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5話「始まりの話」
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馬車に揺られながら近隣の町を目指す道中。アキラは陽の光を浴びながらウトウトしていた。疲労困憊とはいえ、長距離移動はやはり睡魔を連れてくるものだ。
俺はふと思い出した。
この香りが当たり前になるまでの記憶を。
■
「……は?」
突如として見知らぬ宮殿の大ホールに立っていた。足元は宝石で彩られた大理石。煌びやかな天井画が視界いっぱいに広がる。
全身が汗でべったりとした制服姿で立ち尽くす俺を、真紅のマントを翻した国王が見下ろしていた。
「異邦の若者よ!汝の名は何と言う?」
玉座から響く威厳ある声。しかし俺の頭は完全に真っ白だ。
「アキラ……です」と蚊の鳴くような声で答えるのが精一杯だった。
「うむ!良い響きだ!アキラ殿!」
国王が立ち上がり、両手を広げた。「予言書に記された『異世界の勇者』は汝であろう!魔王軍の脅威に対抗すべく、魔王討伐の旅に出てくれたまえ!」
「…………は?」
言葉が脳内でガラガラと崩れ去る。勇者?魔王討伐?
そんな非現実的な言葉を真剣な表情で連呼される俺の心境など誰にも理解できないだろう。
「報酬は莫大な富と、世界が救われた暁には望みの土地を与えよう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕はただの高校生です!武器も持ってないし、ましてや魔王なんて……!」
慌てて抗議すると、隣で控えていた騎士風の男が嘲笑を含んだ声で言った。
「異世界人のくせに何を訳の分からないことを」
国王も困惑した表情を浮かべ、ため息をついた。
「勇者というのは選ばれし存在。汝には特別な力が宿っているはずだ。それを使わずして何ができるというのか」
「だから違うんですって!そもそも勝手に召喚しておいて、いきなり戦えなんて無茶苦茶じゃありませんか!」
俺の必死の訴えは玉座の間を虚しく反響するだけで、誰一人として納得してくれない。
あまりの理不尽さに言葉を失っていた。
結局無理やり承諾させられ、武器と僅かな路銀を渡されて城門の外へ放り出されたのだった。
「横柄すぎる……」
「アキラくん、起きましたか。次の町が見えてきましたよ」
ミリアの柔らかな声で現実に戻される。窓外には大きな石造りの城壁が聳え立っていた。
「おはよう。あれが?」
「そう、交易都市リンドブルクだよ」
エレナが身を乗り出して教えてくれる。
「塩、胡椒、砂糖、バター、チーズ、ワインにオレンジ……全部手に入るらしい!」
「オレンジは時期なだけでしょ?」
セシリアが呆れたように問いかける。
アキラは「この時期というと、オレンジというかデコポンみたいな品種かな?」などと考えていた。
「市場調査の重要性は基本中の基本だ!商人の話だと海沿いだから漁港もあり新鮮な魚介類も楽しめるってさ!」
「魚介……」
アキラの胃袋がキュルルと鳴った。異世界での日々は決して安泰ではないが、それでも食の喜びだけは唯一の救いだった。
馬車は石畳の街道をガタガタと進んでいく。町全体を守る高い城壁が徐々に近づいてくるにつれ、人々の喧騒や行商の声が風に乗って届き始めていった。
アキラは人の流れをぼーっと眺める。
この町にも生活している人が居て、農業・交易などで多くの人の生活を支えている。それを守らなければ、この世界の人類は滅ぶ。
国王もわかっている。だから魔王討伐に「行かせる」のだ。
(人の生活を盾に、自分は動かず、他者を追い立て責任を押し付ける……)
「社会構造っていうのは……」
「アキラ君?」
ぽつりとつぶやいた言葉にエレナが首を傾げた。彼女はアキラの表情に何か感じ取ったのか、しばらく無言でこちらを見つめていた。
「いや、根本はいつの時代も変わらないなぁって……ただ、それだけ」
俺はふと思い出した。
この香りが当たり前になるまでの記憶を。
■
「……は?」
突如として見知らぬ宮殿の大ホールに立っていた。足元は宝石で彩られた大理石。煌びやかな天井画が視界いっぱいに広がる。
全身が汗でべったりとした制服姿で立ち尽くす俺を、真紅のマントを翻した国王が見下ろしていた。
「異邦の若者よ!汝の名は何と言う?」
玉座から響く威厳ある声。しかし俺の頭は完全に真っ白だ。
「アキラ……です」と蚊の鳴くような声で答えるのが精一杯だった。
「うむ!良い響きだ!アキラ殿!」
国王が立ち上がり、両手を広げた。「予言書に記された『異世界の勇者』は汝であろう!魔王軍の脅威に対抗すべく、魔王討伐の旅に出てくれたまえ!」
「…………は?」
言葉が脳内でガラガラと崩れ去る。勇者?魔王討伐?
そんな非現実的な言葉を真剣な表情で連呼される俺の心境など誰にも理解できないだろう。
「報酬は莫大な富と、世界が救われた暁には望みの土地を与えよう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕はただの高校生です!武器も持ってないし、ましてや魔王なんて……!」
慌てて抗議すると、隣で控えていた騎士風の男が嘲笑を含んだ声で言った。
「異世界人のくせに何を訳の分からないことを」
国王も困惑した表情を浮かべ、ため息をついた。
「勇者というのは選ばれし存在。汝には特別な力が宿っているはずだ。それを使わずして何ができるというのか」
「だから違うんですって!そもそも勝手に召喚しておいて、いきなり戦えなんて無茶苦茶じゃありませんか!」
俺の必死の訴えは玉座の間を虚しく反響するだけで、誰一人として納得してくれない。
あまりの理不尽さに言葉を失っていた。
結局無理やり承諾させられ、武器と僅かな路銀を渡されて城門の外へ放り出されたのだった。
「横柄すぎる……」
「アキラくん、起きましたか。次の町が見えてきましたよ」
ミリアの柔らかな声で現実に戻される。窓外には大きな石造りの城壁が聳え立っていた。
「おはよう。あれが?」
「そう、交易都市リンドブルクだよ」
エレナが身を乗り出して教えてくれる。
「塩、胡椒、砂糖、バター、チーズ、ワインにオレンジ……全部手に入るらしい!」
「オレンジは時期なだけでしょ?」
セシリアが呆れたように問いかける。
アキラは「この時期というと、オレンジというかデコポンみたいな品種かな?」などと考えていた。
「市場調査の重要性は基本中の基本だ!商人の話だと海沿いだから漁港もあり新鮮な魚介類も楽しめるってさ!」
「魚介……」
アキラの胃袋がキュルルと鳴った。異世界での日々は決して安泰ではないが、それでも食の喜びだけは唯一の救いだった。
馬車は石畳の街道をガタガタと進んでいく。町全体を守る高い城壁が徐々に近づいてくるにつれ、人々の喧騒や行商の声が風に乗って届き始めていった。
アキラは人の流れをぼーっと眺める。
この町にも生活している人が居て、農業・交易などで多くの人の生活を支えている。それを守らなければ、この世界の人類は滅ぶ。
国王もわかっている。だから魔王討伐に「行かせる」のだ。
(人の生活を盾に、自分は動かず、他者を追い立て責任を押し付ける……)
「社会構造っていうのは……」
「アキラ君?」
ぽつりとつぶやいた言葉にエレナが首を傾げた。彼女はアキラの表情に何か感じ取ったのか、しばらく無言でこちらを見つめていた。
「いや、根本はいつの時代も変わらないなぁって……ただ、それだけ」
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