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しおりを挟む「しっかし、ネーミングが悪いよな……あやかしってなんか気味悪いし、相談者も寄り付かないんじゃないか?」
(とは言いつつも、上手くカモられてくれそうな俺という人間が向かっているんだけどな)
この店に疑念は拭えないものの、ええいやったれ!の気持ちで自暴自棄になりながら目的地を目指す。
この地図通りにあるとすれば、そろそろ看板でも入り口でも、何かしらは見えてきそうなものなんだが…周囲を見回してみても、住宅街が広がるばかりで、何の目印も見当たらない。
特筆すべきことといえば、目の前にある日本家屋が富豪の御屋敷かと見紛うほどの大きさと造り込みだということぐらいか。
「この地図、やっぱり間違ってんじゃないのか?そもそも、どっちが北でどっちが南なんだ…」
地図を回したり傾けたりしてみていると、どこからか凛とした声が聞こえてくる。
「よろずやに用か」
てっきり人がいないと思い込んでいたため、俺は思わず飛び上がって声の発生源を探した。だが、いくら探せども、話しかけてきたであろう人どころか、遠くの人影でさえも見えない。
妖怪は視えても、ホラー体験の場数を踏んでいる訳ではないから、怖いものは苦手だ。
俺は怯えつつも、相手の言葉を待った。
「それならば、目の前の門を3度打ち付けると良い。店主は中に篭りきりでな、客が門を叩かなければ動こうともしない……呆れたものだ」
内容から察するに、ご丁寧によろずやを見つけられない俺にヒントをくれたようだった。相変わらず姿は見えないが、ここにずっと居続けても仕方ない。事情通なこの声に従う他ない状況な訳だし、と腹を決めて目の前の日本家屋の数寄屋門を3度叩く。
すると、何かを引きずるようにゴゴゴゴ……と地面が鳴動し、それに呼応して扉がゆっくりと開かれて行く。
「お、お邪魔しま……え、誰も居ない? 」
門を開けてくれた人に挨拶でも、と思い覗き込んだ家屋の中は壮観な庭が広がるばかりで、やはり此処にも人影がない。
庭は日本庭園然としており、石や水を効果的に取り入れた龍門瀑は見事な出来で、こんな場所が家の敷地内に広がっていることが信じられないほどだ。……というか、外から見た敷地の広さと辻褄が合わない気がするんだけど、どういう構造なんだ。
キョロキョロとあたりを見回していると、スルリと足元から白いモフモフしたものが抜け出てくる。庭の水路を避け、少し先に進んだところで俺を振り返りちょこんと座った。
「あれ、君さっきの……」
って、妖怪じゃんか。あまりにも猫らしい振る舞いをしていたから、安易に話しかけようとしてしまった。
約2年間も頑張って無視し続けてきたのに、周囲にも人がおらず気が緩んでいた。
「ふふーん! 」
俺は鼻歌を歌いながら、猫など見えていないかのように庭を通り抜けようとしたのだが、先の割れたの尻尾で器用に足を捕らえられてしまった。
そして、そのモフモフとした口から、あの時の凛とした声が発せられる。
「おい、吾輩が見えているんだろう。人間にしては珍しいにゃ」
「し、喋ったぁぁぁああ!! 」
「に"ゃっ?! 」
予想外だ。斜め上というか、正反対だ。妖怪が言葉を発するなんて、2年間で初めての事例だった。
俺の声に仰天したらしい猫の妖怪は、腹を見せてひっくり返ってしまう。
「おい人間っ!その大声はなんとかならなんのか!喧しくてかなわんわ! 」
「す、すみません……? 」
居住まいを正してから自分のことを猫又と名乗った妖怪は、付いて来いと俺に声をかけ、慣れた様子で庭をずんずんと突き進んでいく。
成り行きでついてきちゃったけど、明らかにやばい場所だよな、ここ。
“よろずや あやかし”という名前は妄言でも誇張でもなんでもなく、本当に妖怪が出入りする場所だったんだ。
……気がつくのが遅すぎた、猫又に見つかってしまったし、もう引き返すことも出来ない。
俺は自分の不運を嘆きながら、猫又のフリフリと振られる尻尾の後をついて行く。
少し歩くと、家屋の母屋が見えてきて、縁側にダラリと寝そべる人影を発見した。
「おい、無精者。珍妙な客だぞ、吾輩が連れてきてやったんだ。早く持て成さんか」
猫又はその人に近付くと、尊大な態度でその人影の上に乗り上げ、カリカリとその頭を引っ掻き始めた。
引っ掻かれた人物はようやく上体を起こすと、眠そうに欠伸をしながら猫又の首根っこを引っ掴む。
「五月蝿い、何の用だ…この前の依頼は熟しただろ」
「今日の客は吾輩じゃない、あそこの人間にゃ」
猫又の尻尾が俺をズビシ!と指す。それにつられるようにして、俺に視線を向けたその人は、俺を認めると僅かだが目を見開いた。
猫又やこの人の空気感は似通っている。ということは、やっぱりこの人も…
「人間が何の用だ」
ああやっぱり、姿は人間でも“妖怪”なんだ。
1ミリほど期待していた、この人が人間である説も数秒で打ち砕かれ、俺が苦労して積み重ねてきた平穏な2年間は呆気なく崩れ去っていった。
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