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この力、返品できますか?
しおりを挟む人には見えないものが“視える”としたら、どんな人生を送るだろうか。
人に自慢する?見えない何かと対話する?はたまた、その力で荒稼ぎをするだろうか。
俺は、そんなことは望まなかった。
ただ、平凡な人生を送ることを願っていたのに。
*****
大学からの帰り道、俺こと柳 はじめ はいつも通りの気分の重さで歩みを進める。
突然だが、自己紹介をしよう。
高校ではサッカー部に所属していたが、特に優秀と言うわけでもなくベンチを温めていたので、大学受験では一般試験を受け、平均的な大学の文系学部に進学。
バイトは居酒屋のホールをついこの間始めた。ちなみに、友達が欲しくて入った興味もないオールラウンド系サークルの活動には、月一回顔を出す程度。
自分で言うのもなんだが、正直どこにでもいるようなありふれた人間だ。
……ただ、一点を除いては。
俺は人気の無い路地に差し掛かると、途端に抜き足差し足でこの道を通り過ぎようと試みる。
なんでわざわざコソ泥のように歩いているのか、疑問に思う事だろう。
俺には、人には言えない秘密がある。はた迷惑な話だが、俺は普通の人には見えないものが"視えてしまう"んだ。
今この奇怪な行動をとっているのも、視界の端で地面に座り込んでいる、肌まで真っ黒な子供を刺激しないようにしているわけだ。
(視えない、視えない、俺には全然視えてないからな! )
ちなみに、冒頭の問いに対する回答は、何が視えようとも、ただひたすら無視する。それが俺の選択した最善策だった。
例え、道の端で石ころをボールがわりにして遊ぶ頭の長い2頭身の子供がいようと、お地蔵さんだと思っていたうちの1体がひとりでに歩き出そうとも、鳥が留まっているのかと思って覗き込んだ窓の外に人面が見えようとも……
「絶対に視えてないんだ…! 」
そう自分に言い聞かせるが、他人に見えてないものが視えてしまっているのは俺自身が一番よく分かってる。
視界の端で、なお動かずに存在しているモノに気付かれないよう、深くため息を吐いた。
俺は、日頃から視界にちらついて驚かせてくるコイツらを“妖怪”と呼んでいた。
日本古来から伝わる怪異の伝承。諸説あるものが多いが、大御所は大体所以や姿が決まっている。
人知を超える現象が起きた時、人々はその現象を処理しきれず、そこに視えない力が働いているとした。
そうする事で、自分達を恐怖から遠ざけることが出来たし、一種の諦観さえも生まれていたんだろう。
その適応行動はいつしか人ならざるモノ、妖怪を生み出すに至った。
科学技術が発達した今、そういった現象の多くは解明されているはずなのに……
はあ、と溜息をつく俺の目の前で、尾が二つに別れた猫が堂々と毛繕いをし始めた。
「なんでこんなモノが視えちゃうんだよぉおおお!! 」
俺の大声に驚いたのか、猫の物の怪は一瞬俺に目配せして、足早に去っていった。
なにも昔からこの類のモノを視ていたわけではない。とあるきっかけで、後天的に視えるようになってしまったのだ。
*****
「やべぇっ! 」
サッカー部に所属している俺の朝は早かった。
春休み明けの初っ端にあった、全体ミーティングの日。早起きできたからとのんびり支度をしていたのだが、ふと気がつくと、とっくに出発の時間は過ぎ、もはや朝練開始の時間になろうとしていた。
俺はサッと血の気が引いていくのを感じた。ウチの学校のサッカー部は朝練がキツイと有名なのだが、遅刻しようものなら朝練と同じ分量の自主練を昼休みに課されるのだ。
そのため、決して遅れてはならない、という習わしが部員間で脈々と受け継がれている。
「まずい、あと10分で朝練スタートするぞ……! 」
