」
淡い蒼光が4人を包み込んだ。それは邪悪な存在への障壁となり、瘴気の侵入を防ぐ。
「これで三十秒程度なら持ちこたえられます!早く決めてください!」
「了解」
セシリアが杖を高く掲げた。冷気が唸りを上げて凝縮されていく。
「凍てつけ──絶対零度の氷槍≪アブソリュートゼロ≫」
絶対零度の魔弾が射出された。無数の影蟲をまとめて貫き、爆ぜるように巨大な氷柱を形成していく。悲鳴とも呻きともつかぬ異音が辺りに木霊した。
氷像と化した魔物の残骸は粉雪となって消滅していく。
■
「ありがとうございます!本当にありがとうございましたぁ!」
村長宅にて抱きついてきた老体をセシリアが困ったように受け止めている。その唇の端には微かな愉悦の色が浮かんでいる。部屋中が幸福な混乱に包まれていた。
「約束のベーコンです!ぜひご賞味を!」
テーブルには山盛りの燻製ベーコン。脂身が芸術品のように艶やかに輝く。
エレナが鼻先を寄せて恍惚の表情を浮かべた。
「この香り……最高!」
「ベーコン万歳!」
ミリアまでもが拳を挙げている。彼女の意外な一面を目撃したアキラは苦笑するしかなかった。
「ところでこれって魔物肉とかじゃないよね?」
「とんでもございません!養豚業の盛んな村なので……ただし昨今は餌代がかさんで数を絞っていますが……」
村長が涙ぐみながら続けた。
「ですから皆さんが魔物を退治してくださったおかげで安心して畜産を続けられます」
その言葉にセシリアは照れくさそうに後頭部を掻いた。褒められ慣れていないのだろう、どうしても落ち着かないのだ。
「とりあえずご飯にしましょうか」
ミリアが冷静に話を切り替える。
■
その日の晩餐は至福の一言だった。
アキラが炭火でベーコンを焼き、ミリアがスクランブルエッグを作る。セシリアは魔法で焙煎したコーヒー豆を粉末にし淹れる担当。エレナはただ食べる担当だ。
ジュウジュウと音を立てる脂身が食欲をそそる香りを部屋中に満たしていく。
「いただきます!」
フォークを刺して一口。ジューシーな旨味が口内を駆け巡り、全員が無言で咀嚼した。
「……美味すぎ」
エレナが涙を浮かべる。ミリアも同意するように何度も頷いている。
アキラはそんな二人を見て少し複雑な気持ちになった。自分も満足だったが、やはり手持ちの調味料の不足を感じずにはいられない。
「やっぱり塩だけでも補充したいな」
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