俺は学校へと向かう道を思い切り駆け抜けていたのだが、曲がり角を曲がった瞬間、足元にごみ袋のような黒い塊が落ちていることに気が付いた。
普段からトレーニングをしている俺は、条件反射的にその塊を飛び越して避けることに成功した。念のためと、振り返って観察してみると、それが袋なんかではなく生き物であることに気がつく。
「……か、烏? 」
よくよく見てみると、その塊は何かの衝撃で羽を散らして怪我を負った様子の烏だった。
円らな瞳で、自身を飛び越えた俺をじっと見ている。その瞳には確かな知性が感じられ、奇妙な感覚になったことを覚えている。
「だ、大丈夫か?怪我、してるんだよな? 」
烏に言葉が通じるはずもないのに、俺はその知性的な生き物に話しかけてしまっていた。
すると不思議なことに、烏はカアと鳴き、俺に返事をするかのように嘴をカチカチと鳴らした。
「うーん……どうすっかな。怪我してる動物を手当てしたこともないしな」
だが、この弱った烏を見捨てて部活になんて行けっこない。俺は昼休みを返上する覚悟を決め、近くの動物病院までひとっ走りしたのだった。
********
その後、烏は快方に向かい、保護した俺の家で数日過ごした後また空へ飛び立っていった。その時のことは、珍しく良いことができたと、俺の記憶に強く残っている。
……だけど、予想外の問題が起こった。
烏が飛び立っていった直後から、俺は変なモノを視るようになったのだ。
それこそ、最初は目がおかしくなったのかと疑って、眼科にも行ってみたりしたが異常はなし。むしろ、その眼科医の先生の肩の上で、小さい白い人型のモノがこちらをジッと見ていたことに気が付き、これは俺にしか視えないんだと確信した。
それからの俺は、徹底的に妖怪を無視することにしている。
「コイツらが視えるようになってから、約2年……もう限界だ」
視えてしまうが故に、他の人とは違う行動を取っている自覚はあるんだ。好きでやっていたサッカー部も、試合中にボールと見間違えて丸い妖怪を蹴りあげたのをキッカケに辞めてしまった。
あの時は恥ずかしかった。周りから見たら、急に虚空を蹴り上げたようなものだ。めちゃくちゃ笑われて“空気蹴りの柳”という渾名まで付いたほどだ。
友達にも"最近、お前変じゃね?"なんて言われて距離を置かれてしまった。
大学に進学してからも災難は続き、バイト先でも視界の端をウロつく妖怪達に驚く俺を店長が気味悪がって、つい昨日クビの連絡を受けたところだ。
このままでいたら、人間としての充実した生活が送れないと考えた俺は、執念で記憶を辿り、あの知性的な烏の仕業ではないかと思い至ったわけだ。
「あの烏を見つけて、なんとしてでも普通の人間に戻してもらわなければ……! 」
って言っても、烏なんて無数にいるしなぁ……しょぼくれる俺の足に、風で飛ばされてきた何かのビラが纏わり付いた。
ふと気になって拾い上げてみると、ビラには達筆な文字とぐちゃぐちゃな地図が書かれていた。
なんだか内容が気になり眺めてみるも、現代人に読ませる気があるのか疑いたくなる程の達筆さだ。
「えっと……“お困り事、何でも解決 よろずや あやかし”? 何だこれ、胡散臭っ! 」
俺はすぐにビラを放り投げようとしたが、ポイ捨てはいけないなと思い直す。
捨てるにも忍びなくなったビラを手に、帰り道を急ごうとしたのだが……その時の俺は、2年間の溜まりに溜まったストレスで相当参っていたらしい。
「……でも、変なモノが視えるなんて、変な場所でしか相談できないよな」
俺は進路を変更し、怪しげなビラに書いてあるお世辞にも上手いとは言えない地図を頼りに、寄り道をしてみることにしたのだった。
……後ろから俺を尾ける、小さな足音には気が付かないまま。
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